第4話
死んだはずの千佳が目の前にいる。いったいどういうわけなのかまったく検討もつかないものだった。
それは血まみれで自分の知っている彼女とはまったく違うなにかにしか思えない。
けれど、その顔立ちは奈乃の記憶に残る千佳そのもの。だからこそ、奈乃はなにもいえなくなった。言葉が出ずにただ凍りついたままで彼女をみた。
「奈乃ちゃーん。待っていたんだよー」
得体の知れない恐怖に苛まれる奈乃とは真逆で再会を心から喜んでいる様子で口元に笑みを浮かべている。
「遊ぼう。遊ぼう」
彼女は奈乃の手を掴もうとした。
「きゃっ!」
奈乃は思わず、その手を弾いてしまった。すると千佳は信じられないものでも見るような目で奈乃を見ている。
その目に恐怖を感じた奈乃は後ずさる。
「どうして?」
彼女は首をかしげながら奈乃のほうへも一歩近づいてくる。その顔は血まみれだ。目も異様なほど見開いている。
恐怖しかない。
これはなに?
青ざめた顔についた血。
死人が動いているとしか思えなかった。
「どーして、来てくれなかったの?」
「えっ?」
「ずっと待つてたんだよ。どうして、私をひとりぼっちにしたの? どうして、私は殺されなければならなかったの?」
彼女の目から赤い血が、流れ落ちる。それはまるで涙のようにも見える。しかし、奈乃にとってはすべてが恐怖の対象でしかなかった。
なぜ、これほどに恐怖を抱くのか。
そこにいるのが死人だからなのか。
血まみれだからなのか。
奈乃にはわからない。
奈乃は後ずさる。
「ねえ。遊ぼうよ。唱えてみて。唱えてみてよ」
そういっている。
唱える。
何を唱えるのかすぐにわかった。
「唱えて。唱えて。ほーら。チナチナ~」
彼女がいう。
だめだ。
唱えてはだめだと本能が訴えかけてくる。
「ねえ。ねえ。早く。早く」
彼女が迫ってくる。
「チナチナマジック」
奈乃がそう唱えた瞬間、彼女はにやりと笑みを浮かべる乃が見えた。同時に奈乃の体になにかが入るこむような気持ち悪さに襲われる。
意識がもうろうとしていく。
右腕に痛みが走る。
奈乃はとっさに自分の腕を見た。
そこには見慣れた己の腕でなく、木の枝が見えてめきめきと成長していき奈乃の体を侵略しようとしていた。
「きゃああああああ」
奈乃は悲鳴をあげ、思わず目を閉じた。
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