第10話 謎の少年と子ドラゴン封印
翌日ジュンは小学校に登校した。もちろんニノもキーホルダーとなってランドセルにくっついていった。始業式が終わると、友達たちの遊びの誘いを断って、一目散に家に帰った。お昼ご飯のミートボール丼をかきこみ、お母さんに遊びに行ってくると言って外に駆け出した。人目のない場所に行き、ツクロボグローブでルミナスフィアを呼び出して乗り込んだ。
ルミナスフィアはものすごい速さで進み、あっという間に富士山の前に着いた。
「うわぁー!フジサンって綺麗な山だねぇ!」
「うん、僕の住む日本で1番高い山なんだ。上の白いところは雪が積もってるんだよ。」
そんな会話をしながらも眼下にドラゴンの巣のこんもりとした木の盛り上がりが見えてきた。
「あそこだ!」
「念のために離れたところから歩いて行こう。」
ルミナスフィアは音もなく樹海の中に着地し、ジュンとニノは歩き始めた。しばらく歩いていくと葉っぱが生い茂り、球状の壁になっている場所に行き当たった。中からは大きな獣の呼吸する音が聞こえてくる。
「この向こうにドラゴンがいるんだね。」
ジュンはひそひそ声でニノに話した。びっしりとつたや枝が絡み合っている緑の壁は、ジュンが入れそうな隙間が見つかりそうにない。諦めて見回すと、向こうのほうに出入り口らしき穴が見えた。出入り口は最もドラゴンに見つかりやすいが、他に侵入できそうなところがないので仕方なかった。ニノは離れた場所で待機し、ジュンはそろそろと出入り口に近づき、おそるおそる中を覗き込んだ。その途端ドラゴンの唸り声が聞こえ、さらに目が合ってしまった。
「しまった。起きていたのか!」
ドラゴンは警戒に満ちた目でこちらを見て息を吸い込んだ。
「土砂ブレスがくるよ!」
ニノが叫んだ。ニノは瞬間移動ができるけれど、自分は土砂に埋もれてしまうかも。ツクロボも間に合わない!と思ったその時、
「煙幕!」
どこからか声がして周りは煙に包まれた。そして黒い影が現れてジュンを担ぎ、素早くジャンプして消えた。ジュンが我に帰った時、ジュンは煙が立ち昇るドラゴンの住処の入り口の半分が土砂に埋もれているのを見た。そして今は誰かに担がれて、物凄い速さで木々の枝を渡っていた。
ドラゴンの巣から充分離れた所にきてジュンは乱暴に木の根本に下ろされた。
「危ないじゃないか!」
見上げると腕を組んでこちらを見下ろしているのは、ジュンと同い年くらいの少年だった。黒いTシャツに裾の絞られた黒いパンツを着、頭には黒地金の縁取りのスカーフをはちまきのように巻いている。意志の強そう瞳の上の眉間にはしわが刻まれ、明らかにいらだっている。
「お前、なんであんな所にいたんだ!ここは樹海だぞ!普通の子供が来る所じゃない!」
ジュンはその通りだなと心の中で思いつつ答えた。
「助けてくれてありがとう。」
「お前、何者だ!アイツの姿を見たのか?」
「うん。君も見たの?」
「アイツはいったいなんなんだ!知ってるのか?」
「それは・・・」
ジュンがどう話していいか考えていると、どこからかニノの呼ぶ声が聞こえてきた。
「ジュンー!」
次の瞬間ニノがパッと2人の前に現れた。
「よかった。ジュン、どこ行っちゃったのかと思ったよ〜。」
少年は目の前に小さなロボットが急に現れてとても驚いていた。
その後ジュンとニノと少年はその場に座ってお互いのことを話し始めた。
少年は名前をハヤテと言って、自分は富士山の周りで代々続いている忍者の一族の末裔だと言った。ずっと樹海におじいさんと両親と一緒に住んでいたこと。昨日の朝に現れた怪物が急成長させた木々がハヤテ達の住んでいた家を押しつぶしたこと。
今は両親と祖父と一緒に親戚の家に身を寄せているが、気になって見にきたことを話した。
「アイツは昨日見た時はもっと小さかったんだ。今日見たら昨日の倍ぐらいの大きさになってる。あんな怪物を俺1人で倒せる気もしないが、このまま放っておくとやばい気がするんだ。怪物の事をじいちゃんと親父に話してみたが、全然信じてもらえなくて・・・」
ジュンとニノはハヤテにドラゴンを封印し捕獲するために樹海に来たことを説明した。
「その装置を使えばドラゴンの力を弱めることができるんだな。」
鉱石の力を抑える装置を見ながらハヤテが言った。
「うん。」
「しかし・・・お前、ちゃんと装置を置けるのか?」
「う、それは・・・」
「今回はツクロボがあるから大丈夫だよ!」
ニノがジュンをかばうように大きな声で言った。
「今回はって、前回があるのか?前回は失敗したんじゃないのか?」
「実は、そうなんだ・・・。」
「お前、普通の子供だもんな。装置を置くのはお前には任せておけない。・・・お前がロボットで気を引いているうちに、俺が装置を置くよ!」
「え!本当?ありがとう!」
「君、すごく身軽に動けるものね!」ニノも言った。
ジュンとニノは博士に新しい協力者ができた事を報告し、子ドラゴンの捕獲作戦を再開することにした。
3人でドラゴンの巣穴の近くまで戻るとハヤテに手伝ってもらって大木に登り、高いところから巣の様子を見た。ハヤテはこちらに目配せしながらうなずいた。ジュンは木から落ちないように幹を背中にして大きな枝に足を突っ張り、グローブをはめた右手を左手で支えた。
「コンストラクト!」
すると右の掌から光とともに銀色のロボットが出てきて空中で止まった。スリムで身軽そうな形状で所々に黄緑のラインが入っており、背中にはトンボのような真っ直ぐで薄い銀色の羽がキラキラと輝いている。後ろでハヤテが驚いて息を飲む気配が伝わってきた。
「行け!シルバーウインド、ドラゴンの注意を引きつけるんだ!」
ジュンはゴーサインを出した。シルバーウインドは音もなくスーッと飛んでいった。続いてハヤテがドラゴンから見えないように入り口の横に隠れて立った。
シルバーウインドは眠っているドラゴンの鼻先をかすめて飛んだ。ドラゴンは何やら異変を感じ大きな鼻息を吹いて目を開けた。突然上空に現れた侵入者を見つけたドラゴンは、怒りの咆哮をあげ立ち上がってシルバーウインドに噛みつこうとした。
ドラゴンがロボットに気を取られている隙に、ハヤテは素早くドラゴンの足下に忍び込み、装置をドラゴンの周りに五角形に置いた。
素早く逃げ回るシルバーウインドに噛みつくのは無理だと悟ったドラゴンは土砂ブレスを吐こうと息を吸い込んだ。土砂ブレスが地面に積もると装置が土に埋もれてしまい、封印ができなくなってしまう。急がねば!ハヤテがドラゴンから離れた瞬間「今だ!」と言ってジュンはスイッチを押した。
五つの装置からイナヅマのような光りが発射されドラゴンの周りを囲んだ。ドラゴンは突然力が出なくなったことに驚いてもがき「グワァァァン」と叫んだ。
抵抗虚しくみるみる身体が縮んで行き、叫び声も甲高くなり、やがてハヤテの膝くらいまでの大きさまで縮んだ。茶色から銀色に体色が変化したドラゴンのそばにはオレンジ色に輝く、こぶし大の土豪石が転がっていた。
「やったね!」
ジュンはハヤテとニノを見て言った。ハヤテは満面の笑顔でこぶしの親指を立ててやったねのジェスチャーをした。
「やったね~!」
ニノも飛びながらバンザイをした。
ニノがドラゴンに手のひらをかざすと、手のひらから円形の光が出てきた。その光がドラゴンをスキャンすると土豪石ごと消えていった。
「あ、博士から通信が来たよ!」
「君たち!よくやってくれたね!」
博士が嬉しそうな声で話かけてきた。博士の後ろの机の上には封印の中で眠っている子ドラゴンも写っている。
「ハヤテくんも協力してくれてありがとう!」
ハヤテは照れくさそうに笑った。
「捕まえた子ドラゴンはどうするのですか?」
ジュンが聞いた。
「封印装置の中ではしばらく眠ったままだ。子供のドラゴンを捕獲できるのはこの世界ではとても珍しいことなのだ。貴重な研究対象として、育ててみようと思っている。」
「えっ!大丈夫なんですか?みんな、襲われたりしないでしょうか。」
ニノが心配気にたずねた。
「もちろん特別な飼育室を用意するつもりだ。この機会を生かして、ドラゴンと共存できないか、その道を探ろうと思っているのだ。」
「そうなんですか。よかったです。」
ジュンは子ドラゴンは殺されたりするのだろうかと内心気にしていたのでホッとして微笑んだ。
夕方の西日の光を頰に感じながら、ジュンはハヤテと固く握手をした。
「ありがとう。君のおかげでうまくいったよ!」
「こっちこそありがとうな。また何か力になれそうな事があったら呼んでくれ。」
「ありがとう!そうだ、ドラゴンの事は他の人たちには秘密にしておいてほしいんだ。」
「わかってるよ。というか、周りの大人はだれも信じてくれなかったし。」
ハヤテは肩をすくめて笑った。
「残りのドラゴン捕獲がんばれよ!」
ジュンとニノはハヤテに手を振りながらルミナスフィアに乗り込み、帰途についた。
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