第7話 重い罪

 私は、エルード様とともに、ボドール様の前に立っていた。

 彼に対して、求めることはただ一つである。私の祖父母が、借金をしたという証明である借用書を返してもらうことだ。


「それで、借用書はどこにある?」

「もちろん……用意してあります」


 エルード様の質問に、ボドール様ははっきりと答えた。

 思っていたよりも、彼は堂々としている。エルード様は、焦っていると判断したようだが、とてもそうは思えない。

 ボドール様は、机の中から一枚の書類をエルード様に渡した。私とエルード様は、その書類に目を通していく。


「ほう……」

「これは……」


 書類を見て、私は少し驚いた。借用書は、確かに実在していたのである。

 私の予想は、外れていたのだ。母は、借金を返済していなかった。私の思いは虚しく、それが事実だったのだ。


「……こんな物で、俺の目が誤魔化せると思っていたのか?」

「え?」

「どうやら、お前は本物の借用書を持っていないようだな?」


 しかし、エルード様は私とは違う思いを抱いていたようである。

 どうやら、彼は借用書が偽物だと認識しているようだ。私はまったくわからないが、この書類には何かおかしい部分があるのかもしれない。


「な、何を言っているのですか? それは、本物に相違ありません」

「……ふん、お前は何もわかっていないようだな? この俺が、根拠もなくこんなことを言っていると思っているのか?」

「ま、まさか……」


 エルード様の言葉に、ボドール様は驚いていた。

 その反応は、図星であるとしか思えない反応である。やはり、この借用書は偽物であるようだ。

 エルード様は、特に具体的なことは言っていない。だが、何か根拠があるようだ。

 私は、もう一度借用書を見てみる。しかし、まったくわからない。一体、どこに間違いがあるのだろうか。


「図星であるようだな? お前は、このアルシアの母が借金を返していたにも関わらず、不当に働かせていたのだな?」

「うぐっ……」

「何も言わないなら、肯定したということだな?」


 ボドール様に対して、エルード様からの問いかけに答えなかった。

 そういう反応をするということは、この借用書は本当に偽物なのだろう。

 ということは、母は借金を返していたのである。母は、私が信じていた通りの人間だったのだ。


 そして、ボドール様は私に母の借金が残っていると働かせていたのである。それは、とても許せないことだ。

 私が働かされていたのもそうだが、何より母の思いを踏みにじっていたことが許せない。 優しかった母が何も言わなかったのは、私に憂いを残さないためだったはずだ。その母の思いが、裏切られたのである。こんなことをされて、目の前の相手を許せるはずはない。


「お前の罪は重い。お前がしたことは、ここにいるアルシアとその母を侮辱した行為だ。俺はお前を許さないと宣言しておこう」

「ぬぐぐ……」

「覚えておけ。近い内に、また会うことになるだろう。その時までに、精々色々と準備しておくのだな」


 それだけ言って、エルード様は身を翻した。

 私も、そんな彼について行く。

 ボドール様のことは、絶対に許せない。彼も、そういう思いを持ってくれているようだ。


 情けない話だが、私個人にはボドール様をなんとかできる力はない。だが、エルード様が協力してくれるなら、それも可能だろう。

 それを成し遂げてくれるなら、私はなんでもできる。そう思う程に、私はボドール様が許せないのだ。


 こうして、私達はボドール様との話を終えたのだった。

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