第9話 ページ22 立ち直れない日々
「雨が、降っている。又、雨が降っている……どうして? もう二度と雨なんて見たくないのに……どうして? いつも、いつも同じ時期に限って、雨が降るの? 将太の命日に……」
私は「
あれから……そう将太の死から四年が経っている。四年と云う月日は長い様で短い。私はあれから人前に出づらくなってしまった。部屋に閉じこもっての生活が続いた。今でも半分信じられないでいる自分がいる。何もかもが夢の世界で、いつかきっと夢から覚めた時、将太が側で笑ってくれると思っている。
しかしながら、もう半分は将太の死という現実を受け止めている自分も居るのだ。電話を掛けても受話器の向こう側には決して蒋太は出てこない。
そう、解っているからこそ電話は出来ない……。
でも私は時々将太に電話している。
「もしもし、将太。ねぇー聞いてよ。今度高校の同窓会を、賢治と小百合が幹事でやるって言ってたけど、私に会計やれって言うのよ。いくら私が、銀行に勤めてるからって、そりゃ無いって思わない……」
空にいる将太に長距離電話だ。電話ボックスに入りコインを入れず、ダイヤルを回してみる。こんな一人芝居じみた事をしても何もならない事は解っている。時々情けなくなってしまい、涙した事もある。でも、でも、声が聞きたい……逢いたい……逢ってただ抱きしめてほしい……でも、それは叶わぬ夢となってしまった。
嫌いになって別れるのならば、いつかは思い出が笑って話せる事も出来るかも知れない……何処かで偶然にバッタリ会う事だって有るかも知れない。でも、その思いは永遠に叶わなくなってしまった……一方的に永久に会えなくなってしまった……。
友人達からは時間が癒してくれるって言うけれど、一体何年の月日で私は癒されるのだろうか? 人生と云う砂時計の砂の粒が何万粒いや、何億粒落ちれば、私は自分を取り戻せられるのだろうか?………。
街角で将太に似た感じの人を見かける度に、後を追いかけた事も時々ある。虚脱感に似た、喪失感だけが今の私の体にまとわり憑いている。
夏のこの時期、お盆になると将太の墓参りをしている。だが毎年、将太の命日にお墓を訪れると、決まって雨が降るのだ。将太が亡くなった時も雨。今日も雨が降っている。どうしてだろう。
将太が亡くなるまで私は、雨が嫌いでは無かった。今まで生きてきて、雨にまつわる出来事で、そんなに辛い事は起きてこなかったからだ。いやむしろ雨の想い出は、私にとって良い想い出の方が多かった様な気がする。
ひょっとして、私は雨女だからだろうか? そんな気がするのは私の心がまだ癒されていないからなのかも知れない……。
傘を差し、将太のお墓の前で買ってきた花を生けた。雨で線香が消えるかも知れないが、線香を焚いてお墓にそえる。そして、そっと両手を合わせただ祈った。
今にして思えば、将太のお墓の前で何を祈っていたのだろう?
「どうか、安らかにおやすみ」とか、「天国で待っていてね」とか、「いつまでもいつまでも私の事、見守っていてね」とか、そういう奇麗事の気持じゃあ無くて、ただただ無心だったのかも知れない。お墓の前で、蒋太に向かって無心で両手を合わせる。
なぜかその瞬間、不思議とフッと安らかになれる瞬間がある。
数分間祈った後、雨が止んだ。空は雲の切れ目から光がまるで御光の様に差し込んで辺りを照らし始めた。
将太のお墓を後にして寺の山門を潜った時、将太の両親とすれ違った。お互い何も言わず、ただ会釈だけですれ違う。言葉は要らない。お互いが、まだ悲しみの淵から這い上がって来ていないから無用なのだ。
私は車に乗り込み海岸通りを走った。車のラジオからは当時流行っていた『徳長○明』の『レニィー・○ルー』が悲しく流れ始めた。その歌を聴くと涙が勝手に頬を伝う。まるで私と将太の事がシンクロしている様に思えてくる。ラジオのスイッチを切らず、ボリュームを大きくした。涙を拭かずサングラスをかけたまま、将太との想い出を尋ね、ただ一人車を走らせた。
私の心にも未だ、雨が降り続いている……。
いつ止むものとも、誰にも分かりはしない………。
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