第91話 汚名を挽回するんだ!(まちがい)

 墜落ついらくしていくクリムゾンセラフを見て、ダリアは大きく息を吐いた。


「大丈夫か、ダリア」

「は、はい、何ともありません」


 強気に彼女はそう言う。

 だがひたいにはたまあせが浮かび、肩でおおきく息をしている。

 かなりの負担を強いているのは確実だ。


 天馬ペガサス騎士ナイトは今のところ圧倒的パワーでクリムゾンセラフを凌駕りょうがしている。

 その強大なパワーのみなもとコア担当がささげつづける魔力だ。


 大重量で空を飛ぶ。

 剛腕で叩きのめす。

 風をまとい強行突破する。


 いずれも多くの魔力を使う行為だ。

 操縦者一人で同時にこれらを実行しつづけるのは完全に不可能。


 だからこそエネルギー担当のコアが必要になる。


 肉体的にはただ座っていただけのダリアだったが、あるいは操っているグスターヴォ以上に過酷な役割かもしれない。


「お疲れ様ですダリア様、おかげさまで我らの勝利です」


 同席している風使いの男がダリアをたたえた。

 この男は勇輝にしてやられた恨みがあるので、心底うれしそうにしている。


「見てください、小娘の最期です」


 今まさにクリムゾンセラフは学園内の庭園に墜落するところであった。

 錐揉きりもみしながら落下していった紅い天使は、地面に衝突しょうとつし四散五裂……………………しなかった。

 地表すれすれで姿勢を立て直し、不完全ながら羽ばたいて減速に成功する。


 ドドオォォォン……!


 大量の砂煙が地上に巻きあがった。

 空まで聞こえる大音を響かせたが、それでもかろうじて着地。

 まだ戦いは終わっていないようだ。  


「フン、しぶといのう、あれも戦役の生き残りだものなあ」


 どこか納得したように老将はつぶやいた。


「まだいけるか二人とも」


 老将の問いに、部下と孫娘は同時にこたえた。


『もちろんです!』

「うむ!」


 グスターヴォは満足げにうなずいた。


「ならば間髪かんぱつを入れずにとどめを刺す!」


 天馬ペガサス騎士ナイトは決着をつけるべく地上に急降下していった。






『ユウキ様! ユウキ様!』


 人工知能『セラ』が勇輝の名を呼びつづけている。

 勇輝はいまだ気絶したまま起きない。

 クリムゾンセラフを大破することなく着陸させたのは、勇輝ではなくセラだったのだ。


 だが完全に無事なのは搭乗席だけ。

 四肢はいずれも落下のダメージで損傷し、翼も自分でおこなった羽根吹雪の影響で減少している。

 このままではとても戦えない。

 はやく修復させなくては。


 しかし勇輝は完全に失神していた。


『ユウキ様!』

「うう……」


 かすかに目を開いた。

 だがまだ意識が朦朧もうろうとしている。

 勇輝たちがモタモタしているうちに、敵が急降下してきた。


『トドメだー!!』


 左右の前脚をそろえて、上空から踏みつけてくる。

 セラはギリギリで横に倒れ込み、巨大な馬蹄ばていをどうにか回避した。


 ズドオオォン!


 激しい砂塵さじんを上げながら、天馬のひづめは地面に突き刺さる。

 危ない所だった。相手は本気で勇輝を殺しにきている。


『ユウキ様!』

「うう、ん……?」


 苦しそうな表情で顔をなでる勇輝。ようやく意識が戻ってきたようだ。


「俺、生きてる?

 お前が守ってくれたのかセラ?」

『はい。でもピンチです」


 目の前では天馬ペガサス騎士ナイトが前脚を一本ずつ引っこ抜き、姿勢をととのえているところだ。


「悪りぃ、お前がいなけりゃ死んでたな」

『いいのです私は聖女のヨロイ。

 あなたは私が守ります、それが私の役目』


 勇輝は急ピッチでクリムゾンセラフを修復しながら、ちょっとだけ笑う。


「セリフが十二天使みたいになってんぞお前」

『はい。

 お兄様がたは私の目標です。

 が』

「が?」

『私の聖女はエウフェーミア様ではなく、あなたです』


 思わず胸の奥に温かいものがこみ上げてきた。

 まだまだ生まれたての赤ん坊みたいな存在だと思っていたが、もうすでにセラは大事な相棒になっていたらしい。


「そうか、ならお前の聖女として、汚名を挽回ばんかいしないとな!」


 クリムゾンセラフはダメージを完全にいやし、完全復活した。

 しかし。


『ユウキ様、汚名は返上するものです。

 挽回するのは名誉めいよです』


 紅い天使はガクッと腰砕こしくだけになった。


「ち、地球にはそういうセリフもあったんだよ!」

『そうですか』


 この語彙ごい力はホントにどうやって学んでいるのだろう。

 まあいい。

 首をひねりながら、勇輝は紅の天使を天馬騎士の前まで羽ばたかせた。


 グスターヴォ団長はすっかり元通りになってしまったクリムゾンセラフを見ても、少しも動揺していない。


『ちょっと目を離したすきに元通りか。

 良かろう、何度でも叩き潰してくれる』


 天馬ペガサス騎士ナイトは剣をクリムゾンセラフにむけた。

 剣先から強烈な突風が発生しておそいかかる。

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