第4話 ケンカ売ってる?
(こんないい男に生まれていたら、俺の人生もずいぶんちがう物になっていただろうなあ)
いま自分がおかれている危機的な状況も忘れて、勇輝は見とれてしまった。
王子様(?)も勇輝の事をじっと見つめている。
少し驚いたような表情をしていた。
(いやー、俺がもし女だったら絶対ほれちゃうねこの人)
そんな事を心の中でつぶやいていると、彼は開口一発こう言いはなった。
「お怪我はありませんでしたか、お嬢さん」
その一言で勇輝のこめかみにピキッ! と青筋が立った。
(お、お嬢さんだと……?)
ちなみに勇輝の外見はどこからどう見ても十代半ばの男である。
しかも中学時代の担任教師に「お前の顔は怖い系のブサイクだな」と面とむかって言われたほどのコワモテだ。
そんな顔の男が、いささか時代おくれな
間違っても女に見える訳がない、つまりこれはイヤミだ。
『おやおや、そんな怖い顔をしているくせにオドオドと
そうバカにしているのだと、勇輝は判断した。
(
勇輝の表情は、みるみる不機嫌そうに
だが目の前にいる金髪美形さんはそんな事にはまるで気がついていないようで、
「それにしても無茶をしますね。女の子が一人でこんな所をうろついているなんて」
ピキピキッ! 勇輝の青筋がさらに太さを増した。
『男のくせに自分の身を守る事もできないのかい、だったら家で大人しくしていろよ』
そうバカにされているように聞こえるのだ。
顔をしかめる勇輝の態度を無視して、金髪美形さんは洗練された態度で手を差しのべる。
「さあここは危険です。早く安全な場所に避難しましょう、お嬢さん」
プツン。
勇輝の中で何かがはじけた。
「ちょっとアンタ!」
勇輝は差しのべられた手を乱暴に払いのけた。
仮にも助けに来てくれた人間に対してこれはひど過ぎるかとも思ったが、やってしまったものは仕方がない。
「俺のどこが女に見えるってんだよ!」
「は?」
「俺は男だ、バカにするなっ!」
「……どういう冗談です?」
美形さんは青い目を丸くして
「どうした、何か言い返してみろよ。
ここまで馬鹿にされたら俺だって……ん?」
その時、勇輝は何かがおかしいことに気がついた。
「ん、んん? あれ変だな。
アーアー、本日は晴天なり、アメンボ赤いなあいうえお……」
今まで気がつかなかったが、声がおかしい。
何だこの
これじゃあまるで女の子の声じゃあないか?
勇輝は妙な不安にかられて頭をかきむしった。
するとやけに長い髪が指にからまる。
「……はあ?」
勇輝はまたもや
長い髪。
しかも素晴らしくサラッサラのなめらかな手触りだ。
これまたおかしい。
いつの間にこんなに髪がのびたのだ?
こう言ってはなんだが、勇輝は身だしなみにあまり興味の無いだらしない男だ。
だから工夫もなにもない黒髪の真ん中分けだったはずなのだが。
一体なんだ、この長い金髪は?
ゴミか何かが絡からまっているのかと思って、試しにグイッと引っ張ってみる。
「いててて!」
間違いなくこの金髪は勇輝の頭から生えていた。
でも、どうして?
「……あの、あなた一体何をしているのです?」
目の前にいた美形さんは、勇輝の奇行を不審そうに見つめた。
「いやあの、変なんだ、何か色々と変なんだよ!」
なにがどう変なのかうまく説明できない。
なにもかもが変だった。
目がさめたら知らない場所にいて。
馬鹿でかい怪物に殺されかけて。
声が高くて髪が長くて金髪で……。
「あぶないっ!」
「そう、メチャクチャ危ない目にもあったんだ、……ってうわわわっ!?」
金髪美形は突然勇輝に飛び掛ると、地面に押し倒した。
「やめろバカ、俺にそんな趣味はねえ――」
見当ちがいの苦情は、巨獣の悲鳴によってかき消された。
――ギャウゥン!
首をぶった切られた巨狼の頭が、勇輝たちの真上にふってきたのである。
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