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「ウルカー! お客さまだよー!」

 階段先の、陰気臭い扉。天使はそれを思い切りこじ開け、大声で彼に呼び掛ける。裏作業を何でも引き受ける、影の代行業者。彼はその責任者だ。

「ユリネ、ご苦労」

 粗末な机に向かって謎の調合をおこなっていたウルカは、天使のユリネと客の気配を感じて椅子から立ち上がった。適当な服装をした彼は、謎の白い粉末を手に、彼女たちの元へと近づく。

「ほら」

 彼から粉末を渡されたユリネは、「うひゃひゃひゃひゃ!」と奇妙な笑い声を上げ、スキップとしながら階段を勢い良く上って行った。入口付近には、女性客だけがポツンと取り残される。

「えっと……」

 状況に気おされ気味の彼女は、曖昧な表情を浮かべながらウルカに喋り掛けた。

「代行業者さんですか……?」

 

「そうだよ」

 ――彼女は思わず肩を震わせる。いつの間にか、小柄な青年が背後に立っていたのだ。赤い瞳に、褐色の肌。肌寒くなってきたのに、半袖に短パンの恰好で、肩に掛かるぐらいの長さの銀髪を左右で短く編み込んでいる。彼は紙袋を両手に、ニコニコと微笑んだ。

「そこのソファに座って。僕たち、今からご飯なんだ」

「あ、はい……」

 彼に促されるまま、女性は近くにある年季の入った緑のソファに腰掛ける。「ウルカ、ヴァニラを呼んできてよ」と言いながら、紙袋を持った青年はせっせと食事の準備を始めた。ソファの前のテーブルに、ハンバーガーやジュースが並べられていく。

「お姉さんは、オレンジジュースとグレープジュース、どっちがいい?」

「え、私は別に……」

「いいから、気にしないで」

 人懐っこい口調で、青年は女性に話し掛けた。最新の発明品である紙コップに入ったジュースを両手に、彼女にグイグイ迫る。

「ほら、ジュースもお姉さんに飲んでほしいって言ってるよ」

「……じゃあ、グレープで」

 彼の雰囲気に押され、女性は左手のコップを受け取った。中に入った氷が、互いにぶつかって涼しい音を立てる。

「僕の名前はティオ。お姉さん、きれいだね」

「いえ、そんな……」

「でもその髪、アップにした方がいいよ。あっ、僕がやってあげようか?」

「えぇ……?」

 完全に、一人で盛り上がる青年・ティオのペースだ。女性はどうしたら良いか分からず、ひたすら曖昧に笑い続けた。

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