ヒストリー8 つづき②

回想

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ザックの森の中を、泣きながら歩くサルト。


サルト『ひっく、・・ひっく

ここ何処?誰かいないの?。』


森の動物達が、サルトに注目している。

警戒心というよりも

サルトに対する興味のほうが強いようだ。

 

風で木々が揺れるたびに、サルトは驚き震える。


?{少年。}


ふと、サルトの頭の中に声が響いてきた。


サルト『え?誰?どこにいるの?。』


周りをキョロキョロ見渡すサルト。



?{ピーピー泣いて、迷子になってしまったのか?}


サルト『うん。帰り方がわからないんだ。』


?{仕方ないのぅ。}


木の影から小鹿が現れた。小鹿の背中には

小鳥も乗っている。小鹿は、サルトを見つめて

走って行った。

そして、立ち止まり、またサルトを見つめて

走って行く。


サルト『鹿だ。』


?{その小鹿の後をついて行け。}


サルト『え?』


?{ついて行けばわかる。}


サルト『う、うん。わかった。』


小鹿の後を追って走るサルト。


・・


やがて大きな湖に着いた。

小鹿も湖の前で待っている。


サルト『わぁ、綺麗だー』


サルトは見たことのない景色に目を輝かせた。


小鹿は耳を動かしながら、湖の水を飲んでいる。

その時、背中に乗っていた小鳥が飛び立った。

湖の先にある、大きな木に向かって羽ばたいている。


?{ここなら、水もあるし危険もない。

もう夜更けじゃ。森の外はもっとあぶない。}


サルトも湖の水を飲んでいた。


サルト『誰だかわからないけど、ありがとう。』


?{うむ。まだまだ子供じゃが、礼儀は

学んでいるようじゃの。}


サルト『目の前の立派な木が、話してるの?』


?{立派とは、なかなか出来た子じゃな。

そうじゃ。まさか〝木霊〟〔こだま〕の声を

理解できるとは、驚いた。}


サルト『今までも、たまに声が聞こえたり

してたんだ。いつも周りには誰もいないし

花とか風の声かなぁと思ってたけど

僕、間違ってなかった。』


サルトが笑った。


大きな木{そうか。今までも似たような事が

あったか。}


サルト『うん!でも会話したの初めてだ。』


大きな木{ワシも、何十年ぶりかのぉ、

人と話したのは。}


森の風が、心地よくサルトの頬をうった。


大きな木{少年、名はなんという?}


サルト『僕はサルト!

サルト・Y・ドットチャイム!』


大きな木{ほー、ドットチャイム家の子か。}


サルト『そだよー、じいちゃんの名前は?』


大きな木{じぃちゃん⁉︎じいちゃんか・・

面白い子じゃな。ワシには名前なんてない。

ただの年老いた木じゃ。}


サルト『年老いてなんかないよ。

じいちゃんは立派だ。

そうだなぁ・・名前、名前・・うーん。』


大きな木{ほんとうに変わった子じゃ。}


サルト『そだ!』


サルトが何か思いついたようだ。


サルト『メーテルだ!メーテルの木!

じいちゃんの名前はメーテルだ!』


大きな木{メ、メーテル⁉︎}


サルト『うん!僕がずっと大切にしてる本に

出てくる、7人も孫がいるおじいちゃんの

名前がメーテルなんだ。すごい優しい

おじいちゃんなんだよ。』


大きな木{それは嬉しい。メーテルか・・。

名前なんて、つけられたのは初めてじゃな。

しかしサルト、ワシは優しくないかも

しれんぞ}


サルト『優しいよ。声でわかる。』


サルトがまた笑った。


つづく。

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