第2話

 それはある日の帰り道のことだつた。


 菜乃の住んでいる団地の前には公園がある。


 滑り台とジャングルジム、鉄棒、そして砂場の四つの遊具のある公園の敷地はさほど広くもなく、あまり手入れされていないのか草が生えており、子どもたちが遊んでいる気配がほとんどない公園だ。


 それもそのはず。


 公園で遊ぶぐらいの年の子どもがこの近所にはいないのだ。


 小学時代はよく遊んでいた菜乃だったのだが、中学生になってからというものめっきり遊ばなくなっていた。


 そのまま公園の横を通り過ぎて団地のほうへと向かうだけのはずだつたのだが、ふいに公園の人影があることに気づいて振り返ったのだ。


 すると、公園の大体中央あたりにある砂場のところにテツが立っていることに気づいた。


「あれ? なにしているのかな?」


 ここにテツがいることに違和感がある。


 たしか、テツの家はこのあたりではないはずだ。それなのに、彼ぱ一人その公園にいる。


 なにをやっているのだろうかと思わず公園に足を踏み入れようとした。けれど、なぜか入ることができなかった。なにか見えない壁にでも阻まれたようで一歩も前に進めないのだ。


 どういうことなのだろうか首を傾げているとテツが妙な行動を始めた。


 なぜか飛んだり跳ねたり、なにかを振り回す仕草をしたりしていたのだ。


 わけがわからない。


 菜乃はその場に佇みしばらくテツの不振な行動を眺めていた。


  それを眺めているうちに菜乃の脳裏にある光景が浮かんだ。



 それは小学生のころに公園でよく遊んでいたころの光景だった。


 近所に暮らしていた女のコといっしょに遊んでいた光景。


 いつもその子と砂場で遊んでいたひとを思い出される。


 おままごと、かくれんぼう。砂でいろんな形のものを作ったりしていた。


 その中で菜乃たちがよくしていたことは、魔法少女ごっこだった。


『ふたりで魔法少女。二人いたら魔法が使えるとよ」

 

 友達がそんなことをいっていた。


 どこかで聞いたようなフレーズだと思った。


 一人ではだめ。


 ふたりいないいけない。


 ふたりいないと魔法かが使えない。


『呪文決めようよ』


 友達は楽しそうにいった。


『なににする?』


 菜乃も一生懸命に考えた。


『そうだ。こんなのはどう?』


 友達がなにかを思いついたのだ。


 その呪文は菜乃も気に入った。


 いつのまにか二人の合言葉になり、逢うたびに唱えていたものだ。



 それを思い出した菜乃は思わず口ずさんだ。


「チナチナマジック……」


 その瞬間、公園の中から断末魔の叫びが聞こえてきた。


 菜乃はハッとする。


 すると、砂場のところには血まみれの少女の姿があったのだ。その少女の前にはテツが佇んでいる。


「なによ。これ」


 菜乃がそう叫んだ瞬間に少女がこちらを振り返る。



 菜乃と目があった瞬間に不気味な笑みを浮かべた。


 そう思った瞬間、いつの間にか血まみれの少女が菜乃のすぐ目の前にいるではないか。


「きゃっ」

 

 菜乃は思わず座り込んでしまった。


「ありがとう。覚えていてくれて。菜乃ちゃん♡」


 そこにいたのは、一年前に死んだはずの友達の姿だった。



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