第60話 新たな火種

 さてそんなこんながあって、本日の決勝戦である。


 対戦チームはランベルトやクラリーチェが所属する神聖騎士団・遊撃隊チームと、聖都の名産品である白い人工石じんこうせきを日々作ってれくれている、石工いしく組合くみあいチーム。


 どちらも初心者らしいたどたどしさはある。

 しかしここまで勝ち残ってきた強者同士、それなりに魅せてくれた。





「ランベルト!」


 クラリーチェからの鋭いパスがランベルトにわたった。


「ハアアッ!」


 きたえ上げられた理想的な肉体から、強烈なシュートがはなたれる。

 ゴールキーパーも必死の形相で飛びついたが一瞬およばず、ゴールネットに突き刺さった。


「ゴオオオオオオルッ!

 先制点は、神聖騎士団遊撃部隊チイイイイイムウウウ!」


 司会者兼実況者が熱い叫びで会場をわかせる。


「キャアアア!」

「ランベルト様ステキー!」

「こっち向いてランベルト様ー!!」


 若い女性たちの黄色い声がそこいら中から飛んできた。

 長身、長髪、美形。

 三つ全てをかね備えた男が活躍すれば、必然的にこうなる。


「フッ」


 ランベルトは女性たちに向かって拳を突き上げた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 狂おしいほどに叫ぶ女性陣。

 男たちは面白くなさそうにしている。

 アシストしたクラリーチェも嫌そうな顔をしていたが、ランベルトは気づいていない。




「ああ……、ああいうことすると兄貴はホント似合うねー」


 主催者しゅさいしゃ席で勇輝は苦笑いしていた。

 自分もあんな色男に生まれていたら、きっと人生いろいろ違っただろう。

 いや結局は事故死して聖女になる運命か。


 何にせよ、今日のヒーローはランベルトになりそうだ。

 石工いしくさんたちもランベルトに対抗心を燃やして頑張っているが、騎士たちとは日頃ひごろきたえかたが違う。

 前半はまだよかったが、後半になるとその体力差はあきらかになっていった。


 ピピ―ッ!


 試合終了のホイッスルが鳴る。


「試合終了―ッ!

 3-1で、遊撃隊チームの勝利イィィィィ!」


 ワアアアアアアアアッ!


 会場内が大歓声につつまれるのを聞いて、勇輝はイベントが成功したのを確信した。

 大地もじゅうぶん固まったろうし、呪われていないことも証明できただろう。

 自己評価では百点満点だ。


「フン!」


 しかし、熱狂につつまれた会場内で一か所。

 非常にめた空気を発している小さな空間があった。

 それが強い力であったため、勇輝は敏感に感じ取ってしまう。


「若造が、チャラチャラしおって!」


 五人ていどの集団だった。

 全員こんなところなのに軍服を着ている。聖騎士団の誰からしい。

 言葉を発しているのは一際ひときわ高齢の老軍人である。

 眉間みけんに深いしわをきざんだ、きびしそうな老人だ。


「なんだぁ、あのじいさん?」


 勇輝が小さくつぶやいた瞬間、老人はギロリとこちらを向いた。


(きづかれた!?)


 まさかとは思ったが、完璧にタイミングは一致いっちしていた。

 歓声はまだ鳴りやまずにいる。

 ちょっとした声なんて聞こえるわけない……と思うのだが。 


「フン!」


 老人は視線をはずすと不機嫌そうに席を立ち、民衆を押しのけて去っていく。

 部下らしき連中があとに続いていった。


「……何者だ、あいつら」 


 今だ熱狂冷めやらぬ会場内で、勇輝は新たな騒乱そうらんの火種を感じた。








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