5 真実の館Ⅳ ~このマリア様に精神攻撃なんて、そ、そんなモノ効く訳がない~

 魔王のスペア。

 それに、レオは心当たりがあった。


 それこそ、魔王を倒したその過程で、見たのだ。魔王のスペア達……スペアに慣れなかった人形達。


 そして、それらの唯一の完成形を、レオは良く知っている。


(アレが、魔王復活の媒体だった?だとしたら……)


 そう歯噛みするレオの目の前で、カーテンが開かれる。


 開かれた幕、舞台の上にあったのは、4本の柱……いや、天蓋付きのベッドか。


 真っ白いベットに、複雑な模様……魔術が刻み込まれているんだろうそんな文様が蠢き、どこかノイズでも走っているように混沌と、天蓋付きのベッドを照らし……。


 そして、そのベッドには一人の少女が、横たわっていた。


 ごろりと、それこそ実家のように堂々と気だるげに仰向けに、つまらなそうに紙の箱……一日十個限定特製チェリーパイの名残を眺めて、やがて飽きたようにそれをベットの上に投げ捨てる。


 その姿を前に、呟きが漏れた。


「マリアさん……そう言えばいませんでしたね」

「……すっかり忘れてたな」


 言い合いが終わったのか、どこか決まり悪そうにシャロンとアリシアはそうそっぽを向き……。


 それを背後に、法衣の男は恭しく頭を下げ、言った。


「よくぞ、お戻りになられました、魔王様。さあ、貴方様の手で、この目に余る醜態に終焉をお与えください」

(魔王……?アレが本当に、魔王?マリアじゃなくなった?)


 そう、少し不安に駆られながらレオもまたマリアを眺め……そんな一堂を前に、マリアは飽きた調子で身を起こし、……法衣の男を呆れたように眺めて、言った。


「……馬鹿なのかお前」


 その口調は、明らかにレオの良く知っているマリアのモノ。それを前に、レオはふと安堵のため息を漏らし……。


 そして、目の前に居るのが魔王ではないと、……法衣の男もすぐにわかったのだろう。


「……お戯れですか、魔王様?」


 まだ縋るように言った法衣の男を冷ややかに眺めて、マリアは言う。


「お戯れじゃない。私は魔王じゃない。むしろそれを殺す手伝いをした女だよ」


 そう言ったマリアを前に、法衣の男は眉を顰め……それを前に、マリアは言う。


「お前が見つけたこれ、魔王の分身に魂を入れる魔術だろう?確かに、魔王……姉さんはそれを作った。けど、姉さんは自分のスペアが欲しかった訳じゃない。道連れが欲しかったんだ。一人で無限に生きるのが寂しかったから玩具を作っただけだ。入れるのは魔王の魂じゃない。それをまねた何かだ。そして、何かはもうこのカラダに入ってる。唯一成功した、姉さんの道連れが私だ。残念だったな、……私はマリア様のままだ」


 そのマリアの言葉に、法衣の男は苛立ったように、声を上げる。


「嘘だ……」

「真実だ。お前の画策は全部無駄だったんだよ。昔の女の事なんか忘れて新しく生きろ。未練たらたらはみっともないぞ、セカンド童貞が」


 そう容赦なく吐き捨てたったマリアを前に、法衣の男は苛立ったように視線を険しく、叫ぶ。


「……お前の嘘を禁じる!」


 そう、法衣の男が言った直後、彼の背後でマネキンが一体――マリアを模した人形に変わる。

 それをマリアは冷ややかに眺め……言い放った。


「私は姉さんじゃない。私は私だ」

『…………』


 そのマリアの言葉に、マリアの人形はしかし、何も言わない。

 嘘を吐いていない、という事だ。


「…………ッ、」


 歯噛みした法衣の男を尚冷ややかに……それから、どこか不機嫌そうな視線をレオに向けてから、マリアはうんと伸びをして、言った。


「さて。もう、3文芝居は十分だ。私は帰る」


 にべもなくそう言い捨てて、マリアは天蓋付きのベットから降りようとする。

 だが……。


「まだだ、」


 法衣の男がそう呟くと同時に――ベットから降りかけたマリアの目の前で、バリと、光が瞬いた。


 結界、らしい。それが天蓋付きのベッドを覆い、その中に、マリアは閉じ込められているようだ。


 その状況で、マリアは心底軽蔑したと言わんばかりな視線を法衣の男に向け、吐き捨てた。


「未練の次は監禁か?見上げた男だな、……心底、気持ち悪い」

「どうとでも、言うが良い。だが、せめて……。私には……再会出来ずともせめて御意志を……。僭越ながら、マリア様。貴方が依り代になれないのであれば、……貴方に壊れて、貴方に魔王になって頂く」


 妄執に駆られたように言い放つ法衣の男。それを冷ややかに眺め、


「気色の悪い男だな。ごほっ、ごほっ……。見ろほら。この間私も知ったんだ。これが反吐だよ、セカンド童貞」


 マリアはそう吐き捨てる。

 だが、そう吐き捨てたマリアを前に、法衣の男はまだ執念に駆られたように……言った。


「……魔王様は仰っていました。貴方は傲慢で独善的、酷くプライドが高く、だが本心は酷くか弱く幼く脆い。少しつつけばすぐに破滅するだろうと。この集った観客達の前で、マリア様貴方に壊れて頂きましょう……。貴方の弱みを、真意を暴き」


 そう、法衣の男は観客――レオやシャロン、アリシアへと視線を向ける。

 それを眺め、レオは胸中呟いた。


(マリアを、壊す?精神的に追い詰めて、この世界に絶望させる?俺達の前で醜態でも晒させたいのか?だが、マリアだぞ……?本気で言ってるのかコイツ。出来る訳ないだろ)


 チェリーパイ以外で説得するのは無理だろうし、口喧嘩でマリアが誰かに負ける事は想像できない。


(やらせるだけやらせて、こっちで状況を解消する手段を探るか……)


 そう、レオは思考し、マリアはつまらなそうに吐き捨てた。


「弱み?真意?フン、くだらない……」


 そして、マリアがそう呟いた、直後。


『よよよ弱み?真意?ちょっと待て、諦めないのか?諦めてくれないのか?諦めてくれる流れじゃないのか?いやいや、待て。どどど動揺するな私。アリシアやシャロンと同じ轍を踏むな。あんな醜態を晒したくはない……心を無にしてただ罵倒するんだ。ここは踏ん張りどころだ!表情には絶対に出すな!頑張れマリア、私は動揺してないぞ!』


 めちゃめちゃ動揺している誰かの声が、その場に響き渡った。


「「「「「………………」」」」」


 その場にいる全員、レオ、シャロンとアリシア……そして法衣の男とピエロまで、視線を今喋った人形に向け、それから、一堂の視線はマリアに向く。


「……なんだその目は愚民共。幻聴でも聞いたか?見るな……殺すぞ」


 マリアは高圧的にその場にいる全員を見下す。そして、


『むしろ死にたい……もう死にたい。絶対聞かれてた。絶対聞かれてるこれ。なんだこれ。なんだこの状況……恥ずかしすぎる……こんな状況になると思ってなかったのに。もうヤダ、』

「「「「「…………………」」」」」


 全員の視線はまた人形に向けた。

 そしてその視線は、そのまま、高圧的にこちらを見下ろしている魔女に向き……。


 魔女はまだ高圧的に、……一刻も早くその場を降りたそうに、ぐいぐい天蓋付きのベッドを囲う結界を両手で押していた。


「下らないな……心底、下らない。そもそも、こんなものでこの私を見世物のように捕えておけるとでも思っているのか?私だぞ?」

『他人に魔法渡せるだけでだけで私基本無力なんだよな……。自分で使っちゃったら、それこそ私魔王になるし……やっぱり出られないか。いや、まだ平気だ。まだ平気だぞマリア。まだきっとごまかせる。まだきっと何とかなる。希望を捨てるなマリア!頑張れマリア!……そうだ、レオがいる!ほら、レオ、早く私を助けろ!私はピンチだぞ!もう泣きそうだぞ私は!精神攻撃はダメだ!泣くぞ!』

「……な、泣く訳ないだろう、この程度で。私だぞ?マリア様だぞ?そもそも動揺してない。幾ら喚かれようが痛くも痒くもない。これは真実じゃない、そこの監禁癖セカンド童貞ストーカーが私にそういう願望をかぶせているだけだ。そうか、か弱い女が好きかこのセカンド童貞が。私がこうか弱いとでも?助け出されたいなんて私はまるで思っていない」

『レオ、レオ、助けろ!私を助けろ!く……こんなはずじゃなかったのに……ちょっとレオに構って欲しかっただけなのに……出来心でついて来ただけなのに……すぐ助けてくれると思ってたのに!』


 本音が筒抜けなマリア様は、目尻に涙を溜めてくッと表情を歪めた。


「……ッ。か、……構って欲しい?助けてくれると思ってた?ば、馬鹿も休み休み言え。私があの童貞クズ野郎にそんな感情も信頼も持っている訳ないだろうが、ふざけるな」

『そうだ、ふざけるなレオ!私の事をほったらかしにしてシャロンとアリシアとばっかり遊んで……このクズ!ヘタレ!私が横にいるのになんで他の女に目移りするんだ!私だぞ、マリア様だぞ!私にもっと優しくしろっ!』

「…………ち、違う、思ってない。こんなのは嘘だ、まやかしだ!」

『毎日やきもきしながら帰ってくるの待ってるのに!帰って来るの待ってるのにっ!』

「待ってないっ!」

『待ってるっ!』

「ふざけるな!」

『真剣だ!』


 そう、舞台の上でマリア様は一人踊り狂っていた。


「「「「………………」」」」


 一堂はそれを呆気に取られて眺めていた。と、だ。そこで、空気を読む気がないサイコパスがぽろっと呟く。


「……黙れば良いだけなのに」

「……………ッ、」

『……………ッ、』


 シャロンの言葉に、マリアとマリア人形の声は同時に止まった。

 そしてマリアは苛立たし気に、……それこそ爆発寸前なくらいに顔を真っ赤にしながら、指摘してきたシャロンを涙目で睨み付ける。


 と、だ。


 ……あるいはその、普段クールぶってる美女の醜態が、何かをくすぐってしまったのかもしれない。


 サディストはにやりと嗜虐的な笑みを零して、言った。


「なんだ、マリア?あんた黙ってれば可愛いんだな?」

「……………ッ、」

『……………ッ、』


 マリア様はすごく何か言い返したそうにアリシアを睨み付けるが、けれど口を開くたびにもうボロが出る。


 いくら威嚇するように睨んでも、ぐぬぬと黙ったままではサディストが喜ぶだけである。


 さっきまで自分もまた醜態をさらしていたことを忘れたように、精神的に優位に立ったアリシアはそんなマリアをニコニコ眺め……。


 そこで、マリアの脳裏で、怒りの矛先がこうなった元凶に向いたらしい。


 マリアは法衣の男を睨み付け、何かを言い掛け……法衣の男はその視線を前にどこか放心状態。そして、そんなマリアの視界に、レオが映り込んだ。


(今、俺は何を見たんだ……?マリアの本心?毎日待ってた?確かに、いつ帰っても大抵起きてるな……。いつもの毒舌は全部照れ隠し?あのマリアが?俺に気が合った?)


 レオは思い出す。


 よくよく考えると、マリアは最初から、レオにシャロンとアリシアの二人を振れと言っていた。


 毎度毎度童貞童貞なじって来たのは……レオとシャロンかアリシアの関係が進んでいないか気になったから?


 ただの毒舌だと思って流したが首筋にキスマーク付けてやると言われたりもした。

 チェリーなお前が好きだっただの無償の愛が欲しかっただのも言われた。罵倒の流れの中で酷くわかり辛く。


 あの遊浴場地獄の、二股をごまかす手伝いは?仲間のふりして妨害する為だった?思い返すと、マリアがシャロンやアリシアを取り逃がしたのは絶妙に良いところ。サンオイルを塗る直前だったり、ドキドキを直接確かめる直前だったり……その様子は通信魔術でマリアの耳に入っていたはず。そのタイミングで意図的に二人を逃がしていた?


 あの遊浴場の最後だって、考えてみればレオはマリアに押し倒されたし、よく考えると口に突っ込まれたのはマリアが使っていたスプーン。


 押し倒して間接キスの上でマリアが言ったのは……。


『レオ。……お前は結局、誰を選ぶんだ?』


 どっちを選ぶんだ?ではない。誰を、だ。レオは二択として受け取っていたが、押し倒してそう問いかけている女は三択のつもりだったのかもしれない。


 素直になれないマリア様はあのタイミングで精いっぱい頑張っていたのかもしれない。


 考えてみると色々、思い当たる節がないでもない。

 そう、レオは考えて……。


(……いや、わかる訳ねえだろ)


 ヒントが少なすぎる。察するのはまず無理である。

 そう、レオが視線を向け……その視線とマリアの視線が合った。


「………………ッ、」

『………………ッ、』


 ぐぬぬ、と言いだしそうな雰囲気で、顔真っ赤かつ涙目なマリア様はレオを睨み付け……次の瞬間。照れが限界に達しでもしたのかもしれない。


 黙っていられないとばかりに、マリアは言った。


「…………死ねっ!」

『…………好きっ♡』


 毒を吐いたマリアの耳に、最高にあざとい自分自身の声が届いた。

 その瞬間、パキンと、何かが圧し折れたような、そんな音が聞こえた気がして……。


「そのハートマークはなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 絶叫と共にマリアは崩れ落ち――まるでその絶叫に触発されたかのように、周囲の空間が揺らめき淀み出す。


 地鳴り、いや、生まれ出る魔素の圧。それがこの占い小屋、天蓋付きのベッドを揺らし、マリアを捕えている結界に、ピキリとひびが入る……。


 その光景を前に、シャロンが呟く。


「まさかこれが、魔王の目覚めですか?マリアさんの精神が、敵の攻撃に耐えられなかった……?」

「いや、百パーセント自滅だろ」


 とか、アリシアが呟いた所で……またピキリと、結界に大きくひびが入り……その向こうで、ゆらりとマリアが立ち上がる。


 立ち上がったマリアの周囲を、オーラとも言うべき黒い影、いや、可視化されるほどの圧力を持った魔素が溢れ……次の瞬間、涙目のマリア様が、叫んだ。


「こんな世界…………滅べば良いんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 そのマリア様の絶叫に触発されるように、黒い影が膨らみ、結界を、天蓋付きのベッドをあるいは周囲を吹き飛ばす。


 黒い影に、あるいは圧に撥ね飛ばされて、舞台が、その傍の人形たちが、小屋が、周囲にあるすべて崩壊し方々へと飛び散っていく……。


 その光景の最中、法衣の男の乾いた笑い声が届いた。


「は、ハハ……この力はまさしく魔王様……魔王様の復活だ。こんな、容易く……ハハ、……この半年の私の準備は何だったのだ。積み重ねた情報収集は?占い師に身をやつしてまで、耐え忍んだ日々は?魔術の研究は?計画は?私の覚悟は?あれだけ準備をして、それが、こんな容易く……準備など必要なかったではないか……いや、私の信心が足りなかった……魔王様の助言を、心の底から信じていれば……」


 法衣の男の背中が泣いていた。きっと悲願が達成した喜びで泣いてるんだろう。


 男泣きに泣き、法衣の男は袖で自身の目を袖で拭い、呟いた。


「こんなにチョロかったなんて……」

「チョロいって言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 マリア様の絶叫が、八つ当たりが、憤りが、法衣の男を貫き、彼方へと吹き飛ばしていく……。


 その光景を前に、レオは呟きを聞いた。


「哀れな……」


 その声にレオは振り向いてみる。

 レオの言葉を封じていたピエロが、きっと苦楽を共にしていたんだろう仲間を襲った不運に男泣きして、メイクが崩れていた。


(……………いやお前喋れたのかよ)


 と、胸中呟いたレオの前で、突如、――ピエロの姿が吹き飛んでいく。


 思いっきりぶん殴ったらしい。

 そうやって、腕力で吹き飛ばされたピエロと入れ替わるように、レオの視線の先にいたのは、赤毛の美女。


 アリシアはヒーローよろしく笑顔を浮かべ、レオへと言った。


「大丈夫か、レオ。……助けに来たぜ?」

(…………こいつ、これまでの全部なかった事にする気か?)


 と思ったレオの前で、ふとアリシアはしゃがみ込み、レオの腕を捕えていた縄をこれまた腕力で引きちぎりながら……。


「レオ、昨日は酷い事言っちゃったけど、でも……」


 と世界の危機とかマリアとかより自分の色恋優先な美女は言い掛け、そこで、だ。


「レオ!」


 と、声を上げて、シャロンがレオへと抱き着いてくる。

 思いっきりタックルしてレオを押し倒しつつ、物理的にアリシアからレオを引きはがしたシャロンは、そのままレオを間近で見つめて、言う。


「……レオ?騙してて、ごめんなさい……。でも私、どうしてもレオと恋人になりたかったんです!」

(だから今そう言う状況じゃねえだろ……)


 と、胸中呟くのが癖になって来たレオの前で、アリシアが言う。


「あ、シャロン!なんだその服!背中開き過ぎだろ……お前色仕掛けする気だったな!」

「はい!レオにいやらしい目で見られたくて着ました!」

「確かに正直!?……じゃない、させない!カラダであたしに勝てると思ってるのか!」

「思ってないから頑張ってるんです!……アリシアさん、魅力的だから、負けないようにって……」

「シャロン……。あたしも、可愛さでシャロンに勝てないから、頑張って……」

「アリシアさんは十分可愛いと思います!」

「シャロン……あんたも、十分魅力的だよ、」


 二人はお互いの健闘を称え合っていた。


(…………結局仲良いな、こいつら)


 蚊帳の外にいる、と言うより出来ればこのまま蚊帳の外で居させて欲しいような気分で、レオは胸中呟いた。


 と、そこで、である。

 ――――痛いほどの殺意が、美女を侍らすレオの身体を貫いた。


 ゆっくりと、視線を向ける。


 ごごごごごご、と周囲で、小屋の残骸が圧に揺れ、そんな圧を発している人物は、舞台の残骸の上で一人、レオを睨み付けていた。


「………………」


 冷徹で残忍。狂気と怒りに暗く暗く瞳を濁らせた魔王。

 マリア様は女を侍らすレオを苛立たしく睨み付けて……そして、そんなマリアとレオの目が合った瞬間。


「……………っ、」


 ポン、と音が鳴ったかのように一気に、気持ちを知られたツンデレチョロインの顔は真っ赤に染まり……。


(――ヤバイ、)


 直感に突き動かされ、レオはシャロンを突き飛ばし、突き飛ばされたシャロンを、アリシアが抱き留める。


 直後、

「……そんな目で私を見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 魔王として覚醒したマリア様の絶叫と共に、黒い影が放たれ、周囲にあるすべてを真っ黒く塗りつぶし抉りレオへと迫り……。


 なすすべなくそれに飲み込まれながら、溶けてるのか燃えてるのかすらよくわからない滅びの最中、レオは思った。


(そんな目も何も、普通に見ただけなんだが……)


 それが、この混沌とした舞台の果て。


 無駄にイケメンな童貞クズ野郎、レオ・フランベールの最期の思考だった。


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