第3話 立ち位置
「いらっしゃいませー」
「お預かりします」
「ありがとうございますー」
毎度お馴染みの鉄板の台詞を呪文のように唱え、太郎は腕時計を見る。
時計の針は19時を少し過ぎた当りを指していた。
ー3-
最近客に対して優しくなったなぁ俺、とふと思う。
実際、太郎はこの間のおっさんの一件から、作業的だったバイトに少しだけ真面目に取り組んでいた。
しかし、客を見れば見るほど客もまた店員を機械のように考え、なめくさっているという事がひしひしと伝わってくるのだった。
ふざけんなよ、店員なめてんじゃ、、
「いらっしゃいませー」
ほら、最近こうして考え事しながらも挨拶は欠かさないようにしてるんだ、俺。
こんなことを1か月も悩み続けるなんて生まれて初めてだ。どうかしている。
太郎は悩み続けた。
悩み、悩み、悩み。
なぜだろう。てゆーかどうしたらいいんだ?
太郎は店員に対する客の態度に苦悩していた。無視されたり、ため口を利かれるのが、なんだか下にみられているようで嫌だった。
こいつらも高級な店に行ったらいかにもって感じの振る舞いするんだよなぁ。
それは突然の思いつき。
そうか。
「いらっしゃいませー、はい、お預かりします」
「レジ袋にお入れしますか?」
「あ、お願いします」
「ありがとうございました」
太郎はいつもよりも丁寧にやってみることにした。
話し方も丁寧に、お辞儀も欠かさずに、まるで高級な料理店のウェイターかのように振舞った。
このコンビニは常連の客も多い。このささやかな取り組みに直ぐに気付く。
いや、気付いたのだろうか。無意識なのかもしれない。
――――
「いらっしゃいませ。はい、お預かりします」
「レジ袋にお入れしますか?」
「お願いします」
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
ありがとうございます。
この一言が嬉しかった。
この時太郎の中に確かに芽吹く。
哲学。
心の哲学。
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