ヒストリー8 つづき③

メーテルの木{この笑顔には本当に、

困ってしまうのぅ。}


サルト『よっ』


サルトが、立ち上がり湖から顔を出している

木の幹の上を歩きだした。


メーテルの木{何をしておるサルト?}


サルト『じいちゃんの

近くに行こうと思ってさ。』


メーテルの木{ははっ、これこれ

足元に気をつけるんじゃぞ。}


サルト『はーい。』


メーテルの木の麓〔ふもと〕まで来たサルトは

肩から、ぶら下げた鞄を木の枝に引っ掛けて

腰を下ろした。


サルト『ふぅ・・ここ、いい所だね。』


メーテルの木{そうじゃろう。花や動物、

水や、虫達が守ってきた、

素晴らしい場所なんじゃ。}


サルト『帰りたくないな。』


メーテルの木{・・サルトは、何故

この森に迷い込んだのじゃ?

ドットチャイム家は、ここから、かなり

遠くにあったはずじゃが?}


サルト『家に居たくないから、

逃げてきたんだ。遠くに行きたくなって

気付いたら、ここに来てた。』


メーテルの木{そうか、家に居たくなかったか。

しかしよく、無事で来れたもんじゃ。

いくら領内だからといって、決して治安が

いいわけじゃない。}


サルト『大丈夫だよ!何回も逃げてるから

安全な道を地図に書いてるんだ。えっとねー、・・』


【ゴソゴソ】


サルト『ほらっ』


サルトが鞄から、紙を取り出した。

その紙には、不器用ながらに地図が書かれている。


メーテルの木{ほぅ、大したもんじゃ。}


サルト『いつも逃げるたびに、地図を書くんだよ。

そしたら次、家から逃げたとしても

ちょっとは楽だし、楽しいんだ。』


メーテルの木{何故、逃げるんじゃ?}


サルト『うーん』


ずっと笑顔だった、サルトの顔が

少し曇った。


サルト『家に居ても、やりたくない勉強

させられるし、お兄ちゃん達は、いつも

叩いてくるし、パパもママも僕には

構ってくれないんだ。

だから家に居ても辛いだけだから逃げるんだよ。』


メーテルの木{そんな事があったのか。

王家は色々と複雑な事もあるのは

知っていたが、こんな小さい子が

そんな経験をしてるとは・・}


サルト『僕は小さくなんかないよ!

これでも、もう12歳なんだからね!』


メーテルの木{そ、そうか、すまん。}


サルト『こっちこそごめんなさい・・

大丈夫だよ。もう慣れた。

背が小さいから、下に見られる。

弱虫で臆病者だし・・

でもね、じいちゃん!家の中でいるより

外にいる方がずっと楽しいんだ!

危険かもしれないけど、

いっぱい発見もあるんだよ!

今日なんか、最高の場所もわかったし

何より、じいちゃんに会えたから!』


サルトがまた目を輝かせた。


メーテルの木{うむ。いい目じゃ。

サルトは、弱虫でも臆病者でもない!

立派な男の子じゃ!ワシが補償しよう。}


サルト『やったー!』


サルトの目は、まだまだ輝きつづける。


サルト『僕ね、夢があるんだ。』


メーテルの木{夢?それはどういった夢なのじゃ?}


サルト『いつか、

この世界を冒険してみたいんだ!

海にも行ってみたいし、本で見た、

砂の大地や、雪の大地、

星が降る大地にも行ってみたい。

そして、自分だけの地図を作りたいんだ。』


メーテルの木{それは、大きく素晴らしい夢じゃ。

男に生まれたのなら、それくらい

大きな夢を持たなければな。そして

行動して、夢を実現するんじゃ。}


サルト『うん!冒険に出て帰って来たら

じいちゃんに、話しをするよ!

いっぱい話しを聞いてもらうからね!』


メーテルの木{もう冒険に行った気で

話してるのか?じゃが、それは

とても、いい事じゃ。まずは言葉にする事が夢への

第一歩じゃからな。

サルト、約束じゃぞ?必ず

冒険の話しを聞かせておくれ。}


サルト『うん!約束した!にひっ』



回想、終わり。


﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆﹆


つづく。

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