成長
夢と現実社会はリンクしている…………
夢でも現実社会でもあなたのやってきた罪は、裁かれる。
漠の支配をとめられる物は長いこと現れていない。漠は夢を食べ、人々を殺す一方で、神と同等な力に近い、悪魔!(自覚ナシ!むしろ、正義だと思っている!)が現れた!などと崇められることもあった。
なので。
……そりゃ~、本物の神様の世界も緊急事態!!!
なぜなら、願いや祈りを正常に持つことが出来なくなった人々が神をうやまうことはなかなか至難の業だからだ。
神様たちのなかでも漠が願いを妨げていることは問題としてあがっている。
そこで最近ではときどき、国の歴史ある神殿の中で、近くの神たちは集まり、漠を『どうするか』という会議が開かれていた。
「……自分の欲1つで、虐げてきた魂が多すぎたな……政治界の偉人、御先祖さまからも怒りを買っている……気づかないのか」
「力は一番原始的なやり方。自分は無能で、それしか手段が無いのだとアピールしているようなものですわ」
「見て。また、あのかたが虐げてきた魂勢揃いしてますよ………」
「うむ。空気を読まないとにゃ…………弱り目に祟り目は……こんな大変な時代に、自分のワガママでまわりに仕事を増やす人!
大変な時代に自分のワガママで苦労を増やす人!……優先に祟り目はくだされますにゃ」
「やっぱりさぁ……厳しい時代は、生きるコトに優先順位って重きが置かれますから……贅沢したぁ~~いとかの勝手な現場は、いくら力があっても需要は下がる思いますよ」
「信頼、を自分の言うコトを聞くことだと思い込んでやってきているみたいだしな。
まぁ、漠だけを粛正するのも違うだろう。
この為に国がやってきたことへの信頼が、どれだけ現実的に、必要とされ、《実際問題としての需要がどれだけあるか見せてもらうわ」
神たちはなんだかんだで盛り上がり真剣に話し合った。
それから漠がどこまで夢を奪い、どこまで上り詰めるのか、また人間がどこまで夢を持つことが出来るのかというのを、どのように見極めるか、こちらが手出しをする必要はあるのかという議題になったときには、ある者が『それならば予言の子らが既に動いているぞ』というので、とりあえずそれを見守ろうということになった。
「それはどのような子で」
「おぞましい悪夢を何も考えずに食べてもらって、お互いに得をすると言うのだ」
「封魔らしい扱いですね、それはなかなか名案かもしれません。悪夢というのも良くないものが見せていることが御座います」
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祈祷の日がやってきた。
いつでもマウントをとり、辺りで自慢話を趣味にしていたマダムはこの日ばかりは、ふくよかな体型をゴムマリのように弾ませながら、先生の到着をまちわびている。
先生というのは偉い祈祷師と噂されるお方で、
悪魔や邪気払いもお手のものだという。
彼女は漠を人一倍恐れており、その姿を悪霊や悪魔に例えて追い払ってやると意気込んで、高い金を支払ってプロに頼んでいた。
「道を開けて開けて!
今から先生がいらっしゃるからね!」
念入りに玄関先を掃き、窓を拭きながら
辺りに住む住民がその家のそばを通りかかるとシッシッとハエのように追い払っていた。その顔はいつもの不機嫌なものより期待に満ちた明るい顔なので皆触らぬ祟りはないだろうとあえて黙って距離をおくようにしている。
そこに崖を上り終えたレンズたちはぞろぞろ通りかかった。崖の上にもいくつかの大きな家が存在している。
お金持ちは好んで地面から少しでも 離れた場所に住みたがったためだった。
この道を通ると、ドラマティック・マーダー邸はすぐそこだ。
並木道を抜けると、通路の一番手前、サボテンなどの鉢に囲まれた、白い壁と緑のドアの立派なお宅があった。
「こんにちはー!」
彼女が挨拶すると、マダムは不機嫌そうに箒を向けた。
「あら。あんた。生きてたんだ。早くそこから退いて退いて。もうすぐ先生が来られるんだ。漠とかいう悪魔を追い払ってもらうからね」
「漠は、悪魔じゃないよ、先生を呼んでも、それで解決しないと思うな」
レンズは不思議そうに首を傾げる。
「だったら、なんだっていうんだ?」
聞き返されてしまうと、それはそれで、うまい言葉が見つからない。
「ゆ、夢を食べる怪物……」
「怪物も悪魔も同じさ!」
マウントされたと思ったマダムは、苛立ちを彼女にぶつけなくては腹の虫が治まらない気持ちがわいてきた。
「絶対に譲らないからね! 漠は悪魔なんだ。悪魔を追い払ってもらえばいいだけなんだ、今に分かるよ、すぐに退散してしまって夢なんて食べなくなるに決まっている」
「悪魔が取り付いたのなら、退魔師を呼ぶんじゃないの? それに、漠は人に取り付いたりはしていないみたいだよ」
「まだ、マウントをとる気か! キーッ!」
マダムは悔しがって顔を真っ赤にした。
マウントというのはつまり、相手にないものを自分が持っているという優越感のようなもので、彼女の余裕のある生活にはなくてはならないものだった。
「人に取り付くから夢がなくなるのよ! キーッ!」
レンズは漠が今は落ち着いた家に住んで、客人としてもてなされていることを、この人に伝えるか少し迷った。
しかしまたマウントと言われそうだったのでやめておくことにした。
先へ急ごう、とみんなとぞろぞろドラマティック・マーダー邸目指してのまっすぐな道を進み始めた。
マダムはあわてた。
先生がもうじき来るというのに、
道を塞いで、自分が上であることを理解してもらおうと彼女たちを箒で引き止める。
「まって、悪魔じゃない証拠なんてないでしょう!
勝手なことを言って。キーッ! キーッ!
そういう先生と知り合いな私がうらやましいからそんなことを言うのでしょう! ほかにも占い師とか霊媒師とか沢山いるのよ! 私は凄いんだから。いろんな人を紹介できるんだから。後悔しないでよねキーッ!
」
「この道を通らせてください」
「あぁわかった、あなた、魔術の研究がうまくいっていないんでしょう! 素敵な先生を知っているんだけど!」
レンズは困惑した。
そして、先生はもういいよ、と思った。
本当に、もういいよという感じだった。
「大丈夫、レー様の師匠はあの人だけです」
小声でつぶやいたときに、ようやく、怪しげな法衣を纏った男性や付き人がぞろぞろとこちらに向かってきたので、どさくさに紛れてみんなはやっとその家とマダムから離れ、道を進むことができた。
「驚いたわね」
ヌーナが苦笑いしたので、レンズも頷いた。
「あのおばさんは、マウントをとるのが趣味なんだ。自分より優れていそうなものをかぎつけると、必ず出向いていって、勝負する。
そして強引に勝とうとしてしまうよ」
この前も、近所の人のペットと、おばさんのペットの毛並みで争っていて、ものすごい値段の高級な食事を与えたりしてたらしい。
「人生は、自分が一番輝かないと意味がないって、しつこいから、あの道を通るときはおばさんに会わないようにするんだけれど、普段引きこもっているから、まさか先生を出待ちしているとは思わなかった」
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「にしても、漠を悪魔と信じてあんな方法に出るなんて、さすが富裕層だ」
パールは呟きながらも少し疲れた表情で先頭のレンズを見つめた。
「なに?」
レンズは不思議そうにパールを見つめかえす。
「覚えて、いるよね。
漠に会いに行くのは、大陸に渡る為の過程のひとつに過ぎない」
「うん、もちろんだよ」
パールの隣にいるヌーナもちょっとホッとしたようすだったので、レンズはムッとした表情を見せた。
「あっ、ヌーナちゃんまでそんな顔する。
レー様はちゃんと、ここが、大陸の道の途中だってことも知ってて出かける準備をして来たんだからね!」
ランは肩にかけた鞄の中の植木鉢を見つめた。
植物は夢を見るのか?
ヌーナはレンズに向かってわかっているわよと言った。
「ただ、ちょっとだけ、不安になるの……これからドラマティック・マーダー邸に行って、漠に会うのだと思うと」
漠は町を襲い、その力であっというまに誰も逆らえないようにしてしまった。それを自分たちがどうにか出来るのか、誰にもわからない。
「もし危ないことがあったら、私の毒を使うわね」
ヌーナがちょっと悲しそうに言うので、レンズもじゃあ私は凄い魔術を見せるよと言った。
看板や住宅でごちゃごちゃした道を歩いている間、ヌーナの体が毒になってしまった話になった。
「ある晴れた日に、魔女に会ったの。
何かの用事があったみたい。
ドアを開けたら外にいたの。
うちは道沿いにあるから、ただ通りかかったところだった。
絵本のなかの怖いおばあさんではなくて、とても、とても美しい女性。
だから、初めて見たとき、私はただ、美しい女性と思っていた。
だけどあまりにも、その姿が村に不釣り合いに思えて声をかけた、此処にどんな用事があるのか、って。
彼女は私を見て少し驚いていた。
手ぶらで良いのか、とか。
今思えばどうも村のあちこちで魔女狩りが流行っていたから、だったみたい。幼い私は何も知らなかった」
レンズが話の間に注釈をつける。
魔法使いにも、系統が沢山あって、簡単に言うと力の形が違い、忌み嫌われるのは、大体が悪魔と契約した為に強い力を持ったもので、特に人々と争ったのだという。
「それで…………、その人は、私がある願いを持っていることを知っていた。
すぐに大きな目で私を見て、言ったの。
『それをかなえることは出来ない』
見逃してくれる代わりに、願いをかなえることは出来るけど、
あの願いをかなえることは出来ない、って、いうの。
私は、何故か、むきになってしまって……それで…………証拠が無いから黙らないって言って」
「どんなお願いをしたの?」
レンズが聞いたので、ヌーナは口走ろうとした。けれど頭をおさえてしゃがみこんだ。
「言えない、言おうとすると、頭が痛い…………」
彼女の頭から一筋、緑の汁が零れる。
「私が、悪いの……あんなことを願おうとしたから。ランと会ったのはそれからすぐ。
毒が止まらなくなって、せめて人喰いの木のある森で自殺しようと思っ
て、森に入った日だった……」
魔女が大陸に住んでいるというので、ヌーナはもう一度話をしてもらおうと思って旅をしている。
「せめて、願いは自分でかなえると伝える……」
「そうか」
ランは短く呟いて、それから言った。
「俺はずっと、ヌーナが都合よく呪いをどうにかしたいというのかと思っていた。単に楽になるために、自分勝手に救いを求めているんだと思っていたから好かなかった」
ランは自分に似たように経験があるので、余計に気にしていたのだが、それをうまく伝えることは出来なかった。
「楽になるためだけに被害者のフリで居るのならその毒もきっと永遠に続く」
右足を見る。彼の足は今も少しずつ、木になろうとしている。
「どんな願いにも代償が必要だ。
俺の代償は決して失くならない。けれど、願ってしまったからのこの体なんだ。だから悔やまない」
彼女が代償の話をしなかったのはせめてもの優しさだったのだろうか。
ヌーナは少し俯いた。
「私だって、沢山考えたの、何がそんなにいけないのかって、どうして、こんな体にされたのか…………」
何かが叶えば、何かは叶わない。何かが得られれば、何かが得られない。
「だけど、きっととても失礼なことだった」
ランは、ふと何かを感じて植木鉢を見つめた。
「ん?」
朝は変わらなかったのに少しだけ、背が伸びている気がした。
「成長、してる…………?」
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