砂の国
レンズのおうち
「もしかすると、果肉の戀や、爪鱗、花の酒樽に何かがあるのかもしれない」
「じゃあ、漠に会うのと一緒に、それも探そうよ!」
レンズが言い、パールも賛成した。
「確かに、花の酒樽は、この地方の神様に捧げるもののひとつだ。つまり、そういうお酒だな」
「なるほど……あとの二つもそうなのかしら」
ヌーナが興味深い様子で聞く。
ランは別のことを考えていた。
ここが、神殿『跡』ということ。
けれど、そういうものを欲する、つまりまだ対話は途切れていないのだ。
(もしかすると、ヌーナが会った魔女は…….)
ランはあることを思い出した。
とりあえず、みんなは急いで神殿の掃除をする。
その間、ヌーナは改めて持って来てもらったばかりの、清らかな水を飲んだ。
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「じゃあ、よろしくね!」
皆がりゅうたんの背中に乗り込む。レンズの声を合図に、地面から足が離れる。パールは青ざめていた。
「しっかり、つかまっててって!」
一番最初に乗っているレンズが後方に叫ぶ。「はーい」ヌーナが手袋の手を手綱にくくりつけたまま答える。
ランは思ったよりも高いなと少し驚きはしたが、すぐに適応していた。
近くの関所でりゅうたんと別れた後、入国審査の書類に名前を書いたりしてから、それぞれ砂の国の門をくぐった。
「今は夕方だから涼しいけど、昼は暑いからね」
「わかっているよ」
パールがへろへろになりながら、日焼け止めを身体のあちこちに塗る。
皆も改めてそうした。
ランは特に耳に念入りに日焼け止めを塗る。
やがてあちこちに石造りの二階のない平屋が見えてきた。
神殿のある森のあたりと違い、風景に緑が目立たない。山の様子が、木などが違う。森自体も見当たらない。
代わりに砂漠、それから大きな石像が目についた。
レンズはすぐに、お弁当を食べる場所を探した。
「自宅が残ってればいいんだけどー」
そういって慣れた様子でどこかに歩いていく。皆、なんとなくそのあとに続いた。
「ね、ねえ、レンズの家って、どんなところなの
?」
だんだん人気がなくなる、坂上の階段の方に向かっていく向かっていくので息を切らしながらヌーナは聞いた。
「あ、ほらあったよ!」
ヌーナは嬉しそうに家を指差す。
そこには巨大な建物があった。
「っていうか、宮殿じゃないの!」
「ん、確かスーナが出ていった部屋が空いてるな」
レンズは平然とどこに向かうかを決めていた。
「スーナと知りあいか」
声を上げたのはパールだった。
「知ってるの?」
レンズは目を丸くする。
「あぁ、昔ちょっといろいろあってね、そうか……なるほど」
ランは何がなるほどなのかと聞いた。
「……王の一族だよ。このミントの髪、そうか、言われてみれば」
「それってすごいのか?」
「ずば抜けた体力や、何らかの力を持っていたとされている。ただ、スーナは……旅に出かけたきり聞かないというが」
レンズが少し悲しそうに目を曇らせたので、パールは慌てて話を変えた。
「ところで本当にここで休ませて貰えるのかい?」
「あぁ、うん……」
レンズは門の近くにあった紐を引き、呼び鈴を鳴らす。少し元気がない。
しかし静まりそうな空気を打ち破るように、ガラガラと門が開かれる。
「おぉ! レンズさまではないですか」
門を開けたのは、奇妙な顔をした、どろのように薄暗い色の魔物だった。
「グガナイヤだよ。人は食べないから平気」
初めて見る異国の魔物に、皆は少し驚いたが、優しそうな雰囲気を感じとると、お邪魔しますとそれぞれ挨拶した。グガナイヤは久しぶりに見たレンズに喜んでいる様子で、今お茶を淹れて参ります、と、戸をあけたままあわててどこかに向かっていった。
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広々とした道を歩く。
様々な美術品、最近流行っている幾何学模様をあしらったタイルで装飾されており、歩くだけでも保養になるようだった。
「考えていたんだけど、
あの3つについて。ここでいうと、
オーダーのことだと思うんだ」
レンズは慣れた様子で奥へ進み、角にあるスーナの部屋に案内しながら言った。視線は、屋根にあるデンティルに向いている。
スーナの部屋は、外側から思っていたよりはシンプルだが良い家具が置かれていることは分かる、それなりな宿のような部屋だった。
「さて、食べよ、食べよ!」
タンスの上には、スーナのものらしい、ミュンテニギュイアの歴史書や絵画の本、ピュエルタンテの詩集、
小さめなトルコ石やローズクォーツ等の入れられたガラスが並んでいた。
「オーダーはどこにあるんだ?」
眺めながら、ランが聞くと、レンズは小さく舌を出す。
「それは、わかんない」
ヌーナは持ってきた包みをテーブルに広げていた。
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「大変! 大変だってお話しなくちゃ」
どこでも噂を届けに行くコール猫が、外をうろついて騒いだ。
ミント色の靴下を口にくわえて走り回る。
この前の、手を洗ったあとの水を飲んで下痢したおばさんの話のときにもコール猫は活躍した。おかげさまで、マスターからたっぷりとジャムを貰うことが出来た。
「竜に乗って来たぞ、グガナイヤのところのあのスフィンの子が、竜に乗って来たぞ」
スーナのときの噂も評判だった。
なのでコール猫は一大事を悟っていて、宮殿の屋根に飛び乗ると、けたたましい声で鳴き喚いた。
ウォアアアアン!
オオォォォォォォーン!
ウォアアアアアアアアウァアーウワア!
ウワァアアアーア、ウワアアアオーン!
と、ちょうど屋根の下で『犯罪者』を見つけた。この前も猫が注意したばかりだというのに、いい歳をしたおばさんが同性で出歩いている。コール猫は爪を研いで、いつでも飛びかかれるようにした。
「オイッ! 同性で二人で出歩くんじゃない!! それに手を繋ぐんじゃないニャア! それ以上近付いてみろ! 大声で鳴き散らしてやるからな!!」
おばさんの一人は、さっと、近くに居た男を指差した。
「あいつと居たのだよ! 本当だよ! これは決して、同性でこうやって歩いていたのでは無いんだよ! 本当さ! ほら、異性だろう?」
そこに居た異性、は噴出しそうな笑みをたたえた顔で「あぁ……そうなのかな」と答えて、またヒィー、ヒィーと笑い出した。
目に涙をためながら、彼は言う。
「コールの好きな黒猫さんや、同性で出歩いて手を繋いでいたわけではないと、俺がこの場に来させられ……いやこの場にいることに免じて、信じてやってはくれないか?」
コール猫は、フギャアアアア! と喚いた。
「ヒキョウモノ! ヒキョウモノ! 堂々としろ! 堂々としろ!! 変態! 変態がいるぞぉぉぉ!! 近付かないでくれるかニャ? この、変態」
「マルコ、コップに水を用意して! このキチった猫にぶっかけてやる」
マルコはコップの水を用意させられながら奥に戻っていった。
どこかの家で買われているオウムが、ギャーギャーと騒がしい声を再現する。
「マルコ! コップ! オミズ! マルコ! コップ! オミズ!」
「手首を踏んづけて、飛べなくしてやろうか」
「キャハハハハハ!」
しばらく黙っていた女も笑い出した。
「面白い鳥さん! 森林に居る鳥よね、迷子かしら?」
「マルコ! コップ! オミズ! オウム! トリサン! イエェーイ!」
コール猫はすぐに飽きて、改めて
鳴いた。
「そうだった、スクトゥムがくる! スクトゥムがくるぞ! ネーレの通りだ! 竜に乗った子を見たニャア! フォルグナ以来だ!」
町のあちこちに居た人は驚き、大慌て。スクトゥムは以前から言われていたけど、まさか今日、始まったとは多くの人は思わなかったのだ。
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