第90話 激突、爆炎と暴風!

 天馬ペガサス騎士ナイトは剣を中段にかまえた。


『聖女よ、ひとつ聞きたい。

 人は死んだらどうなるのだ?

 貴殿なら知っておるのか?』


 勇輝はその問いにちょっと考えた。

 死人がどうなるのか、二例知っている。

 自分と祖母の二人だ。

 だが他の人はどうなのだろう。


「……よく分からない。

 俺は特殊な例で、他の世界で死んだ直後にこの身体を与えられた。

 あと、魔王戦役のご褒美ほうびとして死んだ婆ちゃんに再会したことがある。

 それ以外は分かんないよ」


 ありのまま正直に答えたところ、なぜか老将は笑い出した。

 なにかが琴線きんせんに触れたらしい。  


『ハッハッハ!!

 貴殿は率直そっちょくすぎて宗教家にはむかんな!

 結局人というものは過去を変えられぬ、未来もわからぬ。

 今を力の限り生きるのみか!』


 ヒュオオオオ……!


 風が吹きはじめた。

 すこしずつ強まってくる。

 やがてうずを巻き、天馬ペガサス騎士ナイトをつつむ。


『おわりだ、天にでも祈るがいい』


 風は竜巻となって騎士をつつむ。

 そのまま猛然と突撃してきた。


 ブオオオオォオオォォ!!


「こ、この魔法!?」


 地上でこの魔法を使う男がいた。

 あの時はわなにはめることで倒せたが、なにもない上空では正面からやり合うしかない。


「ウオオオッ!」


 勇輝は刀で受け流して突撃をやりすごそうとした。

 だが風に巻き込まれ、錐揉きりもみしながら吹き飛ばされてしまう。


「うわあああっ!?」


 白兵戦はムリだ、竜巻の力が強すぎて手に負えない。


『ユウキ様! ユウキ様!』

「……おっ、おう!」


 セラの声で薄れかけた意識がはっきりした。


『ユウキ様!』

「ああ大丈夫だ!」


 視界がチカチカする。

 激しく回転させられて、あやうく失神するところだった。

 受け流そうとしたおかげでこの程度ですんだ。

 正面から受け止めたら粉々になっていただろう。


『また来ます!』


 風をまとった天馬ペガサス騎士ナイトが連続で突撃してくる。

 態勢を整えるヒマもくれない、本気で終わらせる気だ。


「このヤロー!」


 勇輝はクリムゾンセラフの翼に魔力をみなぎらせ、そして純白の羽を大量に飛ばした。


 バサバサバサバサ!


 青空に純白の羽が美しくえる。

 だがこれはあいにく芸術品ではない、攻撃技だ。


「くらえ必殺・羽根吹雪ィ!」


 落下しながらさらに大量の羽をまき散らす。

 その中を、竜巻をまとった天馬ペガサス騎士ナイトがためらいなく突っ込んでくる。


「かかったなアホが!」


 天馬の周囲に浮いていた大量の羽根ひとつひとつが、大爆発をおこした。


 ドドドドドドオオオオオオンン!!


 かつて強敵ベアータとその機兵『ドゥリンダナ』を倒した羽根型遠隔爆弾フェザーボム

 疲労ひろう困憊こんぱいしていたあの時とは違って、今回はフルパワーだ!


「どうだーっ!!」


 姿勢をただしながら、みずから生みだした黒煙を見上げるクリムゾンセラフ。

 これ以上ない形で技が決まった。

 普通の機兵なら欠片かけらしか残らないはず。

 だが。


『甘いわ小娘ぇぇぇー!!』


 老将の咆哮ほうこうが爆炎を突き抜けて飛んでくる。

 風の結界は何十という爆発をも耐えしのぎ、機兵本体を無傷のまま守り切ってしまった。

 まさに攻防一体の奥義。


「やべ……」


 みずから生みだした黒煙があだとなった。

 飛びだしてくる敵機を発見するのが一瞬遅れてしまう。

 猛烈なスピードでせまる天馬ペガサス騎士ナイトを回避しきれず、クリムゾンセラフは上からの突撃をまともにくらった。


 単なる体当たりとも違う、竜巻の回転に巻き込まれながらの叩き落し。

 勇輝の視界が前後左右に撹拌かくはんされる。

 いま機体と自分がどのような状態にあるのか。

 そんなことも分からぬまま、勇輝は意識を失った。

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