第58話 自作自演のハーレムエンド

『諸君、まずはいつもの通りにいこう。

 ジェンナが先頭、フェブとジュノが続くんだ。

 本日は大事な観客ゲストがいることを忘れてはいかんぞ』


 第七天使『ユリウス』が気取きどった態度で指示をくだす。


『さあショータイムだ!

 我らがエフィのために!』

『我らがエフィのために!』


 全員が一斉にエウフェーミアの愛称を叫び、世界最強の英雄たちはそれぞれのグループに分かれて散開さんかいする。


「お、俺はどうすれば?」


 どうしていいかわからず、オロオロするクリムゾンセラフと相沢勇輝。


『君はエフィのそばを離れてはいけない』


 ユリウスが強すぎず、弱すぎず、そして反論は許さぬという口調で勇輝にも指示を出してきた。


『いざというとき、エフィの盾となるのが君の役目だ』

「り、了解!」


 不思議なもので命令を聞くと、ストンと気持ちが落ち着いた。

 あからさまな補欠あつかいだが、それでもやるべきことが与えられると、それに集中できる。


「まったくユリウスったら。

 ごめんなさいねユウキ」


 宇宙空間に立っていたエウフェーミアが、ユリウスのフォローを口にした。

 勇輝にとっては悪くない気分だったが、彼女にとっては厳しいもの言いだったようだ。


「あの子は人一倍キッチリしていないと気がすまない子だから……」

「うん、気にしてないよ。あれでいいと思う」


 どうやらあの赤い機体、『ユリウス』が指揮官らしい。

 仲間たちに次々と指示を飛ばしているが、腕を組んだまま本人は動こうとしない。

 指揮官はよく見える場所でよく観察するものなのだ。


「大丈夫よ。これまでずっと続けてきた相手だから。

 今日もおかしなことはおこったりしないわ」


 エウフェーミアの横顔は確信にみちている。

 仲間の勝利を信じているようだ。


 最前線では、邪竜と天使たちの激突が始まろうとしていた。 

 邪竜の首が数体れをなして、大きく口を開く。

 口の奥が禍々(まがまが)しく光り出した。


 竜の吐息ドラゴンブレス! いきなり大技だ!


『何度きたって無駄だ!

 お前にエフィを傷つけさせない!』


 最前線の機体、第一天使『ジェンナイオ』が目の前に巨大な障壁バリアを発生させた。


『うおおおおーっ!』


 一歩も引かず、えるジェンナイオ。

 直後、バリアとドラゴンブレスが衝突する!


「うわーっ!」


 ものすごい閃光に、勇輝は目がくらむ。

 まともにくらえばどんな機兵でも破壊あるいは、もしかしたら蒸発じょうはつしてしまうかもしれない超高熱を予感させる破壊光線。

 だが。


『無駄だッ!

 俺は聖女の盾、誰も傷つけさせない!』


 まるで人間の勇者みたいなことを言っている、第一天使『ジェンナイオ』。

 通称ジェンナ。

 彼の能力は《絶対不可侵の障壁バリア》。


「すげえ、今のが無傷かよ……」


 ジェンナの障壁を前面に押し立てて、他の天使たちが側面から魔法でダメージを与えていく。

 それで決着がつくほど弱い敵ではないが、それでも明らかに戦況は優勢をたもっている。


「さすが……、って言えばさすがだけど……」


 勇輝は十二天使たちの強さに圧倒されつつも、なんとも言えない違和感を味わわされていた。

 なにが気になるかというと、彼らがいちいち口にするセリフである。

 しゃべりながらでないと行動できないのか?

 お前らはスパ〇ボのユニットか?

 ってほどうるさい。


 それが謎の魔法理論による謎の魔法通信でエンドレス配信されてくるわけだ。

 一切ショートカットできない長ったらしい戦闘シーン。

 ……しんどい。


『この身は、聖女のつるぎ……』

『エフィ! 頭を一個落としたわ! ホメてホメて!』

『俺は聖女の盾だーッ!』

『聖女の光……エフィの愛……光よあれ、滅びよ邪悪よ!』

『わたくしたちのきずな、エフィとのきずな、だれにも断ち切れない!』

『諸君、少々はりきりすぎだぞ、エフィの負担になっている』

『オレ、ガンバル、えふぃダイスキ……!』

『聖女の盾はァ、誰にもォ、うち砕けないッ!!』

『愛するみんなに、聖女のご加護を……!』

『エフィ! 俺は、絶対にお前を、守りぬいて見せる!』


「いちいちうるせえよお前ら!

 特に盾! 頑丈なのは分かったから静かに守れ!」


「ウオオオオオオオオオオオオオ!!

 俺の盾はエフィの愛! エフィの愛は、永久に不滅だあああああああああああああああああああああああーッ!!」


「うるせー!」


 どいつもこいつも聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ聖女エフィ……。


「見てるだけのこっちは気が狂うわ!!

 お前ら頭の中エウフェーミアのことしかねえのかよ!」


 勇輝はストレスで暴れそうになる。

 なんかわかった。

 何となくわかった。

 十二天使こいつらからにおってくる違和感の正体。


「ねえエウフェーミア」

「なあに?」

「エウフェーミアってさ、乙女ゲームとか好きでしょ?」

「なあにそれ?」


 この元祖聖女、天然のヒロイン体質なのだ。

 十二天使に搭載とうさいされている人工知能のすべてが、エウフェーミア中心に物事を考えるようにできている。

 男性タイプの機体でも、女性タイプの機体でも、一番大切なのはエウフェーミア。

 戦う理由もエウフェーミアのため。

 存在理由もエウフェーミアのため。


 まるで乙女ゲームのハーレムエンドだ。


 まあ、仕方のない側面もある。

 こんな娯楽ごらくも何もない宇宙で、何百年も孤独こどくに戦いつづけるなんて我慢がまんできるわけがない。

 だからせめて話し相手だけでも欲しい。

 そう思ったから、戦闘ロボットにすぎなかった十二天使たちに言葉と心をあたえた。

 せっかくだから自分に都合の良いように作った。

 こうしてつらい孤独からは救われたが、しかしはたから見ればかなりお寒い状況になってしまっていたのだ……。


 うろ覚えだが、勇輝が生まれ育った日本でも、大昔に似たような話があったように思う。

 とてもえらいお坊さんが山での孤独な修行に耐えかねて、死体を生き返らせ話し相手にしようってお話。


 まあ聖女とか聖人とかでも、人間には違いないということで。


 ……みたいなことをボンヤリと考えているうちに、熾烈しれつだが気の抜けるような戦闘は終了していたようだ。

 おぞましい邪竜の融合体が宇宙の彼方かなたに逃げていく。

 味方の被害はゼロだ。


『よし、諸君、ご苦労であった。

 やつもかなり消耗しょうもうしてきたようだ。

 完璧なる勝利の日は近いぞ』


 第七天使ユリウスがあいかわらずえらそうな態度で皆の戦いぶりをねぎらっている。

 彼らの前にエウフェーミアが進み出た。


「みんなありがとう。ケガはしてない? だいじょうぶ?」


 わざとらしいくらいのキラキラな笑顔で皆に話しかける伝説の聖女。


『大丈夫だ、お前のためならこれくらい苦にならない』


 そう言っている黒い奴は、はて、何という名前だったか。

 まあ何でもいいか。


 すごいやつらだとは思う。

 この聖女と天使たちがいなければ、世界はとっくの昔にほろびている。

 だけど、この輪の中には加われそうにない。


 そう思う勇輝だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る