第12話 3匹目のドラゴン封印

4日ほどおだやかな日々が続いていたが、夜にジュンが眠ろうとベッドに入った時に博士から連絡がきた。


「ドラゴンが見つかったんですか!?」


「うむ、そうなんだが、今回はちょっと問題があってね。」


スクリーンに地図が写った。ジュンはローマ字を読み上げた。


「ヴィエトナム・・・ベトナム?」ジュンがつぶやいた。


「そうだ。次なるドラゴンがベトナムにあるバンゾック滝という所にいるということはわかった。しかし、このへんは磁場がおかしいようで調査用ドローンを飛ばすことが難しいんだよ。三台ほど送り込んだのだが、いずれも行方不明になってしまったんだ。」


「ということは、現地で直接ドラゴンを探さなければならないということですね。」


「探さなければいけない上に、どんな姿のドラゴンかということもわかっていないのだ。水場の近くにいるので水属性なのは確かだと思うのだが。」


「とりあえず、このバンゾック滝という所に行ってみないと。」


「何が起こるかわからんので、特に水に対する十分な装備をして行っておくれ。」


「はい!」






ジュンとニノは滝を見下ろせる崖の上にルミナスフィアを止めて降り立った。眼下には幅の広い滝が3段重なっているのが見える。バンゾック滝の壮大さにジュンは思わず叫んだ。


「すごい!こんな大きな滝、初めて見たよ!」


「でも川の色が写真のと全然違うねぇ。もっときれいなエメラルドグリーンだったのに。」


「大雨で増水して濁ってるんだろうね。」


ジュンは話しながら辺りを見回した。川の水は茶色に濁り、ごうごうと音を立てて流れ落ち、下には豪快な水しぶきが上がっています。空には灰色の雲が重く垂れ込め、今にもまた豪雨が降り出しそうだ。


「とりあえず、この辺を探してみよう。」


ジュンはぬかるむ足元を気にしながらそろそろと下へ歩き出した。


「ニノは防水スーツ、着なくていいの?」


「ジュン、何言ってるの!僕は水属性魔法のロボットだよ。水しぶきなんて平気に決まってるよ!」


ニノは得意げに答えた。


「そうなんだ。いいね!」


「ジュンも改良したボディスーツ着てるんでしょう。着心地はいいの?」


「うん、すごくいいよ。ここの気温は蒸し暑いはずなのに、このスーツのおかげかすごく涼しいんだ。それにこのブーツが滑らなくてとても歩きやすいんだ。」


「博士が水場を歩き回りやすいようにしたって言ってたからね。」


2人は1時間ほど滝の周辺を歩き回りったが、水のドラゴンがいる気配をまったく掴むことができなかった。

2段目の滝を探し終わり、森の中の岩に腰掛け、少し休もうとした時、目の前の木の後ろで小さな人影が動くのを見た。


「おーい!ちょっと待って!」


ジュンは慌てて呼び止めた。すると、ためらいつつも1人の少女が木の後ろから出てきた。どうやらこの辺に住んでいる女の子のようです。はっきりした大きな瞳、小麦色の肌に真っ白なシャツ、首には光沢のあるカラフルな色合いのスカーフを巻き、黒い長いスカートを履いている。


「君、どうしてこんなところにいるの?危ないよ。」


ジュンは話しかけた。


「ジュン、いきなり話しかけても言葉が通じないよ。ゴーグル貸して!」ニノはジュンが額に上げているゴーグルを取り上げるとなにやら操作した。


「はい、これでいいよ!」


ゴーグルに着いていた翻訳機能を使ってジュンは少女と会話することができた。

少女は名をルオン、年は8歳、この滝の下流に住む少数民族のタイ族の女の子だった。


ルオンの話によるとここ1週間、いつもは降らない大雨が降り続き、川が増水している。ルオンや周辺に住んでいる人々は自分達の村がして流されるのではないかと心配しているとのことだった。


「それで川の様子が気になって見にきたの?」


ジュンはルオンは大きな目を見張ってうなずいた。


「でも、それだけじゃないの。私、大雨が降り出した日の夜に家の窓から青い稲妻のような光が一番下の滝壺に入っていくのを見たの。この大雨はそのせいじゃないかってお父さんやお母さん、村の人達にも話したのに、誰も信じてくれないの。私の言うことがもし本当だとしても、いったい何ができるのかと言われてしまって。」


ジュンはルオンの涙ぐんだ目をまっすぐ見て言った。


「僕は信じるよ。僕たちはその青い光を捕まえにきたんだ。さあ、ここはとても危ないからもう家に帰ろう。」


「捕まえたら、きっと雨は止むよ!大丈夫だから、安全なところにいてね。」ニノも言った。ルオンは不思議そうな顔をしたが、2人の顔を見て、安心できたのか少し微笑んでうなずいた。


木々の中に消えていくルオンを見送った後、ジュンとニノは一番下の滝壺に向かった。


絶え間なく水が落ちてくる滝壺は茶色に濁った水と白い水しぶきで中の様子は全く見えない。


「この中にドラゴンがいるんだね。どうやっておびき出そう?」ジュンが腕組みして考えていると、ニノが言った。


「僕、ちょっと滝壺の水を動かしてみるよ!」


「え!?ニノ、そんなことできるの?」


「こんなたくさんの水は初めてだけれど、試しにやってみるよ!でもとても大きな力がいるから長くは持たないし、ドラゴンが出てくるかもしれないからジュンもツクロボの用意しておいてね!」


「う、うん。わかったよ。」


ニノは滝壺の真ん中まで飛んでいくと両手のひらを滝壺に向けた。


「う〜〜ん!」


気合を入れるとニノの体が青く発光し始めた。


「うごけぇ〜!」


かけ声と共に青い光が手のひらに集中し、大きな光の球になり発射された。すると滝壷の真ん中に渦を巻きながらトンネルのような大きな穴が開き、真下にいたドラゴンの姿が見えた。


「見えた!大きい!」ジュンは思わず呟いた。水底で相当距離があってもそのドラゴンがかなり成長していることがわかった。蛇のように長い身体は水色と青のグラデーションの鱗に覆われ、魚のような尻尾とヒレは紫色、青く光る目と真っ赤な鉤爪を持っている。


「あ〜!もう限界だあ!」ニノは魔法の力の限界がきたらしく、青い光が消え、ワープでこちらに戻ってきた。


静かになった滝壷の水面が、中心から波打ち始め次の瞬間、滝壺に何本もの水柱がたち、それらが落ちきると水面から水のドラゴンが飛び出してきた。


「来た!コンストラクト!!」


ジュンは叫んだ。

ジュンの手のひらから光とともに飛び出てきたのは大きな翼がついた鷹の形をしたロボットだった。


「いけ!ストームイーグル!」


ストームイーグルは一声鳴くと、大きな翼を羽ばたかせ、ジェット噴射で一気に上空に舞い上がった。そして水のドラゴンに向かって急降下していった。

水のドラゴンは水面にとぐろをまき、向かってきたストームイーグルに対して大きな口をあけ、先のとがった氷柱が無数に出てくる息を吐いた。ストームイーグルは体を傾けてすばやくよけ、背中についている投網発射装置で投網を発射した。


しかしドラゴンの前に大きな水柱がたち投網は水に押し留められてしまった。


ドラゴンは投網を見て危機感を感じたのか、怒りに燃えた目でストームイーグルを睨みつけた。ドラゴンが一鳴きすると今度は水面からシュウシュウと湯気が立ち上りどんどん濃くなりあたりは真っ白になった。


「ジュン、霧で視界を奪おうとしてるみたい!」


「ストームイーグル!ブロウ・オフだ!」


ストームイーグルは霧の上に飛んできて空中で停止し、何度も大きく羽ばたいた。すると羽から緑の光る風が発生して、霧を吹き飛ばした。

ドラゴンは歯を剥き出しにして威嚇しすばやく水面に潜ろうとしたところを、すかさずストームイーグルが両脚でドラゴンの尻尾を掴んだ。湖面から引き摺り出し、逆さ吊りにしたまま飛んで離れた所の地面に落とした。


ドラゴンはまたもや鋭い氷柱のブレスを吐いた。


「ウインドスライサー!」


ストームイーグルは氷柱を素早くよけながら羽根から無数の真空の刃を発射した。


真空の刃はドラゴンの背中に命中し、ドラゴンは怒りの咆哮を上げた。


「よし!今だ!投網だ!」


ストームイーグルは再び投網を発射し、投網は見事にドラゴンを覆う事に成功した。


縮み続けているドラゴンの横に落ちている大宝鉱石、水輝石を拾い上げると、さっきまでどんよりと曇っていた空に太陽が顔を出しあたり一面が明るくなった。

ジュンはまぶしさに目を細めながら笑顔で言った。



「これでもう大雨は降らなくなるね。」


「ルオンちゃんも村の人達も安心して過ごせるね!よかったぁ!」





「いや〜よくやってくれたね!ドラゴンを見事探し当て、捕獲もちゃんとしてくれたね。ありがとう!ジュンくん、ニノ。」


ジュンとニノは顔を見合わせて喜んだ。


しかし、気になることが出てきてジュンは聞いてみた。


「博士、今回のドラゴンはとても大きくなっていました。次のドラゴンは、もっと強くなっているのではないですか。」


「うん、そうなるだろうね。ドラゴンは強い力の鉱石を体内に取り込むと急成長するからね。しかし、ドラゴンだけでなく、ジュンくんもニノも日々成長して行っている。私も全力でサポートするので、心配しすぎず頑張ってほしいのだ。おおそうだ。一つ報告したいことがあった。これを見ておくれ。」


スクリーンの画面が切り替わった。最初に捕獲したドラゴンの子供が写っている。どうやらお城の中の広い中庭に透明なドーム型のバリアを張っていてその中にいるようだ。ドラゴンの子供が何かに気づいたらしく待ち通しそうに長い首を上下して振り、ドームの端の方に駆け寄って行った。

すると厳重な防護服を着たロボットの兵士が籠に入れた光る鉱石を持ってきてバリアに両腕だけ入れて鉱石の入ったカゴを置いた。ドラゴンは美味しそうに鉱石をもりもり食べている。


「うわぁ、人工鉱石開発に成功したんですね!」


ニノが言った。


「そうなんだよ。こうして小さい頃から人工鉱石の味を覚えさせれば、ロボットを襲わなくなるだろう。毎日決まった時間に餌をあげれば信頼関係もできてきて懐かせることも可能と考えているんだ。」


「ドラゴンとの共存が可能になるかもしれませんね!」


ジュンは目を輝かせて言った。


「ジュンくんが子ドラゴンを捕獲してくれたおかげで研究が進み、我々にとってもドラゴンにとってもより良い未来を築けそうな希望が出てきたんだよ。」


ジュンはみんなの役に立てたという喜びで胸が熱くなった。


「ぼく、次も頑張ります!」


「ぼくも!」


「また次のドラゴンが見つかったら連絡するよ。」





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