第112話 爆発、タコ王子

『ユウキ様』

「うん」


 敵とにらみ合いの中、セラが話しかけてくる、


『近づくのは危険だと思います』

「たしかに」


 ゴーレムを簡単に破壊してしまう強力な触手。

 しかもタコだけに吸盤きゅうばんがついているから、捕まったら離れるのはむずかしい。

 そんな武器を敵は八本も持っている。

 接近戦で勝ち目はないだろう。


「なら空だな!」


 クリムゾンセラフは飛び上がった。


『逃げられると思うな!』


 巨大タコの触手がのびる。

 予想以上に素早く、そして長くのびてきて天使の足を捕まえた。


「チッ!?」


 強力な腕力で引っ張られ、地面に叩けつけられそうになる。


「こなくそっ!」


 瞬間的に勇輝はつかまれた天使の足を刃物に変化させた。


 ブシューッ!!


 力いっぱいつかんでいた触手が刃にくいこんで、傷口から黒い霧をきだした。


『ぐわあぁっ』


 王子は痛みに悲鳴をあげ、触手をはなす。


「おっと、とっ」


 クリムゾンセラフはよろけながら地面に着地した。

 足はすぐ元通りになる。


『おのれ、なんて可愛げのない女だ!』


 タコ王子があいかわらず身勝手な持論じろんを展開する。


『私がせっかく一人前の淑女しゅくじょにしてやろうというのに、どうしてそんなに聞き分けのない!』

「ぬかせゲス野郎。

 お前は俺の処女膜が欲しいだけだろ、分かってんだよクズ」

『なっ、なんて言い草だ!

 頭がおかしいのかお前は!』

「おかしいのはお前だ」


 クリムゾンセラフの周囲がボコボコと盛り上がる。

 砂浜から木と金属でできた射撃武器が続々とわき出てきた。


 大型クロスボウ『バリスタ』だ。


 やじり(矢の先端部分)には爆発魔法がしかけてある。

 聖騎士団が悪魔ディアブルとの戦いにつかう本格的な兵器だ。


「自分のことばかり考えやがって、痛みを知れゴミクズ」


 バリスタが一斉に矢をはなつ。

 巨大タコに全弾命中した。

 海の中ならタコはそうとう素早く動ける、だがここはおかの上。

 ズルズルといまわることしかできない巨大な的など格好の餌食えじきだ。

 神などと気取ってうぬぼれている王子の思い上がりが裏目に出た。


『ギャアアアアッ!』


 タコが全身から黒い血を噴く。

 次の瞬間、突き刺さったやじりが内側から爆発した。


 ズドドドドオオオオンン……!!


「………………」


 派手な大爆発。

 煙幕が視界を埋めつくす。 


 念のため、勇輝は『とある細工』をほどこしてから空へ飛びあがった。

 さきほどの経験をいかし、かなり余分に高度をとる。


『ユウキ様?』

「しっ」


 話しかけてくるセラをだまらせた。

 一分ほどそのまま待機。

 待っているうちに潮風しおかぜが煙をすべて流してくれる。

 タコの姿はどこにもなかった。


『我々の勝利です』

「いや、そこまでデカいダメージは与えてないはずなんだ。

 もうちょっと待とう」


 勇輝とセラは空中から戦場を見下ろす。

 海。

 砂浜。

 波打なみうちぎわ。


 そして砂浜には、クリムゾンセラフ・・・・・・・・が立っていた・・・・・・


 ズズッ、ズズズッ。


 何か大きなものを引きずるような音がする。

 しかし闇夜の中、音を出している正体は見当たらない。


 地上のクリムゾンセラフの真横から、砂が突然襲いかかった!


『フハハハハハッ!

 油断したなおろか者め!』


 砂が正体をあらわす。

 それは傷ついた巨大タコであった。


 タコにはカメレオンのように身体の色を変化させる擬態ぎたい能力がある。

 王子は爆発の煙にまぎれて身体を砂に変化させ、逆転の機会をねらっていたのだ。


『さあもう逃げられんぞ!

 ほじくり出してなぶりものにしてやる!』


 バキバキバキバキ、メキィッ!!


 地上のクリムゾンセラフはタコ足のすさまじい怪力の前にグチャグチャに破壊されていく。

 とうとう搭乗席までえぐりだされ、フタがこじ開けられた。


『とうとうこの時が来たな、お前はもう私のものだ!』


 上機嫌で勝利宣言するマルティン王子。

 だが。


『……んん?』


 搭乗席はカラッポだった。

 それもそのはず。

 地上に立たせていたクリムゾンセラフは、即席で作ったニセモノだったのだ。


「アホが」


 勇輝がつぶやいた瞬間、ニセモノのクリムゾンセラフから無数のトゲがのびて、タコの全身を貫通した。


『ギャアアアアアアア!!」


「相手のことを調べもせずにケンカ売るからこうなる。

 お前もしかして騎士団長より自分のほうが強いとでも思ったのか?」


 勇輝はとどめを刺そうとする。


『ま、待ってくれ、わかった、私が悪かった』


 命ごいをする王子。

 だが勇輝は冷淡れいたんにあしらう。


「お前に捨てられた女たちも、待ってくれといったんじゃねえの?

 それをお前はどうしたんだっけ?」


 本物のクリムゾンセラフが翼をはばたかせ、大きな羽根を大量に降らせる。

 月を背景に羽ばたく天使は、皮肉にも美しかった。


羽根フェザー爆弾ボム


 白い羽根は串刺し状態の巨大タコの上に降りそそぎ、そして大爆発をおこす。

 今度こそ巨大タコは完全消滅した。

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