ミグルミ

エリー.ファー

ミグルミ

 置いて行け。

 何もかも、ここに置いて行け。

 私はここにい続ける者。

 お前とは違い、ここから世界を覗く者。

 分からないものに示す者。

 さあ、置いて行け。

 そうして、老いていけ。

 本来は、何もかも得られずに消えていく定めのお前が、そうやってそこに存在しているのは明らかなバグだ。

 この世の中のバグでしかない。

 お前の存在はこの世の中において間違いなのだ。あってはならない事象そのものなのだ。

 忘れるな。

 お前は誰にも望まれてはいないのだ。

 そこに存在する限りは、常に飽きられている。

 お前に才能があると思っているのは、もうお前だけなんだよ。

 だから、お前がお前である証拠をすべてここに置いて行け、私がすべてもらい受けよう。なあに、遠慮はいらない。お前がどう思おうと全てが私のものだ。




 置いて行け。

 置いて行け。

 何もかも置いて行け。

 ここは洞穴であり、ずっと遠くまで生きていけるものではない。

 時間が大切なのだ。

 じっと生きていくのが重要なのだ。

 私はここにプライドを置いてきた。

 誰にも見られないようにしたつもりだったが、そんなことはなかったようだ。

 お前に見られたわけだからな。

 あはは。

 いや、恥ずかしい限りだ。

 最初は、プライドを大切に抱えていたんだ。色々と役に立つこともあるだろうと思っていた。でも、そんなことはなかったよ。間違いだった。これは、邪魔な装飾品だ。

 プライドがあって幸せになることのできる人間などいやしない。

 私はプライドを捨てて幸せになるよ。いや、もちろん抱えて生きていたかったさ。でも、駄目だった。プライドは重過ぎる。そして、私の顔によく似ているんだ。

 味わってしまった。

 私の人生は苦労や努力、そういったものに支配され過ぎたよ。

 自分のしているものが苦労だと、もっと早くに気付くべきだったよ。

 いや、気づかなければ天才になれたのか。



 

 置いて行け。

 置いて行け。

 その悲しみを、その悲劇を、その悲惨さを。

 ここにすべて置いて行け。


 

 

 置いて行け。

 置いて行け。

 その不幸を置いて行け。

 その身を置いて行け。

 何もかも奪わせろ。

 さあ、置いて行け。




 置いて行け。

 頼む。

 置いて行ってくれ。

 寂しいんだ。




 置いて行け。

 ここに、お前の思い出を置いて行け。

 時間が経過する限り、多くの事象が結晶化していく。

 それらはお前の手ではなく、私の手の中にこそおさまるべきだ。

 すべては私のものだ。

 



 置いて行け。

 もっと遠くから私を見ろ。

 いいか、絶対に近づくな。

 空を見ろ、地面との距離をはかれ、不用意に笑うな。

 分かりあえる日などこない。絶対にだ。

 知識だけがすべてを失わせる。

 



 置いて行け。

 持っているものをすべて置いて行け。

 全部、私のものだ。

 これは正当な手段だ。間違いなどない。

 明け渡せ。

 魂を、心を、命を、こちらに。

 頷く以外の行動は期待していない。早くしろ。

 いいな。

 



 置いて行け。

 そう言ったはずだ。

 私を馬鹿にしているな。

 そうだろう。

 そういうことを私は許さないからな。一生、憶えているぞ。

 いいな、今後はそのつもりで話しかけろよ。

 分かったら返事をしろ。




 置いて行かないのか。

 置いて行け、と言ったのが聞こえていないのか。

 こんなガラクタばかり押し付けやがって、役に立つもの、価値のあるものをよこせと言っているんだ。

 なんなんだ、お前は。

 何者なんだ、お前は。

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