1-他人の不幸は蜜の味

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 芸術の都・レオ。華やかな建造物に溢れ、きれいな花々が咲き乱れるこの街にも、観光客には隠された裏の顔がある。悪行が蔓延る、光の当たらない世界が……。

 

 路地裏にひっそりと開店している、謎のカフェ。コーヒーやケーキなど、ありふれたメニューが並んだこの店は、一見するとごく普通の飲食店だ。……地下へと続く、不気味な階段を知らない者にとっては。

「いらっしゃいませー」

 フリフリのエプロンを着た店員が、来店した客の接待をする。蛍光色の強い青色のツインテールに、キラキラと光る金色の瞳。何より特徴的なのは、頭に浮かんだ丸い輪っかと白い翼だ。

「ご注文がお決まりになりましたら、いつでもどうぞー」

 お冷をテーブルの上に置いた彼女は、俯いた女性の一人客に向かって愛想の良い笑顔を振りまいた。お世辞にも清潔とは言えない店内には、彼女と客の二人だけ。それもそのはず、今は深夜の一時なのだ。

「あの……」

 癖の強い歩き方で立ち去ろうとする天使に、女性はか細い声で話し掛けた。セットされていない茶色い髪は、見るからにボサボサだ。

「注文は、もう決まっています」

 彼女は深く息を吐いて、焦げ茶色のコートから金貨を一枚取り出し、テーブルの上に置いた。カフェのメニューは、銅貨があれば十分注文できる。……これはつまり、地下への通行許可金だ。

「復讐して欲しい相手がいるんです」

 客のその言葉に、店員の少女はニヤッと笑う。

「かしこまりましたぁー」

 腰を振りながらぶりっ子のようなポーズを取った天使は、女性の手を引っ張って奥へと歩いていく。

「お客さま一名、ご来店でーす」

 客を引き連れた彼女は薄暗いキッチンに足を踏み入れ、材料で隠された非常に狭い階段へと体を滑らせた。

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