第3話 変化した態度

 私は、茫然としながら屋敷の中を歩いていた。

 突然、自身に起こった衝撃の事実は、未だに信じられていない。

 だが、それが間違いないということは明白である。だから、私はすぐにここを出て行く準備をしなければならないのだ。


「うん? なんだ? 誰かと思えば、平民の屑か」

「え?」


 そんな私に、話しかけてくる者がいた。

 それは、このゲルビド家の長男であるバリンジャ様である。

 どうやら、彼はまだ私が公爵家の人間だったという事実を知らないようだ。知っているなら、このようなことを言ってくるはずはないだろう。


「この僕の前に、その汚らわしい顔を見せるなと言っているだろう。まったく、いつまで経っても学ばないのは、本当に馬鹿なのだな?」

「えっと……」

「なんだ? もっと然るべき態度があるだろう。地に這いつくばって、僕に謝らないか」


 いつも通りの態度で接してくるバリンジャ様に、私は少し迷っていた。

 別に、彼に対して謝ることはそこまで対抗がある訳ではない。辛いことだが、いつものことだし、もう解放されるとわかっているので、ここで謝ってもいいと思っている。

 だが、それは正しいことなのだろうか。私は既に、自分が公爵家の人間だと知っている。そんな私が、彼にこんな理不尽な理由で謝ることは、まずいことなのではないだろうか。


「どうした? 早く謝れ」

「……」


 公爵家は、子爵家より遥かに権力を持っている。

 そんな家の人間が、こんな理由で頭を下げてもいいのだろうか。もしかしたら、それは公爵家に迷惑をかけることになるかもしれない。その思考が、私に頭を下げさせるのを躊躇わせていた。


「バリンジャ! 貴様、何をやっている!」

「え?」


 私がそんなことを考えていると、ボドール様が現れた。

 彼は、血相を変えて、バリンジャ様の元まで駆け寄って、その体を壁に叩きつける。


「あがっ!? 父上、何を……」

「この方は、公爵家の人間なのだぞ。それを、お前は……」

「公爵家? 何を言っているのですか?」

「事情がわからないなら黙っていろ。この愚図が!」

「うぐっ……」


 ボドール様は、再度バリンジャ様を壁に叩きつけてから、こちらを向いた。

 その表情は、見たことがない笑顔である。恐らく、取り繕っているのだろう。私が、公爵家の人間だと知ったから、彼はそんな顔なのだ。


「も、申し訳ありませんでした、アルシア様……この愚息の不始末、なんと謝っていいか……」

「……」


 ボドール様の態度に、私は嫌悪感を覚えていた。

 今までとはまったく違う媚を売る態度が、とても不快である。


「どうか、お許しください……私も、心から反省しております」

「……」


 彼は、公爵家となった私からの報復を恐れているのかもしれない。

 ひどいことをしてきた。その自覚はあるのだろう。

 だが、どれだけ謝られても、私の気は晴れそうにない。この人達の本性を知っているから、謝罪の言葉もまったく入って来ないのである。


「……」

「ア、アルシア様……」


 私は、急いでその場から離れることにした。

 これ以上、このゲルビド家の人々と関わりたくなかったからだ。

 彼らに対して、私は恨みばかり覚えている。話を続けていれば、その感情が爆発してしまうだろう。

 そうしないためにも、一刻も早くこの場を離れなければならなかったのだ。自分の嫌な感情を抑えつけるために、私は何も言わず部屋に向かうのだった。

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