第3話 駆けつけたヒーロー、高身長すぎ問題

 何がおこったのかまるで分からず、ただその場をぼう然と見つめるしかない勇輝。

 そこでまたもや思わぬ事態が発生した。


『そこまでだ悪魔ディアブルめ、ここからは我々が相手をしてやろう!』


 上からふりそそぐ謎のヒーローボイス。

 声がしたのは先ほどころげ落ちてきた丘の上だった。

 そこには何と騎馬にまたがった中世ヨーロッパ風の騎士たちが整列しているではないか。


『おぞましきケダモノどもめ、正義の力を思い知るがいい!』


 馬上でポーズをつけている彼の格好は、全身をすっぽりとおおう銀色の全身鎧。

 右手には長大な馬上槍、左手には大楯。

 どこからどう見ても騎士。

 英語でいうとナイト、フランス語ならシュヴァリエ、ドイツ語ならリッター……いやそんな事はどうでもいい。

 とにかくそこには、全身を鋼鉄の鎧で武装した騎士たちが戦列を組んで身構えていたのである。


 その中の一人が、矢の装填そうてんされていないクロスボウを握っていた。

 どうやら勇輝をあぶないところで助けてくれたのは、このクロスボウで放った矢らしい。


『全軍、突撃ーッ!!』

『ウオオオオオオオオオオオオオッ!』


 騎士たちがたけびを上げながら一斉に丘を駆け下りてくる。

 巨獣の群れも騎士たちの突撃を真っ向から迎え撃った。


――グウオオオオオオーッ!


『ドオオウリャアアアッ!』


 叫びながら激しくぶつかりあう騎士と巨獣。

 その様はまるでファンタジー映画でも観ているかのようだ。

 それは熱く、激しく、格好よく……そして、凄すさまじく奇妙であった。

 いくらなんでもデカすぎるのだ、人も、獣も。


 象よりも巨大な肉食獣。

 それに匹敵する巨大な騎士たち。


 ぼう然とそれを見上げていた勇輝は、まるで自分が小人にでもなってしまったかのような感覚を味わわされてしまう。

 そしてこの騎士たちの奇妙なところは、単に大きさだけではなかった。

 近づいてきて初めて気づいたのだが、彼らの体型があきらかに人間のそれとは違う。


 人の上半身に馬の身体がくっついている。


 決して眼の錯覚さっかくではなかった。

 槍と楯を持った屈強くっきょうそうな人間の上半身。

 その下にあるのは二本の足ではなく、俊敏しゅんびんそうな四つ足の馬体なのだ。


 まるで古代神話に出てくる半人半馬の怪物ケンタウロス。

 それが銀色の全身鎧をまとって戦っているのだ。

 しかも、なぜか勇輝を守るために。

 勇輝は混乱する頭をおさえながら、ヨロヨロと立ち上がった。


(俺はいったい何を見ているんだ。これは夢か、それとも幻か)


 頭がおかしくなりそうだ。

 いや、すでになっているのかもしれない。

 目の前で起こっている光景がまるで理解できなかった。


(あの化け物はなんだ。

 あの騎士たちはなんだ。

 そもそもここは一体どこなんだ。

 俺の住む町にこんな馬鹿でかい連中はいない。

 こんなだだっ広い草原なんてない。

 なんだってんだ、いったい何がおこっているんだ!)


 混乱する勇輝の身に、横合いから強烈な突風がおそいかかった。


 ビュオオオオッ!

 バサッ、バサッ!


 勇輝はとっさに両腕で顔をかばう。


「うわああっ、今度は何だよっ!?」


 あまりの風圧に目もあけられない。

 勇輝は身をかたくして風がおさまるのを待った。


「や、やんだか、次から次へと何なんだよ……ゲッ!」


 風がおさまり目を開けたそこには、これまた非常識なほどに巨大な銀色のたかが翼をたたんで直立していた。

 巨大な狼、巨大なケンタウロスときて、今度は巨大な鷹の登場である。


 いかにも獰猛どうもうそうな面構つらがまえ。

 刃物のように鋭いくちばしと爪。

 まさに空飛ぶ殺し屋だ。

 銀色の鷹はギラリと輝く恐ろしい視線で勇輝の姿をにらんでいた。


 絶体絶命のピンチ、再び。

 と思ったその時。


 鷹の胸部がブシューっという音をたて、まるで自動ドアのように開いた。

 そしてそこからなんと、普通サイズの人間が姿をあらわしたではないか。


(うわ!)


 その人物を一目見て勇輝は思わず息をのんだ。

 それは男の眼から見てもかなり美形に属する男性だった。

 年は十代後半くらいだろうか。

 腰までのびたサラサラの金髪。

 強い意志を秘めた青い瞳。

 整った鼻梁びりょう

 そして体には一片の贅肉ぜいにくもなく、見事にひき締まった芸術的な体型をしていた。


 まるで少女漫画に出てくる王子様みたいな人物だ。




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