ヒストリー9 〜あの子はメリル姫!〜

ザックの森 《サルト視点》



ディッチ家領地内では、馬に乗る練習を

してる人達がいる。

一般市民ではないようだ。

中には衛兵も何人かいて、周りを警戒している。

その中でも、ひとりの女性の剣士が

異様な空気を放って、女の子を護衛している。


サルト『じいちゃん、

女の子が乗馬の練習してるよ。』


メーテルの木{あぁ、あの子は、

〝メリル・G・ディッチ〟。

ディッチ家の一人娘じゃ。メリル姫と呼ばれて

いて、ここ最近、馬に乗る練習をしておる。}


サルト『へー。』


サルトは、その女の子、メリルに釘付けになった。


メーテルの木{なんじゃ、好きになったのか?}


サルト『そ、そんなんじゃないよ!

ただ可愛い子だなぁって。』


メーテルの木{それを、人間の世界では、

好きって事ではないのか?}


サルト『違うよ!・・多分。』


サルトの顔は赤くなった。

恋などした事のないサルトには

今の気持ちに、戸惑いを覚えるだけだ。


メーテルの木{ディッチ家の、一人娘だから

メリル姫は、大切に育てられておる。

年は、確かサルトと同じくらいだったはずじゃが。}


サルト(僕と同じくらいって事は

12歳くらいかな。)


サルト『メリル姫か・・』


サルトは、メリルに向かって手を振ってみた。

もちろんメリルは気付かない。


メーテルの木{こんな所から手を振っても

誰も気付かないぞ?お前は森の茂みの中じゃ。}


サルト『わかってるよ。

ただ、やってみたかったんだ。』


サルトはしばらく、

メリルの馬の練習を眺めていた。


サルト『ふわぁ。』


メリルの姿を見ながら、ウトウトするサルト。


・・


メーテルの木{なんじゃ、

眠ってしまったのか。}


サルト『ぐーぐー。』


メーテルの木{仕方ないのぅ。少しだけ

眠らせたら、また起こすとしよう。}


・・

・・・


メーテルの木{サルト、サルト!}


サルト『うーん』


メーテルの木{夕暮れが近いぞ。

家に戻るなら、もう起きなきゃならん。}


サルト『・・ほんとだ。』


サルトは、ディッチ家領地内に目を向けたが

そこにはメリルの姿はない。


サルト『メリル姫、帰っちゃった。』


メーテルの木{サルトが起きる、ちょっと前に

メリルは帰ったぞ。

何度か声をかけたが、あまりにも

気持ち良さそうに寝ておったからな。

そのままにしておいた。}


サルト『ありがとう。じぃちゃん。』


メーテルの木{サルトはどうするのじゃ?

家に帰るのか?}


サルト『うん!帰りたくないけど

嫌な事から逃げてたら、冒険なんか

できないからね。

帰って、またここにくるよ。』


メーテルの木{そうか。いい顔じゃ。

いつでも、ここに帰ってきなさい。}


サルト『うん!ありがとう!

じゃあねーじいちゃん!』


サルトは、そう言うと、メーテルの木から降りて

湖の木の幹の上を駆け走る。 


メーテルの木{若いというのは、

素晴らしいのぅ。・・ん?}


サルトが急に立ち止まり、振り返った。


サルト『じぃちゃーん!いつも

ほんとにありがとう!

じいちゃんは2番目に出来た、

僕の大切な友達だよー!』


メーテルの木{・・・}


サルト『バイバーイ!』


サルトは、メーテルの木に手を振り

駆け出して行った。


メーテルの木{・・やれやれ、

ほんとのほんとに、あの子の笑顔には

困ってしまう。}


メーテルはサルトの後ろ姿を

見えなくなるまで見つめた。


メーテルの木{友達か。

何十年ぶりかのぅ。そう言って

もらえたのは。}


メーテルはつぶやくと

静かに、心を閉じた。


つづく。

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