第2話 ドラゴンに襲われるロボット達 


「うまくいったぞ!」


「やりましたね!博士」


「史上最速の乗り物が出来上がったぞ!」


「ワン!ワン!」

ジュンは2人と1匹が喜びあってる姿をしばらくぽかんとながめていた。


「あ、すまないね。きみが拾ったネジは実は魔法の鉱石で作ったネジなんだよ。このネジをはめ込むと、このように一体化して発光するマシンになるんだよ。」


「わあ、すごいですね!」


「このルミナスフィアは今の時点で、この世界で最も早く飛ぶことができ、火の中や

水の中も一定時間なら耐えられるはずだ。ジュンくん、ありがとう!ニノが石加工の店から荷物を運んでいるうちにこのネジを落としてしまったようだ。それがこの世界に時々発生する異次元に通じる穴に落ちてしまってそれをジュンくんが運んできてくれたんだよ。」


「ジュンくんありがとう!」

ニノもジュンの手を取ってお礼を言いました。


「ルミナスフィアの開発もひと段落ついたし、一休みしてジュンくんにここのことを話そうか。こちらにどうぞ。」


博士が指差した真っ白な壁からウィーンと音がしてスッと板と4角の物体が出てきて、ジュンの膝の後ろで止まった。どうやら椅子のようだ。ニノは机の上に着地し、博士は座らないようだった。トトはジュンの足もとに来てツルツルの固そうな尻尾を振った。


「そうだ。ニンゲンはこういう時何か飲んだり食べたりするものらしいね。しかしあいにく私たちロボットは食べたり飲んだりしないんだ。ニノ、この世界でニンゲンが食べられるものはあったかな?」


ニノの目のなかに光の縞模様が現れてピカピカと動いた。


「今検索してます。あ!70年前にこちらの国に来たニンゲンはパプナを食べていたという記録があります。」


「そうか。草原の中にパプナの木が生えていたね。すまんが実を取ってきてくれるか?」


「はい!」


ニノはスーッと宙に浮かんでドアの向こうに消えた。


「ニノを待っている間にこの世界のことを話そうか。」

ジュンは目を見開いて大きくうなずいた。この不思議な世界に対する疑問がたくさん湧いてきているのだ。


「どこから話せばいいのか…。まずはこの世界の環境から話そうか。ジュンくんの住んでいた世界は有機的な生き物がたくさんおるが、こちらの世界は無機的な生き物が80パーセントを占めている。わかりやすく言うと、君の世界で言うところのロボットが、そちらの世界の人間のようにたくさん存在しているんだよ。もちろん動物も植物もほとんどが無機的生命体だ。」


「人間はいないのですか?」


「ニンゲンは時々この世界に迷い込むことはある。こちらのロボット達はニンゲンに好意的な者が多いので、協力を得てワープホールを見つけて元の世界に戻った事もある。なかには戻りたがらず、自ら望んでこちらに命が尽きるまで住んでいた者もいたようだ。」


元の世界に戻れた者がいたと聞いて、ジュンは少し安堵した。


「こちらのロボットたちはニンゲンと同じようにロボットの赤ん坊として生まれてきて、成長し歳をとったらロボットのまま死ぬのだ。そしてロボットたちはみんな生まれた時にエネルギーを発し続ける鉱石を1つ、人間で言うところの心臓の代わりに持って生まれてくるんだ。鉱石のエネルギーが切れたり、鉱石を体内から取られるとロボットたちは死んでしまう。」


「博士!取ってきました!」


ニノが重そうに体の三倍くらいあるような真っ赤な丸い物体を運んできた。よくみるとニノは手の平から網状の水を出していて、その水がくだものを包み袋のようになっている。ジュンはありえない光景に目を疑ってぱちぱちと瞬きをした。


「ははは。驚いたかね。ニノは水を操る能力があるんだよ。ニノ、ありがとう。ジュンくん、これがこの世界で人間の食べられるパプナという果実だ。」



「甘くて栄養があって美味しいらしいよ。ここから皮がめくれるよ。」

そう言ってニノは果物の頂点を指差した。その果物は皮は真っ赤で表面はボコボコしている。ジュンは恐る恐る皮をむいた。思ったより柔らかくて簡単にむけた。中にはオレンジ色の光る果肉が入っていた。

果肉はじんわりと光を放っていて、こんな光るものを食べても大丈夫なのか?と一瞬思った。しかし正確な時間はわからないが、こちらの世界に来てすでに何時間もたっていて、空腹も限界だ。甘酸っぱいよい香りがしてきて我慢できず、思い切って一口かじってみた。


「おいしい!」


香りはリンゴのようだが、果肉はパイナップルをもっとジューシーにしたような味でとても美味しい。ジュンは夢中で食べ始めた。

博士とニノは物珍しげに食べているジュンを見つめていた。ジュンがひととおり食べて落ち着いた後に、博士はまた話しだした。


「このルミナスフィアを開発したのはある計画を遂行するツールの一つだったからだ。その計画は、この世界に害をなすドラゴンを封印すること。そしてそのドラゴンが奪っていった大宝鉱石を奪還することだ。」


「ドラゴンですか…。」

こちらの世界にはドラゴンがいるのか。ジュンはすこし緊張して、膝に置いたこぶしを握りしめた。


「半年前に闇のドラゴン、フォールニクスがあらわれた。やつは定期的にこの周辺の国々に現れロボットたちを襲い胸にある鉱石を奪っていくのだ。」


「鉱石を奪われたロボット達は動けなくなって、すぐ死んじゃうんだよ。」ニノが小さな声でジュンに言った。


「鉱石はロボットの体から離れると一か月くらいでエネルギーを発さなくなるのが普通だ。しかしまれに持ち主が亡くなった後も、永遠に強力なエネルギーを出し続ける鉱石があるのだ。それは大宝鉱石と呼ばれ、この世界では大切な宝物として扱われている。」

博士は足元に来たトトの頭を撫でながら続けた。


「2か月前、フォールニクスは我が国と近隣の王国の城を襲撃して貴重な大宝鉱石をすべて奪って行った。その中の1つに私の祖父の鉱石もあった。他の国の国王達に頼まれたのもあるが、私自身も大宝鉱石を取り戻したいのだ。祖父の心臓だった『陽光石』があれば、こちらの魔法のマテリアライザーも動かせるようになる。」

博士はジュンの左側にある大きな壁を指差した。


すると壁がゴゴゴゴと音を立てて上がっていき、奥にさらに広い部屋があらわれた。そこには高い吹き抜けの天井に届きそうな、小山のような大きな機械が現れた。カラフルで曲線的なパーツが組み合わさって上のほうは先細りになって塔のようになっている。


「うわぁ、大きな機械ですね。マテリアライザーってなんですか?」近づいて行って見上げながらジュンは尋ねた。


「これは機械作りをもっと効率的にできる装置なんじゃ。 君たちの世界では・・・3Ⅾプリンタという装置が近いかな。しかしこれはもっと高性能だ。頭の中でイメージするだけで、動くことが可能な物体を創り出し、鉱石の魔法の力で命を吹き込んでくれるのだ。・・・しかしそれには強い魔法の力を持つ鉱石が必要だ。」

ニノは腕組みをしてうんうんと大きくうなずいた。


「フォールニクスはここから遠く離れた火が燃えさかる火山の中の洞窟に住んでいて、奪った鉱石をたくさん下に敷いて寝床にしている。鉱物から発せられるエネルギーを糧にしているのだ。私とニノが行ってドラゴンを封印して鉱石を取り返そうとしていたのだが・・・。ドラゴンはとても目が悪いのだが、鉱物のエネルギーにだけにはとても敏感でな。ロボットが近づくとすぐに存在を感知されてしまうのだ。私とニノの鉱物エネルギーの気配を消す装置も作ったのだが、そのバリアの中に入ると私たち自身も動きが遅くなってしまうところまでしか開発できていなくて・・・。」


博士は考えこんでしまったようでしばらくの沈黙が訪れた。


「おお!そうだ!」


突然何かを思いついたようで、博士の目の光が大きくなりチカチカと点滅した。


「ジュンくん、申し訳ないが、代わりに行ってくれないか?」


「えーっ!?」


ジュンは思ってもみない提案に驚いた。


「そうか!ニンゲンは鉱物エネルギーで動いてないからドラゴンに見つかりにくいんですね!」


ニノも目をピカピカ点滅しながら大きな声で言いました。


「もちろん、私たちが開発した最先端の武器や防具を用意し、できる限りのバックアップをするよ。大宝鉱石を取り返したあかつきには、完成したマテリアライザーも試せるようにしてあげよう。」


「うーん・・・。」


ジュンは腕を組んで一生懸命頭を働かせた。ドラゴンは本当に怖い。けれど、目の前のロボットたちは本当に困っている様子だ。先ほど完成した世界最速のルミナスフィアに乗ってみたいし、完成したマテリアライザーも試してみたいという好奇心が湧いてきて、不安に打ち勝ってしまった。


「・・・わかりました。怖いけど、僕、やってみます!」


「おお、引き受けてくれるのか!」


「ジュンくん、ありがとう!」


ニノも目を輝かした。


「詳しい作戦は今から話そう。とにかくジュンくん、ありがとう!」

博士はジュンの手をとって喜んだ。ジュンもしばらく微笑んでいたが、にわかに顔を曇らせた。


「でも・・・。一つ気になっていることがあります。僕は家に帰れるのでしょうか。僕が急にいなくなって、両親が心配してると思うんです。」


「そこらへんは問題ない。地球・・・こちらではオルガ界と呼ばれている。オルガ界はこちらより、時の流れがずっと遅いんだよ。えーっと・・・ざっと計算すると、むこうの1時間がこちらの1日に当たる。今の時点でも君がこちらに来てからオルガ界では約5分しかたっておらん。君が鉱石を取りに行っている間に、オルガ界に帰るための転送装置を私が開発しておこう。」


「ありがとうございます!」

ジュンはホッとして心から笑顔になった。






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