第28話 切れた糸
私は、エルード様とシャルリナとともにゴガンダ様の部屋に辿り着いていた。
部屋の戸は開かれており、中の様子はすぐにわかった。
ベッドの上には、目を瞑ったゴガンダ様がいる。その手を握るスレイナ様は、とても辛そうだ。
傍らには、グルラド様やサリーハ様もいる。二人とも、浮かない顔をしている。それが何を意味するかは、明白だ。
「……父上」
「ああ……逝ってしまったよ」
「……そうですか」
グルラド様の言葉に、私は頭の中が真っ白になった。
せっかく会えた父親との別れが、こんなにも早く訪れた。その事実は、少し遅れて私の心臓を締め付けてくる。
もっと話したいことがあった。もっと一緒にいたかった。そんな思いが溢れ出してきて、胸がとても痛い。
「……なんとなく、こうなると思っていました」
そんな中、聞こえてきたのはスレイナ様の声だった。
長年連れ添った夫を失った彼女は、こうなることを予期していたようである。
「あなたに会うことが、彼の最期の望みでした。その望みを果たして、糸が切れてしまったのでしょう」
「そんな……」
「望みを果たせたのですから、幸せな最期だったと思います。あなたにとっては、辛いことかもしれませんが……」
「幸せな……最期」
スレイナ様の言う通り、ゴガンダ様は幸せな最期だったのかもしれない。
私と会うこと。それが、彼の最期の望みだった。それを果たせたのだから、未練なく逝けるということなのだろうか。
だが、仮にそうだったとしても、私はとても辛い。
私は、ゴガンダ様と、父ともっと話したかった。会っただけで満足なんて、して欲しくなかったのだ。
そう思った瞬間、目から涙が流れてきた。
色々な思いが、あふれ出てくる。あまりに早すぎる別れに、私の感情は爆発してしまった。
目から涙が止まらない。今日初めて会った父は、いなくなってしまった。その現実に、私はとても耐えられそうにない。
「……お前達は、部屋に戻っていろ」
「エルード様……」
「ゆっくりと……心を落ち着かせるのだ」
そんな私と隣で涙を流しているシャルリナに、エルード様はそう言ってきた。
確かに、これ以上私達にできることはない。後は、エルード様達に任せて、私達は心を落ち着かせるべきなのだろう。
「……二人だけで、戻れるか?」
「……はい。行こう、シャルリナ……」
「ううっ……」
私は、シャルリナの手を引いて、部屋から離れていく。
動かなくなったゴガンダ様から離れられたからか、少しだけ心は楽になった。
まだ涙は止まらないが、シャルリナとともに部屋に戻るくらいはできるだろう。
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