第11話 2匹目のドラゴン封印
2日後の金曜日の夜、ジュンがお風呂に入って部屋に戻ってくるとニノが待ち構えていた。
「ジュン!博士からまた連絡が来たよ。つなぐね。」
「おお、ジュンくん、待っていたよ。2匹目のドラゴンが見つかったよ。」
「場所はどこですか?」
「ここだ」
「あ!アメリカだ。」
ジュンはアルファベットの地名を読んだ。
「・・・グレイシャー・ナショナルパークと書いてあります。」
「そう、そのグレイシャーパークの中にいたのだ。ドローンの映像を見てくれ。」
画面が切り替わり、アメリカの広大な山々の景色が映し出された。ドローンは山肌の木々の上を滑るように飛んでいく。そしてひときわ大きな山の裏側に回り込み、180度くるりと回転した。すると、切り立った高い崖のすぐ下にある窪みに緑色のドラゴンが身体を丸めて横たわっていた。目は赤く、青いくちばし、体と翼は緑と黄緑のグラデーションの羽毛で覆われており、まるで鳥と恐竜が混ざったような外見だった。
「鳥みたいですね」
「この緑は風の鉱石の色だな。風の鉱石をもつものは翼が発達することが多いのだ。」
「ここ、観光地なんじゃないですか?登山する人達、大丈夫なのかな。」
「ここは立ち入り禁止区域になっているようで、まだ人には見つかっていないようだ。」
「このドラゴンは前の土のドラゴンより小さいですね!」
ニノが少しホッとした様子で言った。
「うむ。しかし油断は禁物だ。風のドラゴンは小柄だが、頭の回転が速く素早く飛ぶのが上手なので、捕まえるのは前回よりも難しいかもしれない。」
「え!そうなんですか。どうしよう・・・」
「もちろん対策は考えている。鉱石力抑制装置を投網式に改良したのだ。」
スクリーンに投網式鉱石力抑制装置の構造が映し出された。
「ジュンくんの作ったロボットに手の平から投網を発射する機能をつけてほしいんだ。もちろんドラゴンを追いかけるための素早い飛翔力や風の攻撃に対する防御力も必要だ。」
「わかりました。」
「今回は陽光石に加え、前回奪還した土豪石の力も加えることができる。光と大地の特性を生かしたロボットをクリエイトしておくれ。」
「はい!」
「ジュン、起きて!」
ニノに揺すぶられてジュンは目を覚ました。枕もとの時計を見ると、真夜中の0時だった。
「うーん、もう少し寝かせて・・・」
「ダメだよ!今からドラゴンを捕まえに行くんだから。」
ジュンは目をこすりながらのろのろと起き上がった。
「あのドラゴンは夜行性だから、あっちの朝に行かないと。ハイ、これどうぞ。」
とニノはボディスーツを手渡した。
「え!これ着るの?」
ジュンは黒と紫のボディスーツを広げながら言った。
こんな本格的な戦闘スーツを観光の人達に目撃されたら、ちょっと恥ずかしい・・・。
「うん、着といた方がいいよ。風のドラゴンは真空の刃を口から吐き出す攻撃をしてくるからね。人間の柔らかい皮膚なんかすぐ切れちゃうよ。ボディスーツを着れば身体能力も上がるから避ける助けにもなると思うし。戦うのはロボットだけど、念のためにね。」
「わかったよ。」
ジュンは素直に従うことにした。
準備が整うと、子供部屋の窓に横付けしているフラルミナスフィアに乗り込んだ。ルミナスフィアのフロントガラスに映し出された地図に現在地が映し出されている。船が動き出すとみるみる周りの景色が流れていき、地図に示されたドラゴンのいる地点の付近で止まった。
「アメリカって遠いのに、もう着いちゃった。」
日本は真夜中だったというのに、アメリカのグレイシャー国立公園はそこら中で鳥がさえずる爽やかな朝だった。
「ルミナスフィアは史上最速だからね。」
ニノが小高い山を見上げながら言った。
「えーっと、あの上のあたりにいるみたいだね。」
「ジュンくん、ニノ、聞こえるかね?」
ゴーグルについているイヤホンから博士の声が聞こえる。
「あ、はい!」
「ドラゴンの潜伏先に着いたようだね。急なことだったので、投網の鉱石力抑制装置は1つしか用意ができなかったのだ。なのですまないが、なんとかこの1発でドラゴンを捕獲してほしいんだ。」
「わかりました!」
ジュンは少し不安になったが、気持ちを引き締め直した。
ジュンはドラゴンのいる山の斜め向かいにある大きな岩によじ登った。
スーツのおかげか身体が軽く思ったより簡単に登る事ができた。この高さなら、周りの木々にも視界を邪魔される事はなさそうだ。
「あ、見えた!あそこの崖のところ。緑のやつが!」
「ほんとだ!」
「ジュン、準備はいい?」
「うん、いくよ!」
ジュンはゴーグルを下げて目のところに装着すると光の軌道で素早く宙に絵を描いた。そして右手を前にかざし、左手で右手の手首を握って足を踏ん張り叫んだ。
「コンストラクト!」
ジュンの手のひらから、強い光と共にロボットが創出された。
まばゆい光が消えた後に宙に浮いて立っていたのは、光沢のある赤銅色のガッチリとしたボディに、緑とクリームイエローのラインが走る装甲に覆われた頑強そうなロボットだった。手首には岩を薄くスライスしたような小さな盾、背中には緑色に光る斧を装備している。
「いけ!ガイアブレス!」
ガイアブレスのかかとからジェットが噴射し背中にクリームイエローに光る主翼が開きあっという間に空高く舞い上がった。
穴の中にいるドラゴンに投網は使うことはできない。
「まずドラゴンを誘い出さないとダメだね。」
ニノがそう言っている間に、ドラゴンはガイアブレスの姿を見つけ、穴から飛び出してきた。怒りに燃えた赤い目を光らせ、空中で羽ばたきながら口から三日月型に光る真空の刃を吐き出して来た。
「ガイアシールドだ!」
ガイアブレスが手首を前にかざすと、小さかった盾がぐぐっと大きく広がり真空の刃を受け止めた。
「ヴァインウェイブアックス!」ガイアブレスが斧を抜いて振りかぶると、斧から緑の波動が出てきて、それが植物の何本もの太いつるに変わった。ドラゴンをそのつるで拘束するつもりだったが、彼はするりと素早く避けて、また少し離れたところから真空波を吐き出した。
「やっぱり風のドラゴンは素早いね!」ニノが緊迫した声で言った。
何度かドラゴンの真空波とヴァインウェイブアックスの攻防が続いた。そしてとうとうつるがドラゴンの上空からふりかかり片方の羽に絡まった。片方の羽が動かなくなりバランスを崩しパニックになったドラゴンは口から真空波をたくさん吐き出しながら、ジュン達のいる方に急降下してきた。銀色に光る無数の真空波とその後ろにはドラゴンがこちらの方にどんどん迫ってくる。ジュンがもうダメかもと思った瞬間
「あぶなーい!」
ニノの声がして、目の前にはニノが出した円形の水のシールドが張られ、真空波は水に吸収された。
ニノはそのままジュンに飛びつき、次の瞬間には向かい側の岩に二人でワープしていた。
「ここなら安全だよ!」
「ありがとうニノ!」
すぐにドラゴンの姿を探すと彼はジュン達が立っていた大岩の下の平原に落ちてもがいていた。
「ガイアブレス!投網を!」
ガイアブレスは素早く飛んでくると、左の手のひらから投網を発射した。
投網はドラゴンを包み込むと、網に鉱石力抑制装置の光が走り、ドラゴンがどんどん縮み始め身体の色も銀色に変化していった。ジュンは小さくなったドラゴンの身体の横に落ちていた風の鉱石を拾い上げた。
「やったね!ジュン!」
「やったね!ニノ、助けてくれてありがとう!」
「お役に立てて嬉しいよ!」
風の鉱石とドラゴンはニノによって博士のもとに転送された。
スクリーンに映った博士の背後には新たに捕まえた小さなドラゴンが球形のバリアの中で眠っているのが見えた。
「二人とも、よくやってくれた!ジュンくん、ドラゴン捕獲にぴったり素晴らしいロボットをクリエイトしたね!ニノもジュンくんをよく守ってくれた!」
博士の言葉に、2人は目を合わせて微笑んだ。
「こちらは次なる捕獲に向けて、鉱石力抑制装置をさらに改良しているからね。まだ残りの2匹のドラゴンは捜索中だ。」
「この前捕まえたドラゴンはどうしているのですか?」
ジュンは気になってたずねた。
「元気にしているが、まだバリアの中に閉じ込めている。今どんな飼育舎にするか検討中だ。それで、今はドラゴンの食べられる人工の魔法の鉱石を作れるか試しているのだ。エネルギーが満たされて居ればロボットを襲うこともないからね。」
「それはすごいですね!それなら、ロボットとドラゴンが共存できるようになるのかなぁ!」
ニノが興奮して大きな声で言った。
「まだ開発を始めたばかりだからね。今は子ドラゴンを観察して、身体に必要なエネルギーを計算しているところだ。これからどうなるかはわからんが・・・。では、また次なるドラゴンが見つかったら知らせるから2人ともしばらくはゆっくり休んでおくれ。」
スクリーンが閉じ、2人は達成感に満ちた気持ちでルミナスフィアに乗り込んだ。
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