第4話 ドラゴン封印と想定外の出来事
「ここがドラゴンのいる洞窟だよ。 ごめんね、ジュン。ぼくは鉱石エネルギーを感知されないようにバリアの中に入るね。
バリアは1時間後に解除される。ぼくはここでルミナスフィアをすぐ出発させられるようにして待っているからね。」
ニノはそういうと、鉱石エネルギー遮断装置のスイッチを入れた。装置から出てきた黄色い光に包まれて、ニノは宙に浮き身体を丸めた。
ジュンはうなずいて封印装置の入った黒いリュックを背負い、船の外に出た。ルミナスフィアはジュンが降りると光りが消え、辺りは真っ暗になった。
博士から受け取った暗視ゴーグルをかけると周りの様子が見えるようになった。ジュンは足元に気をつけながら歩き始めた。しばらく歩いていると、奥の方からゴォォォという音が聞こえてきた。ジュンは闇のドラゴンの鳴き声だと思って身を固くし、少しの間立ち止まっていたが、また足音を立てないようにそろそろと歩き出した。音は前に進むたびに少しずつ大きくなっていく。しばらく聞いていると、その音は規則的に繰り返していることがわかった。どうやらドラゴンの寝息かもしれないと思えてきた。さらに歩いて行くと、突然視野が広くなり天井がドーム状になっている広い場所に着いた。
そこには見上げるほどの大きさのドラゴンが体を丸めて眠っていた。
溶岩の光に下から照らされたその姿は紫色のうろこで覆われ、黒い大きな翼で身体を隠すようにしている。頭には赤い角が二本、顎には硬い棘がたくさん生えていて、口元にはびっしりと生えた鋭い牙も見えた。
ドラゴンを間近に見た途端、ジュンは口から心臓が飛び出るのではないのかと思うくらい動揺し、呼吸が浅く早くなった。色々な恐ろしい想像が頭をよぎりそうになったが、頭をブルブルと振ってその考えを振り払い、出来るだけ静かに大きく深呼吸をした。ドラゴンを起こしてはいけないので、心の中で自分に言い聞かせた。
「タイムリミットはあと40分。ぼくのやることは封印装置を置いて起動して、5つの石を取って帰るだけ!」
ジュンは意を決して行動を開始した。
ジュンとドラゴンの間には切り立った崖があり、その下は溶岩がボコボコと音を立てて沸いていた。これではドラゴンにまっすぐ近づくことはできない。ジュンは辺りを見まわした。するとドラゴンの尻尾のほうに対岸に渡る事が出来そうな岩の橋を見つけた。見つからないように壁づたいにドームを横切り尻尾のほうに回った。そして音を立てないように忍び足で橋を渡った。
ドラゴンの周りには大小たくさんの石が転がっていた。ドラゴンに奪われたロボット達の鉱石なのだろう。
ジュンは音を立てないように堀の外側に1つ、2つと封印装置を置いていった。ドラゴンはゴォォォゴォォォと寝息を立ててよく眠っている。
3つ、4つと置いて最後の1つを置こうとした時、
「!」
ジュンの左足のふくらはぎに突然激痛が走った。何か小型犬のようなものに嚙みつかれたのだ。ジュンは反射的に溶岩の崖のほうに飛びのいた。飛びのいた拍子に手がすべって最後の1つの封印装置を溶岩の中に落としてしまった。
あわてて崖の下をのぞいたが、5つ目の封印装置はドロドロの溶岩の中に黒く焦げながら沈みこんでいくところだった。
振り返ってさっき自分の立って場所に目を凝らすと、小さな黒い影が素早くドラゴンの翼の下に逃げていくのが見えた。
頭上からグルァァァと大きな声がしてジュンはハッとして上を見た。金色にギラギラ光るドラゴンの瞳が目に飛び込んできた。
「しまった!見つかった!」
ドラゴンは小さな侵入者を見つけて起き上がり、息を吸い込んだ。
「まずい!炎を吐こうとしてる」
いくら特殊なスーツを着ていると言ってもドラゴンの吐く黒い炎をこんな近くで浴びたらひとたまりもない。ドラゴンの口から炎が今にも吐き出されそうになった時、ジュンは思い切って手に持っていた起動ボタンを押した。
4つしかない封印装置からは稲妻のような強い光がドラゴンに向けて発射され、ぶつかり合った光が網になってバチバチと音を立てながらドラゴンの周りを囲んだ。
ドラゴンはグォォン!グォォン!と吠え、苦しみもがいて縮み始めた。ジュンは固唾をのんでその様子を見ていた。ドラゴンが半分くらいの大きさになると、ドラゴンの腹の下の小石たちの中にひときわ大きく、強くキラキラと輝く石たちが出てきた。
ジュンは封印魔法で苦しんでいるドラゴンに身を低くして近づき、そろそろと手を伸ばして一番大きくてキラキラ輝いている黄色の石を掴んだ。その途端、ドラゴンの腹の下で、何か黒い影が動いた。
「!?」
ジュンは必死に目をこらした。
影達はそれぞれ残り4つの鉱石を掴むと、あっという間にバリアの網をすり抜け、高く上の方に飛んで行ってしまった。
「あれは…ドラゴンの子供!?」
ジュンはあっけにとられてしばらく上を見つめていた。ドームの天井に抜け穴があるらしく、天井付近まで飛ぶと4匹の子ドラゴン達は姿を消してしまった。
グァァァン!ドラゴンは小さくなった分、少し甲高くなった声でまた咆哮をあげた。ジュンは我に帰った。ドラゴンは小さくなったとは言っても、まだじゅうぶんに大きくて鋭い歯をむき出しにして噛み付こうとしてきた。ジュンは下がってよけた拍子にバリアから出て尻もちをついたが、すぐ立ち上がって橋に向かって走り出した。ドラゴンも追いかけようとしたが、光の網の外に出ようとした途端、バチッと音がして弾き返された。網の中から出られないとわかった母ドラゴンはますます怒り狂い、グォォォン!と一声叫ぶと、ゴォォと音を立て息を吸い込みだした。また炎を吐こうとしているようだった。これ以上ここにいるのは危険だ。ジュンは残りの石をあきらめて船に戻ることにした。
ジュンはひたすら前を見て船の方に向かって走り出した。
ドラゴンはジュンが逃げ込んだ通路の入り口の上方に向かって炎を吐いた。走るジュンの背中には焼けつくような熱風が当たり、炎によって崩された洞窟の天井が奥からこちらに向かってどんどん崩れてきているのが感じられる。ジュンは後ろを振り返らず走り続けた。
船までまだ遠い!このままでは土砂の下敷きになるかも!
と思ったときだった。
「ジューン!」
ニノの声が聞こえ、白い光を放つルミナスフィアがあっという間に近くにきた。
「ニノ!」
「早く乗って!洞窟が崩れちゃう!」
ジュンが急いで乗り込むと船はくるりと向きを変え、洞窟の外に向かって進み始めた。
洞窟の崩れはどんどん激しくなりルミナスフィアまで追いついてきた。ガン!ゴン!ガン!とうとう上から落ちてきた大きな岩が機体にぶつかり始めた。
「このままじゃ出口までもたない!」
そう言うと、
ニノは両手のひらを前に出し大声で叫んだ。
「あつまれぇ!!」
するとニノの手の平から青い光がボワっと出た。すぐに機体の外に無数の水の粒がどこからともなく集まってきた。水はあっというまに増えて大きな塊になり、ルミナスフィアを包みこんだ。岩は上から落ち続けていたが、水の膜がバリアとなって、岩は機体の両脇をすり抜けて下に落ちていった。
ニノの水のバリアのおかげで船は壊れることなく洞窟を脱出することができた。
「ニノ!ありがとう!助かったよ。」
「はぁ~、僕、もうパワーを使い果たして動けないよ。後は自動操縦で帰るね。」
と言って、ニノはスイッチが切れたように動かなくなってしまった。
ジュンもまた、自分のシートに座ると全身がしびれるような疲れが押し寄せてきてあっという間に眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます