後日談
聖也が居なくなった世界で、ロゼは再び、女性から吸精する日々に戻ったが、彼の精気の味を忘れられないで居た。
そんなある日のことだった。ロゼは路地裏でたまたま、男性から吸精するサキュバスを見つけた。そこにたまたま、一人の女性が通りかかり、その姿を見てしまった。
「えっ——「お嬢さん」」
ロゼは咄嗟に、女性に催眠をかけてサキュバスを助けた。
「サキュバスのお嬢さん。こんなところで吸精なんて、大胆だね」
「……インキュバスがサキュバスを助けるなんて。どういうつもり?」
「まずはお礼を言う場面だと思うけど?」
「……そうね。ありがとう」
「どういたしまして」
壁に背をもたせかけて、ぐったりとする二十代前後の若い男性にはまだ吸えるほどの精気が残っていた。
「それ、もう吸わない?」
「え?ええ」
「……もらって良い?」
サキュバスは目を丸くし、耳を疑った。サキュバスが残した男性の精気をねだるインキュバスは初めてだった。
「あれ、男だけど……」
「分かってるよ。俺、女の精気より男の精気の方が好きなのよ」
「か、変わったインキュバスね……あなた……」
「女の精気は俺の口には合わなくてね。というわけで、いただきまーす」
ロゼは尻尾を男性の口に突っ込み、サキュバスが残した精気を吸い取った。
「んふっ……やっぱ男の方が美味いわ。はぁ……。ねぇ、サキュバスちゃん、君、名前は?」
「……リリ」
「俺はロゼ。インキュバスなのに女より男の精気を好む変わり者なんだけど、知っての通り、俺の催眠は男には効かないんだ。そこで君に頼みがあるんだけ「却下」そこをなんとか!「嫌よ」お願いしますリリ様!なんでもしますから!」
ロゼはその場で、頭を擦り付けて土下座をした。
「……あなた、プライド無いの?」
「ゲロマズ生活から抜け出せるならプライドなんて安いもんよ」
「……はぁ。分かったわよ。……手が空いてる時なら、手伝ってあげる」
「マジで?君、優しいね。サキュバスなのに」
「……助けてもらったから。お礼」
「へー。義理堅いんだ。サキュバスなのに」
「うるさいわね。変わり者のインキュバスのくせに」
「なははー。ありがとう。この恩は一生忘れません」
厄介なのに懐かれてしまったと、リリはため息を吐いて男性を街に返した。
その日から、ロゼはゲロ甘生活から脱却し、リリの協力を得ながら男性の精気を啜った。
しかし、どんな男性の精気も、初めてて吸った彼の味には勝てなかった。
「あー、あー!」
「なぁに?どうしたの?」
ロゼとすれ違った赤子が、突然声を上げる。ロゼが振り返ると、母親に抱かれた赤子と目が合う。
悪魔の一生に終わりはない。人間は、死を一区切りとして、一度きりの人生を繰り返す。
(意外と早い再会だったね。聖くん)
ロゼが赤子にテレパシーを送る。それをキャッチした赤子はにこりと笑い、小さな手を一生懸命ロゼに向かって伸ばして、ふりふりと振った。
インキュバスが愛した男 三郎 @sabu_saburou
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