12 やりやがった③
まだミグが幼かったこともありジタン王は深く踏み込んだことは聞けず、とうとう秘密を持ったままゼクストは旅立ってしまった。だが友は死に際、ジタン王にこんな言葉を遺した。
――頼む、友よ。ミグの居場所を奪わないでやってくれ。
それはいつか奪う者が現れるという警告か。それとも奪いたくなるという予言か。
その衝撃は突然に起こった。ドッと突き上げる揺れのあと低い地響きが走る。ジタン王はよろめきながら窓にかじりついた。南東の空に黒煙が昇っている。森林地区の方角だ。
あいつら、やりやがった。
「あのおじょうさんはいったい何者なんだよ、ゼクスト……!」
警告もなく撃ち込まれた一発の砲撃が、戦争のはじまりだった。
ベガ国・住宅街地区、第一次防衛線付近。夕刻。
「退却だ! 退け! 退けえー!」
平生ならば畑から引き上げる農夫や夕食の買い出しに市場へ出てきた人々でにぎわう大通りは、物々しく武装した兵士たちに踏み荒らされていた。
最南東の森林地区は無言の先制攻撃をしかけてきたプロキオン帝国艦隊によって瞬く間に陥落した。木々をなぎ倒し、無理やり着陸した母艦からわらわらと帝国兵が押し寄せ、ベガ国の兵士はわけもわからぬまま避難する国民を背にかばいつつ、農産地区で敵と相対した。
しかし劣勢は必至だった。国民の肉壁となる兵士たちは不意のことで他部隊と連携が取れず、敵の刃に、
そこへ響いた早過ぎる退却命令に兵士たちの脳には疑問が走る。しかし次いで「これは訓練じゃないぞ!」と響いた声、地区と地区の境目である立地にひとつのひらめきが瞬いた。この戦況は訓練でやったことがある。
気づいた兵士が声をかけ合い、地区の境にある橋を駆け上がってすばやく身を引く。
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