第11話 ヴァレリアとの対話

 結局のところやっぱりアレだ。

 異世界転生とか異世界転移とかいうやつ。


『相沢勇輝は女の子に変身して剣と魔法とモンスターとロボットが存在するファンタジー世界にやってきた。理由は分からない』


 数時間もかけてヴァレリア長官と一対一での情報交換や議論をしたが、これ以上はなんともいえなかった。

 まあここへ来ていきなりだし、仕方がない。




 以下、回想シーン。


「まあ、あなたの世界では世界のほうが太陽の周りをまわっているのですか!」


 まずこんなところからして地球とこっちでは常識がちがっていた。

 こっちの世界も同じなんじゃないかなあ、なんて思うのだがガリレオガリレイみたいな目にあいたくないのでだまっておいた。


 この国には電気がない。

 ガスがない。

 石油もない。

 かろうじて上下水道はあるが、それにしたって低水準のものでしかないらしい。

 ここまではまず一般的なファンタジーワールドといえよう。


 違ってくるのはここから。


「ユウキさんを襲ったのは悪魔ディアブルと呼ばれる怪物。

 そして守ったのは守護機兵しゅごきへいという我々の兵器です」

悪魔ディアブルに、守護機兵しゅごきへい

「はい。悪魔ディアブルは人間が発散する悪の想念が凝縮ぎょうしゅくすることで誕生します。

 まあ人類の天敵といいますか宿命といいますか、そういうものなのです」


 人はその人生において、あらゆる感情をいだきながら生活している。

 その感情の中でも最も厄介やっかいなものが怒り、ねたみ、憎しみといった激しい悪感情だ。

 それらの悪感情はそのままにしておくと自分どころか周囲の人間の人生をも狂わせてしまう、とても危険なものだ。


 だから人間はその悪感情を適切に処置しなくてはいけない。

 根本の原因をとりのぞいたり、娯楽ごらくなどでさばらしをして、その危険な感情を発散しようとする。

 これは健全な人生をあゆむうえでとても大切な行為なのだが、その『発散された悪感情』がこの世界では消滅せずに地上をさまよい続けるというのだ。


 さまよう感情は長い時間をかけて互いに引き寄せあい、やがて形となって暴れだす。

 それが悪魔ディアブルの正体。

 悪魔ディアブルの敵意は人間と、人間の作り出した物質にむけられる。

 あの凶獣たちを生み出す材料が人間の精神だからである。

 

「その悪魔ディアブルたちと戦うために開発されたのがあの――」

「守護機兵!」

「……そういうことですね」


 ヴァレリアは勇輝の食いつきのよさに苦笑した。

 だって実物の人型巨大兵器である。ロボットである。

 そりゃあ興味がわくに決まっている。


「守護機兵の動力は主に搭乗者とうじょうしゃの魔力です。あなたの世界では魔法があまり発達していないのでしたね?」


 ヴァレリアはそういうと卓上の燭台しょくだいを指さした。


「んっ」


 ヴァレリアが小さくうなった瞬間、五本のロウソクにボッと小さな火がともった。

 タネも仕掛けもない、正真正銘しょうしんしょうめい本物の魔法である。


「おお!」


 素直に感心する勇輝。


「魔力の強さと性質は、個人の資質と鍛錬によって大きな違いが生じます。これは肉体の強さと同様ですね」

「へえ~じゃあ俺にもそのうち魔法が使えるようになりますか?」

「いいえ、あなたもすでに魔法を使っているのですよ。

 気付いていませんでしたか?」

「ええ? 俺が?」


 ヴァレリアは卓上におかれている紙片を指さした。

『相沢勇輝』と書かれたその文字は、勇輝がヴァレリアに求められて自分の名前を書いたものである。


「文字も言語もちがうのに、私たちは意志の疎通そつうができます。

 不思議だと思いませんか?」


 なるほどそういえば。

 お約束だからそういうものだと思っていた。


「それは私たちがお互いに相手の気持ちを分かり合いたいと思っているからですよ。

 肉体から発せられる声に意思をこめ、その意思を相手に送り届けるという魔法なのです」

「ほ、ほほう」


 何となくわかる気がする。


「そうですね、例えば……」


 ヴァレリアは横をむいて、意味不明な言葉を発した。


「隣り合った人たちは、少しで長い間じっとこちらを見ていましょうでしょう」

「はあ?」


 次に彼女は勇輝の顔を見て言葉をつむぐ。


「今、私はおかしなことを言いませんでしたか?」

「は、はい」


 優雅に微笑むヴァレリアに、勇輝はためらいがちにうなずく。


「そうでしょう、私は『あなたに伝えたくない』という意思を込めて声を出したのです、そのため意味がうまく伝わらなかったのですよ。

 そして今は『あなたに伝えたい』という気持ちを込めています。

 これが魔法なのです。言語の壁も文化の違いも乗り越える、人間の意志の力なのですよ」

「へ、へえー、それじゃあ俺にも魔法の才能があるって事ですか?」

「ええ、かなりあると思いますよ」


 勇輝はちょっと嬉しくなった。

 なにせ魔法である。

 アニメとゲームの世界にしか存在しないと思っていた神秘の力が自分にも使える、これは決して小さくない喜びだった。

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