第13話 最後のドラゴン
5日後部屋で宿題をしていると、博士から連絡がきた。
「ジュンくん、ニノ、元気にしていたかい?実は最後のドラゴンが見つかったんだ。」
「今度はどこですか?」
「チェコという国のシュマヴァ国立公園というところだ。」
スクリーンは航空写真の地図を写した。
「この辺は活火山はないはずなのに、最近になってこの国立公園の中のポレドニーク山が活火山になり、とうとう昨日、規模は小さいが噴火をしたらしい。」
「火の鉱石のドラゴンがいるんですか?」
「たぶんそうだと思う。この辺は半径100キロ以内にたくさんの街があるので本格的に噴火をすれば、周辺は大規模な地震に見舞われてしまうだろう。」
「それは大変ですね。早くドラゴンを捕まえないと!」
「そうだね。しかし、まずこれを見ておくれ。」
画面がドラゴン探査用ドローンの映像に変わった。ドローンは高い山の山肌を滑るように上がっていき、煙がもうもうと出ている火口に入りそのまま下降していった。しばらく煙と火の粉しか見えなかったが、やがて広いところに出て広い洞内で一回転してドラゴンの姿を捉えた。
火のドラゴンは火山の中の中心あたりでとぐろを巻いていた。表面は黒い肌をしていて、内側から今にも溢れ出しそうな熱いマグマが血液のように脈打っている。目や口の中、手足の先は赤く燃えて光っていた。
「こ、こわい。」
ニノがすくみ上って言った。
「かなり大きいですね。」
「もう成獣の大きさと言っても良いだろう。捕獲は今までよりずっと苦労するだろうね。」
「この中にはどうやっていけばいいのでしょう。」
「うむ。もう一台のドローンが火山の内部に入れる横穴を見つけた。ちょっと狭いところもあるが、君の背丈なら大丈夫だろう。」
ジュンとニノは顔を見合わせてうなずいた。
「洞窟の中は溶岩の川が流れているところもある。かなり暑いからジュンには特別なスーツとヘルメットを用意しよう。」
「何時に出発ですか?」
「すまないが今夜の24時に出発だ。」
「わかりました。」
ジュンは緊張と使命感を感じながら返事をした。
ジュンは急いで宿題を済ますと、お母さんに頼んで早めに夕食を食べ、風呂に入り、ベッドで仮眠をとった。22時に起きると今から寝ると思ってもらう為に、親におやすみなさいを言いに行くと部屋に戻った。
「ジュン、博士から防護服が届いたよ。」
「うわあ!カッコいい」
今度のボディスーツは青色に稲妻のようなラインが走るデザインだ。ヘルメットは頭全体を覆うもので前面には透明のフェイスシールドが付き、そこにはツクロボゴーグルと同じ機能がついているようだ。
「このスーツは水と氷の魔法が織り込まれた素材で作られてるんだよ!だから熱いところでも平気だよ!」
ジュンは早速着て鏡の前に行ってみた。こうしてみると、まるでジュンが小型のロボットのようにも見える。
「左腕を顔の前にかざしてこぶしを強く握ってみなよ」
ジュンがその通りしてみると手首の外側から、発光する美しい水の盾が出てきた。
「戦うのはロボットだけれど、火のドラゴンは炎のブレスを吐いてくるから、いざというときはこれで身を守るようにって博士が言ってたよ!」
「そうなんだ。心強いよ!」
ジュンとニノがポレドニーク山に着いたのはチェコ共和国の夕方の17時だった。
「こっちは夕方なんだね。」
山の山頂にもくもくと出続けている煙を見つめながらジュンが言った。
「時差があるからね。でも洞窟は昼でも暗いから捕獲には問題ないと思うよ。あ、博士だ!」
フロントガラスに博士の姿が映った。
「いよいだね。万全の用意はしてあるが、どうか気を引き締めて臨んでおくれ。そして行きは洞窟内を歩いてもらうが、火のドラゴンが急激に力を失った後、山の内部がどうなるかわからんので、ニノは力を温存して最後はテレポーテーションでルミナスフィアに帰るようにしておくれ。」
「はい!まかせてください!」
ニノがはりきって返事をした。
ジュンは山肌に埋まっている大岩の陰に洞窟の入口を見つけ、ニノと一緒に入った。
入口は狭かったが、どんどん歩いていくと次第に広くなり、横には切り立った崖が現れ、下を覗くと赤々と燃えたぎる溶岩の川が流れている。
ジュンとニノはレーダーを見ながら迷路のような洞窟の中を進んで行った。
「ここらへんかな。」
ひときわ狭くなっている穴を身を低くして抜けた。
レーダーの示す地点に着いたが、ドラゴンの姿が見えない。広いドームの中には何箇
所か溶岩が滝のように流れ込んでいて大きな池がいくつかできていた。
「おかしいな。」
「でもここらへんにいるはず!油断しないで!」
とニノがいったとたん、ゴゴゴゴゴという地響きの音が聞こえてきて地面が揺れた。その瞬間、爆音と共に1番大きい溶岩の池の中から炎のしぶきをまといながらドラゴンが飛び出してきた。
「あぶなーい!」
ニノが水のバリアを出しながらもジュンの方を向いて叫びました。ジュンはすぐに水の盾を出して炎のしぶきを回避した。
炎のしぶきがおさまると、ジュンは構えて叫んだ。
「コンストラクト!!」
光の中から出てきたのはがっしりしとした強靭なボディに光のラインが入った氷の鎧をまとったロボットだった。背中には水属性を表す魚の背びれのような形の翼が付いている。右手には水性魔法を発動するブリザードセイバーを持っていた。
突如現れたロボットを見て火のドラゴンは怒りの唸り声をあげ、口から炎を吹いた。
「アクアブレイズ!飛べ!」
ロボットは水のジェットを出してあっという間に舞い上がり、ドームの天井を蹴って向きを変え、ブリザードセイバーを振り下ろした。
「ブリザード!」
ジュン叫ぶと剣から白く光る猛吹雪が発動されドラゴンの身体を包んだ。ドラゴンは真っ白な雪に包まれ凍ったように見えた。
「今だ!投網を!」
アクアブレイズは右の掌から一つ目の投網を発射した。
しかしブリザードはドラゴンの動きを1分ほど止めたのみで、表面の氷がビシビシと割れて猛り狂ったドラゴンが出てきた。ドラゴンは立ち上がって空中にいるアクアブレイズに噛みつこうとし、投網もその拍子に落下してしまった。
アクアブレイズはさっと身をかわしてからまた剣を振った。
「アイスニードル!」
たくさんの氷の針が発生して、ドラゴンの顔を目掛けて飛んで行った。顔に氷の針が刺さったドラゴンは目をつむった。
「今だ!投網を!」
アクアブレイズは右手の平から2回目の投網を発射した。しかしまたもやドラゴンが大きく顔を降ったので投網は地面に落下した。
「もう一度!」
投網を発射したが、今までのドラゴンより身体が格段に大きく力も強いせいか、やはり振り落とされてしまう。ドラゴンと格闘しながら3回目、4回目とトライしたが、どれもうまく行かない。投網はあと1発しかない。背中の方から発射しないとうまくいかない気がするが、ドラゴンはずっとアクアブレイズのいる方に向くので背中を狙うことができない。
「こっちだ!ここにいるぞ!」
ジュンは拳ほどの石を拾い上げると力任せにドラゴンに投げつけて大声で叫んだ。
「ジュン!危ないよ!」
「ジュンやめるんだ!」博士の声が聞こえる。
「こうするしかないんだ!」
石はドラゴンの膝あたりにしか当たらなかったが、3個目の石を投げたところでドラゴンがこちらに気がついた。
ドラゴンはジュンの方に向きを変え、炎のブレスを思い切り吹き付けた。ジュンは身を低くして水の盾を出し、炎のブレスに耐えた。盾の横からもれたブレスがとても熱くて命の危険を感じたが、なんとか心を落ち着かせて耐えきった。
そしてブレスが途切れた時に
「今だ!」と叫んだ。
すぐに上空のロボットから再び投網が発射され、ドラゴンの背中全体を覆った。しかしドラゴンがその瞬間に素早く振り返って炎を吐いたので、5つある鉱石力抑制装置が一つ炎で黒焦げになってしまった。ジュンもニノも博士もハッと息を飲んだ。ジュンの頭には過去の失敗がよみがえった。母ドラゴンを封印した時に鉱石抑制装置を一つマグマの池に落としてしまって封印が不完全になってしまったことを。
もうダメかもしれない・・・どうしよう・・・。いや、絶望しちゃダメだ。考えるんだ!ジュンは心の中でつぶやき、そして次の瞬間何かを思いついて目を見開いた。
「アクアブレイズ、もう少し注意を引きつけて!」
上空にいるアクアブレイズに叫ぶと他の落ちた投網のところへ走った。
そしてついている鉱石力抑制装置を一つ取り外し、ドラゴンにかかっている黒焦げになった網のほうに走って行き地面に設置した。ほっとしたのも束の間、いきなり全身に衝撃が走り、ジュンの体は背後からの物凄い力に突き飛ばされてしまった。上空のアクアブレスと格闘していたドラゴンの振り回す大きな尾が当たってしまったのだ。空中に投げ飛ばされ地面に叩きつけられたジュンは、身体がバラバラになるような痛みに耐えながら鉱石力抑制装置のスイッチを押した。5つ揃った鉱石力抑制装置は正常に作動してドラゴンは縮み始めた。
ニノがすぐにテレポーテーションで近くに来た。
「ジュン、大丈夫だった!?」
「大丈夫だよ。ちょっと手首が痛いけど。」
そんな会話をしていると博士の声が聞こえてきた。
「いかん!火山の地盤が緩み始めた。崩れるぞ!早く脱出するんだ!」
ジュンは縮み続けているドラゴンの近くまで走っていき、ニノのテレポーテーションでドラゴンと共に火山の外に脱出した。
ジュンは暗がりの中でも燃えるように輝いている火炎石を拾い上げた。
「やっと全部の大宝鉱石を取り戻せたね。」
「うん、ジュン、おつかれさま!」
「いや〜!君達よくやってくれたね!封印装置が1つ燃えた時はどうなるかと思ったけれど、ジュンくんが機転を聞かせてくれたおかげで、すべてうまくいったよ!」
ジュンは照れくさそうに笑いましたが、無意識に左手を動かしたとたん手首に激痛が走り顔をしかめた。
「大丈夫!?ジュン、骨折れてるんじゃない?」
「いたた・・・。でも我慢できるよ。」
「我慢できるという問題じゃないぞ!ニノ、傷口を水で冷やせないか?」
「できますよ!」
水のかたまりがジュンの手首を包んだ。
「ありがとう。とりあえず家に帰りたいな。」
ジュンとニノはすぐにルミナスフィアに乗り込んで家に帰った。
家に着いたのは朝の6時だった。帰ってから左手手首を見ると腫れ上がってきているので、ニノに手伝ってもらいながら洋服に着替え、両親を起こして「階段で転んだ」と嘘をついてすぐに救急病院に連れて行ってもらった。診断結果は手首の軽い骨折で、一ヶ月程で治るとの診断だった。
病院から帰宅すると博士から連絡がきた。
「ジュンくん、傷は大丈夫かね?」
「手首の骨が折れてしまったそうです。ジュン、守ってあげられなくてごめんね。」
「大丈夫ですよ!骨折したのは左手だし。よく使う右手じゃなくて良かったです。」
ジュンは右手を振って平気な事をアピールした。
「わしのサポートが至らぬ事でこんな事になって申し訳ない・・・。」
「もう気にしないでください。」
「本当にすまなかった・・・。しばし療養しておくれ。」
手首は痛いが、ジュンの心は静かな自信で満たされていた。
今回の経験で、過去の失敗を繰り返さず、自分で考えて困難を乗り越えることができたからだ。
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