第5話 ロボット王達の円卓会議
目覚めた時、ジュンは見知らぬ部屋のベッドに寝ていた。
見慣れないコードと配管がたくさん通っている天井を見てかすれた声でつぶやいた。
「ああ、僕、研究所に戻ってこれたんだ。」
部屋の一面は上半分がガラス張りになって扉は解放されていた。
ガラスの向こうにフォトン博士の背中が見えた。新しい装置の調整をしているようだ。
トトがジュンが起きたのに気づいて尻尾を振りながら寄ってきた。
ジュンがトトの頭をなでていると、
「そろそろ完成ですね。博士!」
甲高い声がして、ニノが飛行しながら研究室に入ってきた。
「あ、ジュン!目覚めたんだね。」
ジュンはそろそろと起き上がった。よく休めたのか、心も身体も軽快な感じがする。
「異次元転移装置が完成しそうだよ!」
「え!すごい!」
「おお!ジュンくん、陽光石を取り戻して、無事に帰ってきてくれて嬉しいよ!」
博士はジュンに抱きつかんばかりに、両手を広げながら嬉しそうに近づいてきた。
とたんにジュンは色々なことを思い出し、がっくりとうなだれた。
「でも、博士、僕は鉱石を1つしか取り戻すことができませんでした。ごめんなさい。」
「そんなのいいんだ!陽光石だけでも大進歩だ!君はベストを尽くしてくれた。気にすることはない。」
「これでマテリアライザーを動かせるようになったんだよ!ありがとう!ジュン。」
ニノが嬉しそうな声で言った。
ジュンは洞窟で見たことをフォトン博士とニノに話しました。
闇のドラゴンには子供がいたこと。4匹が残りの大宝鉱石を持って飛び立ってしまったことも。
「ふむ、フォールニクスが鉱石を奪っていった理由はそれもあったのかもしれんな。産卵や子育ての為にエネルギーを必要としていて、5つの大宝鉱石を奪っていったのかもしれん。しかし、普通のドラゴンは産卵を控えてもロボットを襲うのみのことが多い。大宝鉱石は力が強すぎる。それを5つも奪うとは。何故そんなことをしたのかやはり疑問は残る。」
「残りの大宝鉱石と子ドラゴン達はどこに行ったのでしょう。」
ニノが心配そうに言った。
「子供といえど、ドラゴンの飛翔力はあなどれんからな。この世界のどこかには潜伏していると思うが。」
研究所の入り口の方から誰かの走る足音が聞こえてきた。どんどんこちらに近づいてきて、ひどく慌てた様子の兵士姿をしたロボットが駆け込んできた。
「失礼いたします!フォトン国王!緊急の報告です!」
「なんだ、騒がしいな。」
「国王!?博士って王様だったの?」
ジュンはビックリして大声になってしまった。
博士が気まずそうに答えた。
「じ、実はそうなんだ。城はあれだ。」
と研究室の窓から見える大きな光る建物を指さした。
「しかし、まずは報告を聞こう!」
兵士ロボットは直立敬礼したまま早口で言った。
「フォールニクスの住処の近いところにオルガ界へ通じるワープホールが開いていて、2日前に4匹の小さなドラゴンが入っていくのを目撃したという報告が複数きています!」
「なんと!・・・ううむこれは由々しき事態だ。」
フォトン博士は頭を抱えるしぐさをした。
「子ドラゴンが僕たちの世界に行ったってことですか?」
「そうだ。以前にオルガ界にドラゴンや鉱石が移動した記録はあっただろうか。」
ニノが机の上の画面を操作して調べていた。
「えーーっと・・・ありました!前に一匹の大人のドラゴンがレベル6の鉱石を持ってオルガ界に侵入したみたいです。この時は…大変だ!石の力で岩盤プレートを動かして、大地震を起こしたみたいです!」
皆いっせいに画面を覗き込んだ。
そこには巨大なドラゴンの姿と、地震によって崩れて瓦礫の山になってしまった街の映像が写っていた。
「隣り合った3つの街が崩壊し、多数死傷者が出たみたいです。」
「え!なんでそんなことが起きるの!?」
ジュンは驚いて言った。
「この世界の鉱石はオルガ界にいくと力が増幅し、鉱石を持っているドラゴンは鉱石の属性の力を身につけるのだ。そして災害を起こす程の強い力を持つようになる。」フォトン博士が説明した。
「そのドラゴンはどうなったの?」
「えーっと」
ニノは画面を操作して探している。
「あ、あった!どうやらその鉱石の力はレベル6程度のものだったらしく、地震で力を使い果たして、効力のない石に戻ったようです。そしてドラゴンも共に力を使い果たして死んだようです。」
「うーむ、ますます困った。オルガ界に行ったまだ子供のドラゴンがどれほどの力を持つのか、またこの世界ではレベル10の最高の力を持つ4つの大宝鉱石の力がオルガ界ではどうなるのか、まったく予測がつかない。」
「オルガ界に行って鉱石を取り返さなければいけないんですかね。」
ニノがおぼつかない様子で言った。
「うむ。そうなるな。しかし、万全の備えと計画が必要になるぞ。そして4つの大宝鉱石は各王族のものだ。まずは近隣の王達を集めて話さねばならん。」
その日の夕方、各国の王達が光の国の天光城に集まり会合が開かれた。真っ白な大広間に大きな円卓が置かれ、4つの国のロボット王達が着席していた。各国の王たちが引き連れてきた、たくさんのお供の者たちもずらりと壁際に並んでいた。
ジュンもニノに案内されて、フォトン国王の席の隣にニノと一緒に着席した。
最後に金の王冠を戴き、光り輝く黄色のマントを羽織ったフォトン国王が席に着いた。
フォトン国王が口を開いた。
「皆様、ようこそ、我が光の国へ」
いつもの軽やかな口調とうってかわって威厳のある声だ。
「フォトン国王、ひさしぶりだのう!」
いかめしい老戦士のような王様ロボットが声をかけた。
「陽光石をドラゴンから取り戻せたと聞いたが本当か?」
王様全員が円卓にやや身を乗り出した。皆とても興味があるらしい。
「それは本当のことだ。」
ほぉ、とどこからともなくため息ともつかない感嘆の声が漏れた。
「ここにいるオルガ界から来たジュン殿が、取り返してくれたんだ。」
どよめきが起こり、皆が一斉にジュンの方を見た。ジュンは緊張して身が縮まってしまった。
「そりゃ、すごい!」
「勇気があるのね!」
「闇のドラゴンと戦ったの?」
国王達がいっせいに話し始めた。
ジュンは誰を見ていいのかわからなくなり、困った顔でフォトン国王を見た。
フォトン国王が手を広げてみんなを諌めた。
「王達よ、待たれよ!まだたくさん話すことがある。そしてジュン殿も訳がわからないと思うので、まず皆を紹介させておくれ。」
フォトン国王はジュンに王達を紹介した。
「ジュン殿、手短に紹介しよう。私の右側から火の女王フィオナ、土の王ドレイク、風の王マルキセス、水の女王アイリーンだ。」
火の女王フィオナは品のある物腰のロボットで、燃えるように輝やく炎の王冠と、お揃いの模様の裾が広がった赤いドレスを着ている。
土の王ドレイクは足元にはまるで戦車のようなキャタピラーが付き、土色の強そうな鎧と兜のような装甲がついたロボットだ。
風の王マルキセスは白と緑のスピード感のあるボディで背中にはいかにも速く飛べそうな直線的なフォルムの翼がついている。
水の女王アイリーンはジュンと同じくらいの背格好だ。子供なのだろうか。水色と青を基調としたひざ丈のドレスを着て、銀色に輝くティアラに水のヴェールをまとっていた。
そして国王たちにジュンの紹介もして、フォトン国王は各王達に事の経緯を説明した。ジュンが陽光石を取り返した事、子ドラゴン達が他の4つの鉱石を持ってワープホールを通ってオルガ界に行ってしまったことも。
説明が終わるとさっきとはうってかわって室内は静かになった。みんな難しい顔をして、思案にくれているようだった。
一番最初にか細い声で口火を切ったのは、アイリーン女王だ。
「それで、私たちに何ができるのでしょうか。」
マルキセス王が言う。
「まさかオルガ界に行ってしまうとは。しかし、大宝鉱石は我らの至宝、どうしても取り返したい!」
フィオナ女王も開いていた扇子を閉じて深刻そうに呟いた。
「何か良い案はないかしら…。」
「ドラゴンへの研究と対策はフォトン国王のところが最先端のはずじゃ。我が国には屈強で勇敢な兵士は沢山いるが、我らの心臓とも言える鉱石のパワーをすぐに感知して奪いとってしまうドラゴン相手では、未だに苦戦しておる。」
重々しい口調で語るドレイク王にフォトン国王が答えた。
「そうですな。うちは最新鋭の対ドラゴンの装備や武器も開発している。しかし鉱石の気配を消す装置はまだ不完全なのです。」
しばらく議論が交わされたが、なかなか解決策が浮かばないようだった。
そんな中、ジュンは思い切って言った。
「あ、あの、僕が力になれることがあれば。」
皆がまた一斉にジュンを見た。
ジュンは緊張して声が小さくなったが、勇気を出して最後まで言った。
「もともと、ぼくが大宝鉱石を全部持って帰れなかったこともあるし、オルガ界は僕の世界だし…。」
長い間沈黙の後に、フィオナ女王が強い口調で言った。
「こんな小さな子に、また危険な事をさせるのは私は反対です。」
マルキセス王がジュンに尋ねた。
「オルガ界で何が起こるか、ここよりも予測できないよ?君、大丈夫なのかい?」
ドレイク王が腕組みして唸り、しばらくして言った。
「しかし、現実問題、この世界の事情も理解していて、ドラゴンに気付かれずに近づけるのはこの子だけじゃ。」
アイリーン女王が心配そうにフォトン国王に聞いた。
「ジュン殿を守れるほどの装備や武器が揃うのでしょうか?」
またしばらく議論が交わされた。
長い長い議論の後、最後にはジュンに鉱石の奪還を手伝ってもらうことが決まり、そして取り返した各属性の大宝鉱石は、全部の子ドラゴンの捕獲が終わるまではマテリアライザーに組み込んで捕獲作戦に使用していいということが決定して会議は終わった。
最後に国王全員がジュンの周りに集まり、ジュンの手を握って頼んだよと激励した。ジュンは唇をかたくむすんで、真剣にうなずいた。
会議が終わった後、それぞれの国王は少しの時間、世間話をすると、大勢のお供のロボットを引き連れて帰って行った。
みんながいなくなった後に、ニノがジュンに改めて聞きました。
「ジュン、本当にいいの?」
「うん、だって僕の家族や友達の住む世界を守ることにもなるし。」
「そうか。僕、心配だなぁ。火山の時みたいについていけたらいいのになぁ。」
「ありがとう。そうだね。君がいてくれたら心強いんだろうな。」
ジュンは大任に不安を抱きながらも微笑んでみせ、心の中では本当にニノがついてきてくれたらいいのになぁと切に思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます