3 決戦、遊浴場Ⅱ ~シャロンと水着で密着~
『極まって来たな、ファッキンチェリー。下心しかない癖によくもまあ、ああもすぐごまかしが口から出るものだ。ごほっ、ごほっ……おお、初めて見たぞ。これが反吐か』
「うるさい。それよりシャロンの居場所。それから、アリシアを、」
『わかってる、わかってる。任せろ。シャロンを見失ったのは最初の波の辺りだ。アリシアの方は……アリシア!なんだそれ?サンオイル?おい、塗らせたい男に逃げられでもしたか?まあ任せろ、私は得意だぞ、ソレ』
『マリア……?いや、えっと、これは……そうじゃなくて、』
『ぶつくさ言うな。細かい事がどうでも良くなる位気持ちよくしてやるって言ってるんだ。早く寝ろ』
『あ、ちょっと……』
また、通信機の向こうから嬌声に近いような声がまた聞こえてくる……。
あ、とか、いや、とか、だめ、とかアリシアの声が聞こえてくる通信を断腸の想いで切って、監視機能を付けなかったことを酷く後悔しながら……。
(……今は、シャロンだ。シャロンの水着を褒めてあわよくばサンオイル塗らせてもらおう)
童貞クズ野郎はやはり極まって来ていた。
とにかく、童貞クズ野郎はシャロンの姿を探して、マリアの言っていた波のブロックの辺りへと早足に進み……。
(……どこだ、シャロン)
そう、周囲に視線を奔らせる。と、その時、だ。
「あ、あの……」
どこかためらいがちな声。シャロンの声が、離れた場所からレオの耳に届いた。
その声の元に、視線を向ける。その先に、シャロンはいた。
軽く結われた金髪が流れ――身に着けているのは、やはりビキニだ。アリシアと比べるとつつましい、だが均整の取れたプロポーションに、少し大人しめの、あるいは可愛らしい、フリルのあしらわれた白いビキニ。腰にはどこかふわりとしたパレオが巻かれていて……。
「……私、その、」
困ったように、あるいは怯えたように、シャロンは後ずさりし……そして、その怯えたような青い視線が向けられている先にいたのは、何人かの男達。
どうも、シャロンに詰め寄っているらしい。
(ナンパ?皇女に?シャロンの事を知らないのか、それとも……)
……この機会に無理やりにでもお近づきになろうとしているのだろうか?
どちらであれ、レオはすぐさま、その場へと駆けて行った。
「シャロン!」
そう、声を投げる。直後、シャロンの視線がレオを向き、その表情に安堵したかのような表情が浮かぶ。
「あ?なんだお前?」
どこぞの武官なんだろうか。筋骨隆々とした、シャロンに絡んでいた男のうちの一人がレオを見て――その視線を気に留めず、その場に辿り着いたレオはシャロンを背に庇い、その男を睨み付ける。
その目を見た途端、男たちの中の一人が、言った。
「おい。こいつ、レオだ。レオ・フランベール」
「……赤眼のレオ?」
「もめるのはまずいだろ、」
男たちは口々にそう言うと、やがて、捨て台詞代わりに舌打ちして、レオの目の前から消えて行った。
それを、前に……。
(……俺を知ってる?俺を知ってるのに、シャロンを知らないなんてのはないだろ。俺を見てすぐ逃げるのに、シャロンにはちょっかいを出す?バックに皇帝が居るんだぞ……)
……レオは不振がるように睨み付け、と、そんな背後で、だ。
「れ、レオ……」
消え入りそうな声が、背後から聞こえて来た。
(……考えすぎか?とにかく、何事もなくてよかった、か……?)
そんな思考と共に、レオはシャロンへと振り返り……その途端、だ。
突然、シャロンが、レオへと飛びついて来た。
「な、シャロン…………」
かろうじて言ったレオは、まさに胸に飛び込んできたシャロンへと、視線を下ろす。
シャロンは目を潤ませ、レオを見上げ、揺れた声で言う。
「探したんですよ、レオ……」
その目を……そして押し付けられた胸の谷間を、レオは間近で見ていた。
アリシア程のサイズはない。が、それでも体格からすれば十分大きいその胸が、薄布一枚でレオの身体に押し付けられ、柔らかい感触をレオに伝えながら、その形を歪めている。
それを見ながら、童貞は言った。
「アリ……シャロン。さっきの奴は?」
そう童貞が普通にミスった瞬間、レオに身を預けてくるシャロンの表情が固まった。
「………………………………アリ?アリ、何ですか?」
「いや、えっと…………」
「もしかして、アリシアさんが、どうかしましたか?」
「…………」
露骨に視線を逸らしたレオを前に、シャロンの目から光が消えた。それを横目にちらちら怯えるように眺めた末、レオは、呟く。
「……リテイクだ」
*
全力で更衣室まで走り更衣室にある短剣を手にし躊躇なくそれを心臓に突き立て――。
――そして自身の胸に走るのが自殺の痛みから柔らかな双丘に変わる。
「探したんですよ、レオ……」
と目を潤ませるシャロンが、レオに抱き着いてきている。それを、見下ろし……。
「シャロン……さっきの奴は?」
「突然、声を掛けられて……」
言いながらなお強く、シャロンはレオにしがみ付き、もたれ掛かってくる……。
(普通にミスった。危ない……危ないって言うかアウトだ。だが、何とか……)
言い間違いをごまかす為にチートに頼った童貞クズ野郎は、そう、ほっと胸を撫でおろした。そして撫でおろした胸にシャロンの胸がずっと押し当てられている……。
「しゃ、シャロン……その、」
「怖かったんです、私……」
そう、どこか切なげに言葉を継いで、シャロンは揺れる目でレオを見上げ、更に強く、その華奢な肢体を、だがその体躯に見合わない双丘の感触をレオに伝え……。
そんなレオを前に、シャロンはふと小さな笑みを零すと、呟いた。
「今、やっと、……少し安心してきました。もう少し、このままで居て良いですか?」
(もう少しこのままで居て良いんですか……?)
童貞は胸中鸚鵡返しに、自分に当てられている薄布一枚の柔らかな感触を意識し、目を下ろせばすぐ傍にある今にもこぼれそうに押し潰れた谷間を見て……。
そこで、シャロンはまた笑みを零し、今度はからかうように、囁くように、レオへと言う。
「私、まだドキドキしてます。……直接、確かめてみますか?」
「……………」
(直接?……この状況の上で更に直接?)
密着状態で囁かれた童貞は固まり、そしてもうシャロン(の胸)しか見ていなかった。
それがわかっているかのように、シャロンはまた、悪戯っぽく笑みを零し……けれど、そこで、だ。
お楽しみ終了の告知がレオの耳に届いた。
『おい、終身栄誉童貞。喜べ、お待ちかねのグッドニュースだ。聞きたいか?聞きたいだろう?』
マリア様はそうおっしゃっている。
『アリシアが逃げたぞ。まったく、呆れた身体能力だ。喜べ、お前の破滅は近いぞ』
(だからそれはどう考えてもバッドニュースだろ、)
胸中そう呟いて、それからレオはふと、真剣な表情を浮かべて、シャロンの肩を掴んだ。
「あ、……」
思いっきり誘惑している最中にいきなり肩を掴まれた皇女は、そう声を漏らし、ピクリと身体を震わせ、けれどそのままレオに体重を預け続け……。
そんなシャロンの身体を、レオは断腸の思いで引きはがす。それから、レオは言った。
「とにかく、何事もなくてよかったよ、シャロン。……周りでみんな見てる」
そう、レオが囁いた途端、周囲で人々が何事もなかったかのように動き出す。
シャロンの痴態が見たかったのか、あるいはレオの方が目当てだったのか。密着している二人は衆目を引いていたようで、漸くそれを意識したのか、シャロンは少し拗ねた風に、周囲の人々を眺めていた。
そんなシャロンの肩から手を離し、身を離し、レオは言った。
「……入れ違いになったみたいだな。こんなはずじゃなかったんだが……。とにかく、もう平気だ。そう言うのはまた今度にして、今日は楽しく健康的に遊ぼう」
かなり板について来た童貞クズ野郎を前に、シャロンは、やはり拗ねた風にこくりと頷き、……それから、その一瞬前の表情が嘘のような笑顔で、レオを見上げて、言う。
「……そう、ですね。はい!健康的に遊びましょう!じゃあ、レオ。どこに行きますか?」
「そうだな……」
(アリシアとブッキングする場所は避けたい……と言うか避けなければならない)
もし、アリシアと同じブロックに踏み込みでもすれば、……相手は鮮血のアリシア。一瞬で捕捉されて、一瞬でこの遊浴場が鮮血に染まりかねない……。
暫し、思考を巡らせた末……レオは声を上げた。
「シャロン」
「はい!」
突然呼ばれて背筋を伸ばしたシャロン。その目を真剣に、あるいは必死にも見える――と言うか死が間近で完全に必死以外の何物でもない表情で、レオは眺め、こう言った。
「……どこに行くのが良いと思う?何所に行きたい?お前の意見を聞きたい?何所が良い?」
「え?は、はい……そうですね、えっと、」
と、悩み始めたシャロンを前に、レオの耳にマリア様の呟きが聞こえる。
『ん?おい、それもしかして私に聞いてるか?そうだな、童貞クズ野郎。地獄ってのはどうだ?すぐご紹介してやれるぞ?』
「はっきりしてくれ。俺は真剣なんだ!真剣にシャロンと遊びたいんだ!」
「は、はい!……じゃあその、私……実は、行ってみたいところがあって、……そこに行きたいです!」
『真剣?そんなに半裸のお姫様が気に入ったか、クズ野郎。チッ、……わかったよ。じゃあ、ここだけは避けろって金言だけ授けてやる、せいぜい有難がれ、童貞。良いか、アリシアが向かったブロックはな、』
通信と目の前と、二人は口々にそう言って……それから、
『「
「……………………」
天使と悪魔は声を揃えて童貞クズ野郎に同じ場所に逝けと言った。
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