第16話 ロボット3体を同時に操る訓練

翌朝ジュンは博士に呼ばれて研究室に行った。


「どうかな。足りない要素を思いついたかな?」


「今までずっと1体をつきっきりで動かしていたので、3体になるとやはりむずかしいですね。」


「そうだね。」


「やはり自分1人の力じゃむずかしい気がします。僕の指示を待つのではなく、ロボット自身に判断して行動してもらわないといけない部分が出てきてた気がします。」 


「では、今までの戦闘経験を元にした行動パターンを作れば良いと思う。君らの世界ではこういう事をプログラミングと言うらしいね。このツクロボゴーグルとグローブは君の脳波を常に読み取り、行動パターンと経験を記録している。それを解析して自動で動く基本の行動パターンの型を作っておくのだ。それで必要性が出てきた時だけオートモードからリモートコントロールに切り替える。」


「ロボットがある程度は自分の判断で動いてくれて、必要なときだけコントロールできるようになるということですか?」


「そのとおり!そうと決まったら、ちょっとグローブとゴーグルを改良するので、1時間ほど待っておくれ。」


1時間後、博士がグローブとゴーグルと親指ほどの大きさの弾丸を持って研究室から出てきた。


「よし!これをつけて練習再開だ!」


博士がいそいそと外に向かっていくので、ジュンとニノはあわてて追いかけた。


「これが改良したツクロボゴーグルとグローブだよ。そしてこれも見せておこうと思ってね。」


博士はゴーグルとグローブをジュンに渡し、弾丸をジュンとニノに見せた。


「これは弾丸型の鉱石力抑制装置だよ。この前、火炎石を取り戻す時に、投網に限界を感じてね。だから代わりにできるものを開発していたんだよ。この弾丸には鉱石力を感知するナノマシンが含まれている液体が入っていて、ドラゴンの腹部に鉱石が定着していると、その部分に侵入して鉱石の表面をおおって埋め尽くし、外に鉱石力が放出されにくくなる仕組みだ。これで撃たれるとドラゴンは力が出なくなる。」


「これならたくさんのドラゴンに対応できますね。」


「そうだね。しかし、即効性を望むならば鉱石のある場所を確実に撃たなければならない。腕のいいスナイパーロボットが必要となる。」


「わかりました。そういう編成で考えてみます」



新しいツクロボグローブとゴーグルをつけ、ジュンは練習を再開した。


「さあ、昨日やったようにロボットを構築してみておくれ。」


ジュンは昨日と同じロボットを構築した。博士の改良のおかげで、3体のロボットはジュンのイメージ通りに動いてくれるようになってきた。そこから何度か博士の作った立体映像のドラゴンを相手に戦闘の練習をした。



練習3日目の夕方、ホログラムの5体のドラゴンを見事に倒したジュンに博士が言った。


「練習はもう充分だろう。鉱石力抑制装置の弾も300発分程用意できた。明日の朝に出発してもらえないだろうか。疲れているところ誠に申し訳ないが、今から研究室でダーククロイツの詳細を説明するので来ておくれ。」


ジュンは疲れてヘトヘトだったが、ダーククロイツに関しての予備知識は頭に入れておきたかったので重い足を引きずって研究室に行った。


「あれから調査用のステルスドローンを飛ばしてわかった事を報告させてもらう。この映像を見てくれ。」


画面が切り替わった。ドローンは凍てついた海の上を飛んでいるようだった。すぐに黒い岩でできた島が現れ、その上に氷の張り付いた灰色の建物が見えてきた。ドローンは建物の壁に割れた場所を見つけたらしくそこから建物の中に侵入した。暗くて凍りついた長い廊下をしばらく飛行し、途中で角を曲がりやがて開けたところに出た。ドローンが角度を変えるために回転すると、暗がりの中に10頭以上の闇のドラゴンがいた。ドラゴン達は座ったり体を横たえ休んでいるようだ。しばらくするとドラゴンが奥の方から騒ぎ始めた。奥の部屋から大きな箱いっぱいの黒い鉱石を台車に乗せてダーククロイツが歩いてきた。

ダーククロイツは鉱石を手に取って1匹1匹ドラゴンの口の中に入れていた。カメラに1番近い手前のドラゴンは、鉱石を食べた後に心なしか全身の黒さが増し、金色の目が一段と光っているように見えた。映像はその場面で途切れた。


「闇の鉱石を食べさせて、闇のドラゴンを増やしていたのか。」


ジュンはつぶやいた。


「そのようだね。しかしこの世界には闇属性のロボットはダーククロイツ以外存在しないはずなのに、どうやって闇の鉱石を手に入れているのだろう。」


「闇のドラゴン、10匹以上いましたね。」


ニノも不安そうに言った。


「ドラゴンとの戦い方は練習したが、ダーククロイツとの戦い方については予測できないことも多い。やつは科学者で狡猾なので、こちらが思いもつかないことを仕掛けてくるかもしれない。」


「わかりました。用心します。」


「うむ、では明日の朝出発してもらいたい。ジュンくんもニノも今夜はゆっくり休んでおくれ。」


一夜明けて出発の朝がやってきた。


「ジュン、おはよう!よく眠れた?」


「うん、疲れてたからね。ぐっすりだったよ。」


「ジュンくんおはよう。君の装備を用意したから着用してくれ。あちらは寒いので防寒用スーツとマントを用意したよ。聖属性の糸を織り込んだマントなので、闇のドラゴンの吐く闇の炎にも数分なら耐えられるはずだ。」


博士はジュンに黒地に青いラインの入ったボディスーツと紺色のマントを渡した。


「後はこの鉱石力抑制装置の銃も渡しておこう。背中に背負えるようになっている。」


「ありがとうございます!」


「ニノや、今回の戦いからジュンくんは3体ロボットを操るので、防御が手薄になる。お前の水の盾とテレポーテーションでジュンくんを補佐しておくれ。」


「はい!もちろんです!」


博士はジュンの手を取って言った。

「ジュンくん、私は今では、君を自分の息子のように大事に思っている。前回のように無茶をせず、なるべくロボットに戦ってもらうようにしてほしい。今までいろんな苦難を乗り越えてきた君なら、きっとできると私は信じているよ。」


「僕も、博士をこちらの世界のお父さんだと思っています。必ず鉱石を取り返してきます!」


「よろしく頼んだよ。」



ジュンとニノは強い使命感を感じながらルミナスフィアに乗り込んだ。

フラッシュスピナーは西の草原と山と砂漠を越え、さらに北へ北へと進んで行った。やがて眼下には流氷の浮くはてしない海が広がり、さらにどんどん進んでいくと雪と氷に閉ざされたロシエル島と島の中央に大きな建物が見えてきた。


「このロシエル神殿は昔は氷の国で昔流行った新興宗教の神殿だったみたい。大分前に廃れてしまったようだけど。」


「そうなんだ。外壁にドラゴンの姿がたくさん彫られてるね。」


「ドラゴンを信仰の対象にしていたからね。」


フラッシュスピナーは静かに着陸した。


「今から降りるけれど気をつけてね!もう闇のドラゴンが出てくるかもしれない。」


ニノが真剣な声で言った。




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