ヒストリー8 つづき①

サルト『さっきまで暑かったのに

森に入っちゃったら、全然暑くないなぁ。』


自然にできた、森の傘が太陽からの日差しを、

凌〔しの〕いでくれている。

綺麗な小川も流れていて、小川に沿って歩いて

行けば、湖が広がっいる。

湖といっても深くはなく、大人であれば

膝丈ほどの深さしかない。

その湖の奥にある大きな木が、〝メーテルの木〟だ。


サルト『じいちゃん、ただいま。』


メーテルの木{おかえり。}


サルトは、メーテルの木の幹〔みき〕をつたって

一気に駆け上った。


サルト『ふぅ、到着!』


サルトは、お気に入りの場所に座った。

そこからは、ディッチ家領内が見渡せて

〝アベルの壁〟もずっと下に見える。


メーテルの木{サルト、また来たのか。}


サルト『うん!じいちゃんにまた会いに来た。』


サルトが満面の笑みを見せる。


メーテルの木{全く、ここまで来るのにも

危険だというのに、怪我はないか?}


サルト『ないよ!じいちゃんは会いに来る

たびに同じ事聞いてくるなぁ。』


メーテルの木{あたり前じゃ!ディッチ家が

近いのじゃぞ!〝アベルの壁〟があるとしても

誘拐でもされたら、どうするんじゃ。}


サルト『う〜ん・・ディッチ家の人達って

そんなに悪い人達なのかな。』


メーテルの木{みんなが悪いとは言わんが

中には、ドットチャイム家を憎んでる

人間もいるかもしれんぞ!

過去に、壁を超えてセルビー家に侵入した

ケント家の人間が捕らえられて、裁判に

かけられ、殺されたというのに。}


九つの王族は、それぞれに

独自の法律を作っている。

ドットチャイム家には、ドットチャイム家の法律、

セルビー家には、セルビー家の法律、

といった具合に、組織されているので

他の者が、壁を超えて入ってきたとしても

その〝家〟の法に乗っ取って裁かれる。

王族によっては、拷問や、引き回し、

公開処刑など、残酷な刑を行なっている

〝家〟もある。


サルト『じいちゃんは、木なのに、

色々と知ってるよね。』


メーテルの木{そりゃそうじゃ、

渡り鳥や、花の子供達が色々と、他の土地の

話しを聞かせてくれる。}


サルト『ふ〜ん、みんな仲良くしたほうが

絶対楽しいのに。』


メーテルの木{それが一番じゃが、

大人の人間というのは、どうも不器用で、

素直じゃないからのぉ。}


サルト『大人になるの、嫌だなぁ。』


メーテルの木{サルトは大丈夫じゃろ。

優しい大人になる。

なんせ、〝木霊〟〔こだま〕であるわしと

話せるんじゃからな。}


サルト『他のみんなは、じいちゃんと

話せないの?。』


メーテルの木{ワシらのような、自然、動物の

声を感じれる人間は、限られた者しかいない。

心が清らかで、人に優しくできる者じゃないとな。

その中でも会話ができるのは、サルトを含めて

数人しか、しらん。}


サルト『でも、僕、メーテルとしか喋れないよ

鳥や、ウサギとかとも全く喋れないし。』


メーテルの木{それは、これからの事じゃ。

サルトは、素晴らしい才能を持っている。

それは、忘れてはならんし、自分を

認めてやらんといかん。}


サルト『才能かぁ、なんかカッコいい。』


メーテルの木{その才能溢れる男の子が

1ヶ月ほど前じゃったかな、

泣きながら、この森に迷いこんできたのは。}


つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る