3 真実の館Ⅱ ~暴かれても別にって感じのシャロン~

「まあ、良い。なら、そのクズの貫録を見せて貰おうか……」


 そう、法衣の男が呟いた、そこで、だ。


「レオ!……ハァ、ハァ……」


 そう荒い息と共に、また、小屋の入り口が開いた。

 息を切らせてこの場に飛び込んできたのは、金髪の少女――シャロンだ。


 そして、シャロンがこの場に踏み込むなり、法衣の男は言う。


「シャロン・マグノリア。……ここは真実の館。この場で貴様に嘘は許されない」


 法衣の男が言った直後――机の上の人形がまた一つ姿を変え……そこに、シャロンを模した人形が現れる。

 が、シャロンはそれを気に留めずにレオだけ見て言った。


「レオ!?そんな、大丈夫ですか!……アリシアさん!?一体……」


 人形は言葉を発しない。まだ、嘘を吐いてはいないという事だ。

 そんなシャロンを見ながら……レオは胸中、呟く。


(シャロン?……なぜ、シャロンがこんな場所に……護衛は?……アリシアがついていると油断したのか?)


 そう苦々しい表情で、けれど何も言わないレオを前に、シャロンはどこか戸惑ったような表情を浮かべ……そこで、法衣の男の問いかけが投げられた。


「シャロン・マグノリア。お前はレオ・フランベールに嘘を吐いているな」

「何を言ってるんですか?私、レオに嘘なんて……ついてないと思います」


 全力倒錯少女はそう言った。そして、そのシャロンの言葉に……。


『……………』


 シャロンの人形は何も言わない。


「なんで!?」


 納得できない、とばかりにアリシアは声を上げ、そんなまださっきの余韻で真っ赤になっているアリシアを横に、シャロンは小首を傾げる。


「なんで、って……私結構正直に色々言ってますし。ねえ、レオ?」


 そう、シャロンはレオに向けて小首を傾げ、そしてシャロンの人形は、また、何も言わない。


(……シャロンに能力が効いていない?どうなってる?シャロンは本当に、俺に一切嘘を吐いていない……?)


 同じような疑念でも持ったのか、法衣の男は再度、問いを投げた。


「シャロン・マグノリア?本当か?一切嘘がないと?」

「え?一切って言われると、ちょっと……でも、あんまりないと思います」


 困ったようにそう首を傾げて、シャロンはそう言って……。


『………………』


 シャロンの人形はやはり反応しない。そんなシャロンを前に、アリシアはうなだれたように呟いた。


「あんた最強かよ……。それが嘘だって絶対」

「それが嘘ってどういう事ですか?」

「いや、あたしは断言できる。あんたは噓つきだ。あるだろ、レオへの隠し事一杯」


 色々納得できないだろう。ついに仲間割れの様相を呈して、アリシアがシャロンに問いかけて、それに、シャロンは暫く考えて……言った。


「…………レオに隠し事なんて、一つもありません!」

『はい!物凄く一杯あります!』


 今度は人形が反応した。そして、その人形の言葉に、シャロンの興味が漸く法衣の男と、その手元の人形に移ったらしい。


「な、なんですか?突然私の声が……あの、お人形?一体……」


 と、可愛らしく戸惑って見せたシャロン。

 そこで、人形は呟く。


『あ~嘘がばれちゃう感じなんですか。ふ~ん、ちょっと便利かも』


 そしてそんな自分の本音に、シャロンはすぐに声を返す。


「べ、便利なんて思ってないです。便利なんて思ってないですけど……ねえ、レオ、私の事好きですか?」

『良い機会だから使っちゃお』


 全部駄々洩れの中、それを一切気に留めないように依然可愛らしく、シャロンはふと胸に手をやり、目を伏せて……いう。


「答えて、くれないんですか……?やっぱりアリシアさんが好きなんですか?なら、やっぱり諦めます」

『アリシアさんが好きって言っても私は全身全霊で奪いとりに行きます!』


 まるでその本音に触発されたかのように、俯いていたシャロンはふと顔を上げて、真剣にレオを見つめ、言った。


「レオ……でも、私諦めきれない。私、貴方の事が好きなんです!」

『………………』


 そして人形は何も言わない。

 暫し、その場に落ちた沈黙の後……アリシアが呟いた。


「……あんたすげえよシャロン。普通一瞬でそこまで利用できねえよ……」


 そんなアリシアに、シャロンは視線を向け、言う。


「アリシアさん美人だから……負けないように頑張ってるんです!」

『……………』


 そして人形は何も言わない。


「シャロン……」


 何所か感動したように、アリシアは呟いていた。

 所々天然で言ってるからこの皇女は最強の諜報機関を配下にしているのである。


 そんな一幕を眺め……。


(これだけやって嘘はついていないと言い張れるのか?罪悪感がなければ、その問いが成立しない?人を騙しても嘘を吐いていると言う認識がない?それ、サイコパ……いや、待て。落ち着けレオ・フランベール。シャロンは可愛いから別にそれで良いじゃないか。アリシアだってそうだ。サディストでも可愛いから別に良いじゃないか。諸々俺が譲歩する選択肢だって…………じゃない!だからそうじゃない!)


 声を出せず身動きも出来ずレオは混迷を極めていく状況に胸中叫んだ。

 と、似たように苛立っているのは、どうも法衣の男も同じらしい。


「シャロン・マグノリア。……驚いた。そこまで根本から良心が存在しないとは思わなかったよ」

「良心が存在しないって……酷いですよ!」


 そう唇を尖らせるシャロンへ、法衣の男は言う。


「だが、良心が無くても、存在するだろう?他人に言い出せない秘密が。レオ・フランベールへの嘘が、隠した事が、騙した事が。一番汚い嘘を懺悔してみろ」

「汚い嘘なんて私吐いてません!私は一生懸命頑張ってるだけです!」


 そう、堂々と言い切ったシャロンに……。


『………………』


 人形はやはり反応しない。


「マジなのか、シャロン……あんた、もしかして軟禁され過ぎてもう心が……」


 一週回って怖くなってきたかのように、アリシアは戦々恐々呟いている……。

 と、だ。そこで、法衣の男は言い方を変えた。


「ほう、ならばまた問おう。シャロン・マグノリア……お前の願望は?汚らしい欲望は?」

「汚らしい欲望なんてありません!」


 堂々と、シャロンは言い切り……直後、人形は言い放った。


『レオに無理やりいやらしい事されたい!強引にめちゃくちゃにされたい!』

「………………」


 それを聞いた途端レオはシャロンを見た。


「………………」


 シャロンはさっと視線を逸らした。と、思えば、開き直ったように、言う。


「はい!私はレオにエロいことされたいです!」

「待てシャロン!自棄になるな!」


 必死に止めようとするアリシアに、ふと儚げに、シャロンは微笑みかけて、言った。


「別に、自棄になった訳じゃありませんよ、アリシアさん。ただ、今ちょっと思ったんです。これはこれでちょっと興奮するって」


 完璧に清楚な微笑みのまますさまじい事を言い放って、そしてそのシャロンの言葉に……。


『………………』


 シャロンの人形は反応しない。


「シャロン?」


 やっぱり怖くなってきたように呟いたアリシアを横に、シャロンはレオに視線を向け、言った。


「それに、さっきも言いましたが私別にそんなに隠してないですし。ねぇ、レオ?」


 そう視線を向けられて、レオは思い出す。シャロンの言動を。


後で続きしますか?とか。もう一回ガシってして?とか。ドキドキを直接確かめてとか……。


(……アレ、俺をからかってたんじゃなくてガチだったのかシャロン……)


 ちなみに性欲に忠実なのもサイコパスの特徴である。その他、周囲に魅力的に振舞う、人を騙すことに罪悪感を覚えない、自分の目的の為に手段を択ばない、倫理観が欠如している、辺りも全部サイコパスの特徴である。


「………………」


 何も言えず眺めるレオを前に、シャロンはふと、ニコリと笑いかけた。


(なんか怖いぞシャロン!?本当に心が無いように見えて来た……いや、そんなはずはない。サイコパスにだってちゃんと心がある、っていうかサイコパスじゃないかもしれないだろう!?ただエロいだけかもしれないだろ?なら、良いじゃないか。むしろ良いじゃないか……むしろ良いのか?…………じゃない!だから、そういう状況じゃない!)


 深まり往く混沌の中どうにか自我を保とうと、レオはそう胸中叫び……。

 そこでシャロンがびしっと、法衣の男を指さし、堂々と言った。


「さあ、そこの知らないおじさん。質問はもう終わりですか?言っておきますが、レオの前でこれ以上どう私を暴き立てようと……私が喜ぶだけですよ?」

「無敵かよシャロン……」


 シャロンの横で、アリシアがそんな事を呟いていた。

 そんな光景を、法衣の男は眺め……やがて、シャロンの相手は分が悪いとでも思ったのか。


「ふん。……完全に心がないか。ならば、手を変えよう。アリシア・スカーレット」

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