第8話 5日ぶりの帰宅
次の朝、研究室に行くと博士がニノの手首に何かを取り付けていた。腕輪のような形だが、色がニノのボディカラーと同じ白なので付けていることがわからないほど腕になじんでいた。
「それはなんですか?」
ジュンがたずねた。
「これが話していた異次元転移装置だ。君のグローブにも付いているが、あれは構築されたロボットの転送用で、こちらは君やニノのような生命体を安全に、そして瞬時に転移させることのできる装置だよ。」
「僕、ワープ能力がついたんだよ!」
ニノはとても嬉しそうに言った。
「よし、と。これでいいだろう。テストしてみよう。ニノ、ちょっとそこの研究室を頭に思い浮かべて、手のひらを上に上げて、ズーム!と言ってごらん。」
「ズーム!」
すると、瞬く間に手のひらから球体の黄色い光が出て大きくなりニノの体を包み込み、一瞬強くカッと光ったと思うと、ニノはその場から消えていた。ジュンは急いで研究室に走っていった。興奮と期待が入り混じった気持ちで研究室の中を覗くと、ニノがデスクの上に立っていた。
「すご〜い!」
「ワープできたよ!」
博士も遅れてやってきた。
「よーし。成功だ。これでニノがジュンくんの体の一部に触れていれば一緒にワープできるだろう。」
「ドラゴン達はニノの心臓代わりの鉱石エネルギーを敏感に感知してしまうから、いざドラゴンと対面した時に、ニノの鉱石エネルギーを抑える装置を組み込んだ。しかし、そうするとニノが動きづらくなってしまう。それを補うために新たにワープ機能を追加したのだ。こちらはマテリアライザーからのエネルギーを流用していて電流も微弱なので感知されにくいというわけだ。」
「博士!すごいです!」
「これでニノがジュンくんをサポートする事がさらにスムーズになるだろう。」
博士は満足げにつぶやいた。
とうとうジュンとニノが出発する時間がやってきた。
「ジュンくん、君と過ごしたこの数日間、短い間だったが君の素直さや素晴らしいひらめき、そして心の強さをたくさん見せてもらったよ。君ならきっと大宝鉱石を取り返すことが出来る。どうか頑張っておくれ。」
ジュンは真剣な顔でうなずきました。
「ニノや、頼んだよ。ジュンくんと協力してしっかりやっておくれ。」
「わかりました!ジュンの力になれるよう、頑張ります!」
ジュンはしゃがんでトトの頭と背中を撫でた。トトは尻尾を振ってジュンの膝に身体をぴったりとくっつけた。
「トト、またね。」
「お別れは済んだかな。そろそろ出発の時間だ。」
ジュンは地球から持ってきたリュックの中に入っていたキッズケータイを取り出してみた。画面にはPM16:38と表示が出ていて、この世界に来る前と日付も変わっていなかった。良かった、まだ地球の時間は3時間程しかたっていない。
親にも心配かけていないようだ。
「ジュン、ワープするから手をつないでね。」
ジュンが手を出すとニノが小さな手で人差し指を掴みました。
「博士、それでは失礼します。」
博士に会釈をするとニノは大きな声で唱えた。
「ズーム!」
ジュンは強い光に包まれて思わずギュッと目をつぶった。
次に目を開けた時には目の前の景色がガラリと変わっていた。
「ここは・・・」
ジュンはあたりを見回した。そこはジュンが最初にネジを見つけた公園近くの遊歩道だった。
「ワープ成功だね!」
ニノがニッコリ笑って言った。
ジュンは足元を指差した。
「ここであのネジを拾ったんだよ。それで、あの植え込みの中にワープの穴が・・・。」
植え込みを覗き込んだ。
「あ、もうないや。」
「ワープホールはすぐ消えちゃうからね。」
「あっ!急いで家に帰らなきゃ!うちの門限は5時なんだ!」
キッズケータイのデジタル時計は16時45分をさしている。急がないと間に合わない。ジュンは足早に歩き出した。
「ジュン、待ってよう!」
新しい世界に興味津々でキョロキョロあちこち眺めていたニノがあわてて飛びながら追いかけてきた。ジュンはピタッと止まってひそひそ声で言った。
「ニノ、君、目立ちすぎる!」
「そうだった!でも大丈夫!」
ニノはカシャンカシャンと音を立てて素早く変形しだした。
「?」
ニノはあっというまにしずくの形をした大きめのキーホルダーになったのだ。そしてジュンのリュックサックにピタッと張り付いてきた。
「うわーっ、君こんなこともできたんだね!」
「ジュン、いいから急いで!」ジュンは走り出した。
遊歩道を抜けて今度は川沿いの歩道を抜けて、左に曲がって橋を渡ってまっすぐ行き、ようやくジュンの家に着いた。
時間を見るとPM16:58だった。
「間に合った・・・」ジュンが一息ついていると、キーホルダーから声がした。
「ジュン、いつも通りにふるまってね。僕のことは内緒だよ。」
「わかった。ただいまー!」
勢いよくドアを開けて靴を脱いで揃えて、リビングまで歩いていった。
「おかえり!あらジュン、汗だくじゃないの。」
「お母さん!ただいま!」
久しぶりに母の顔を見てジュンは目頭が熱くなってくるのをこらえた。
「あら、どうしたの?」
「な、なんでもないよ!」
はにかんで笑いながら後ずさりし、一目散に階段を駆け上がった。自分の部屋に入ってベッドに腰掛け、フーッと安堵のため息をついた。そしてリュックをニノのキーホルダーが下にならないようにそっとベッドの横に置くと、ごろんと寝っ転がって思いきり伸びをした。
「あー、やっと帰ってこれた!」
ロボットの世界で5日間過ごしたので、長い旅に出ていたような気がする。前はなんとも思っていなかった部屋もとても懐かしく感じる。ベッドの上に吊り下げている太陽系のモビールを眺めているうちに、まぶたが重たくなってきて深い眠りについた。気持ちよく眠っていると、やがて階段の下からお母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「ジューン!ご飯できたよ。お父さんも帰ってきたよ!」
ジュンはガバッと起き上がるといそいそと階段を駆け下りた。
リビングに入ると、ソファにカッターシャツにスーツのズボンのままジュンのお父さんが座っていた。
「おー、ジュン、ただいま!」
「おかえりなさい!」
ジュンはお父さんの横に座った。
お父さんは、めずらしく横にぴったりとくっついて座る息子に少し驚きながらも嬉しそうに微笑んだ。2人で目を合わせてなんとなくニコニコしていると、お母さんがジュンのことを呼んだ。
「もう食べられるから、お箸を並べてね。」
箸を置きながら、ジュンは目を見開いて、思わず大きな声で言った。
「唐揚げだ!やったー!」
ちゃんとした地球の食べ物を食べるのは5日ぶりで、しかもジュンの大好物の唐揚げだ。
きつね色にカラリと揚がったアツアツの唐揚げとごはんを夢中で食べた。
いつにない勢いで夕飯をかき込む息子をお父さんとお母さんはあっけに取られて見つめていた。ジュンは3つ目の唐揚げを飲み込んだところで、両親の視線に気づいて、ハッとした。
しまった、がっつきすぎた。ごまかさなければ。
「やっぱり唐揚げは美味しいね!」
元気よく言うと、2人ともフッと微笑んでくれた。
「とってもお腹が空いてたのね。たくさん食べてね。」
お母さんが言った。
「ごちそうさま!お風呂入るね!」
ジュンは大きな声で言って食器をキッチンに運んだ。
「あら、もうお風呂に入るの?」
両親とも不思議そうな顔をしている。それもそうだ。いつもなら夕食後はおしゃべりをしたり、お父さんとゲームをしたり、家族だんらんの時間になるからだ。
「うん、汗かいて気持ち悪いんだ。」
久しぶりのお風呂に早く入りたいのもあるけれど、これ以上リビングにいると、数時間前の大冒険を両親に話したくなってしまうような気がしたので、そそくさとお風呂に向かった。
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