第20話

 巨大生物の上で、水無月と私は身体を変形させて臨戦態勢をとっていた。


 水無月は両腕を日本刀のような細身に、私は片腕をナイフのように展開させていた。


「ラストナンバーズの秘密、知りたくない? ナナ」


 互いに距離を測りながら、私をけん制するように水無月が話し始めた。


「何の話かな?」


「興味のないふりをして。本当は気になってるんでしょ。私たちの出自の秘密を」


 私と水無月は円を描くように相手の様子を伺いつつ、会話を続けた。


「ラストナンバーズ。それは8つの特別な、そして最後のスワンプマンたち。私とナナ、そしてこのオロチもそうなのよ」


 水無月はそう言いつつ下を、いや巨大生物を指した。


「!? こいつがスワンプマン!」


「そうよ。本来スワンプマンは肉体の規格、強度共に制限はないの。だから人間からかけ離れた存在にもなれる。私たちもね」


「だ、だけどそんな変形ができるエネルギーは一体どこから来てるの!?」


「それは簡単。私たち、特にラストナンバーズには極小のワームホールを保有しているのよ」


 私はその言葉に目を丸くする。ワームホールとはつまりブラックホールだ。そんなものが造られているどころか、こんな小さな体に内蔵されている事実が信じられなかった。


「嘘だよね」


「いいえ、本当よ。その無尽蔵のエネルギーが私達を生存させている。科学者が言うには電磁場で胸の中心にワームホールを固定……まあ、難しい話はいいわね」


 私は水無月の言葉が信じられなかった。それなら私の身体にはブラックホールを飼っているわけだ。そんなのは爆弾を常に抱えているのに等しい。


「実際危険よ。私たちの先代のほとんどはワームホールが制御できずに自壊したわ。残ったのは私たちくらい。だから、特別なの」


 私は水無月に告げられた真実につばを飲み込むほど真剣に聞いていた。


 ただ、それなら疑問が1つあった。


「じゃあ、私たちは姉妹みたいなものじゃないかな? ならなんで水無月は私を殺そうとするの?」


「それって質問? そんなの分かり切ってるじゃない」


 水無月はやはりいつもどおりの狂喜に満ちた笑いで私を見た。


「私はナナが好き。それだけよ」


 その言葉と共に、水無月は跳躍した。


 そして変形させた腕による乱舞、乱舞、乱舞。私は防御するのが精いっぱいなうえ、避け切れない攻撃が肌を傷つけた。


「更に! こんなこともできるのよ」


 剣舞を終えた水無月が距離をとったかと思えば、今度は自分の胸の前に光の球体を作り上げる。


 それはまるでカナタが使っていた魔素の塊だ。私は嫌な予感を感じて横へ跳んだ。


 その瞬間、私の脇を強力なエネルギーを放つ球体が高速で通り過ぎたのだ。


 しかも光の球体はそのまま近くの建物にぶつかり、まるで怪物が噛み千切ったような空白を作り上げてしまった。


「いわゆるプラズマよ。ワームホールのエネルギーを使いこなせばこれくらいのことは簡単なの。ナナにだってできるはずよ。そうでないと」


 水無月は遥か下方を指さすと、私の視線を誘導した。


「ナナの大事な友達が死んじゃうわよ」


 私たちの眼下、オロチの目の前でマイとイチコが戦っている。しかし戦いは劣勢、オロチの光線や進撃を前に踏み潰されそうになっている。


「いいの? でも大丈夫よね。ナナにとっては仲間の死も苦痛に感じない。心なんてすこしも傷つかないわよね」


 確かにそうだ。もしマイやイチコが死んでも私の心は傷つかない。


 だけど違う。私はそうなりたくないのだ。大事な大事な仲間が死んでも平気で生きていられる岩見ナナにはなりたくないのだ。


 だったら、私はもっともっと強い化け物になるしかない。


 私は胸に手を当てる。そこには熱い鼓動だけではなく、力強いエネルギーを感じた。


「だったら、私も本気で行くよ」


 私は私の中のエネルギーを自覚し、身体のリミッター、人である規制を破ったのだ。


 私は肉体をウジの入った袋のように脈動させる。そこから肉体を分離させ、別の肉塊を出現させた。


 つまりそれは私の分身体だった。


「素晴らしいわ……ナナ」


 私はネズミ算形式に肉体を別け、一気に身体を増殖させる。影分身とも言うのだろうか、凄まじい速度で私は私を造り、自己複製を繰り返した。


 おそらく水無月には私がどれかを分からなくなるほど増殖した時、私たちは全員に号令した。


「攻撃、開始!」


 私たちの群れが大挙して水無月に襲い掛かる。だが一方で水無月は何も抵抗する様子はなく、両腕を広げた。


「ありがとう、ナナ。これで私の役割は終りだわ」


 私たちの無数の無尽の刃を受け、水無月はあっさりと倒れ伏せたのだった。

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