第6話 やるべきこと

 私は、エルード様と一緒に馬車の前まで来ていた。

 荷物を積み終わり、これでいよいよこの屋敷ともお別れだ。


「さて、このまま馬車でこの屋敷を去りたい所だが、もう一つやることがある」

「やることですか?」

「お前の借金は、我々が負担することにした。既に金銭の受け渡しも終えている。故に、借用書をもらわなければならない」

「借用書ですか……確かに、返してもらわなければいけませんね」


 エルード様の言う通り、借用書はもらっておかなければならないものである。

 そのことに、特に違和感はない。ただ、彼の表情が少し気になった。エルード様は、少し神妙な顔をしているのだ。


「……どうかしましたか?」

「これは俺の思い過ごしかもしれないが、奴は借用書を持っていない可能性がある」

「え?」

「お前と話す前に、俺はボドールと話をしていた。その際、借用書の話をした所、奴は少し焦っていたのだ」

「それは……」


 エルード様の言葉に、私は少し驚いていた。

 借用書がない。もしそんな事実があるとしたら、それは何を表しているのだろうか。

 私は額から、ゆっくりと汗が流れて来る。それは、私があることを考えているからだ。


「……エルード様、実はずっと気になっていたことがあるのです」

「なんだ?」

「母は、ゲルビド家に仕えていました。それには、祖父母の借金が関係している。それは、私も知っていました。母から直接聞いた訳ではなく、近所の人達がそういう話をしているのを何度か聞いたのです」

「ほう?」

「ですが、私の母は死の間際まで、借金のことなど言っていませんでした。そのことが、私はずっと気になっていたのです。普通に考えたら、私に何か一言でも言い残すとは思いませんか?」

「……確かに、そうだな」


 私が考えていたのは、絶対にあってはならない事実である。

 だが、色々と状況を整理していくと、それはとてもしっくりくる結論なのだ。

 最も、それは私の主観でしかないかもしれない。だから、目の前にいるエルード様に、相談する必要があるのだ。


「私がラーファン公爵家の人間であると知って、その疑念はもっと深まりました。借金が残っていて、自分が死ぬというなら、母はラーファン公爵家を頼ると思うのです」

「ほう……」

「母は……優しい人でした。そんな母が、私に借金を背負わせたまま亡くなるなんて、どうも納得できなかったのです。だから、もしかしたら……」

「……お前の母親は、借金を既に返済していたということか」


 エルード様の言葉に、私はゆっくりと頷く。

 母の性格から考えて、その結論が最も納得できるのだ。

 もっとも、それは私の理想でしかないかもしれない。私が母をよく理解していなかっただけで、本当はもっと別の理由だった可能性もある。

 だが、私は母を信じたい。あの優しい母が偽りではなかったことを、私は信じたいのだ。


「……ついて来い」

「え?」

「お前の結論が正しいかどうか、確かめに行くぞ」

「……はい」


 私は、エルード様について行く。

 これから、ボドール様の元に行き、真実を確かめるのだ。

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