第18話

 私たちは「楽園のパノプティコン」に向かった時と同じく、インタタール理研に向けて防弾車の中で揺られていた。


 椅子は固く、舗装されている道は攻防によって穴だらけとなったせいで大きく揺れ、私たちのお尻と腰をダイレクトに痛めつけてきた。


「そういやさ。スワンプマンは何を動力に回復したり変形するんだ?」


 車の中で問いを投げかけたのはイチコだった。


「さあ? スワンプマンの仕様書には何も書かれていなかったね。言われてみれば不思議だ」


「だろ。私の場合は魔法器官が魔素の原料になってるけどよ。スワンプマンはどうなんだ? まさかどこでもドアから肉塊を仕入れているわけじゃないよな?」


 マイとイチコはそう言いつつ、私の方を見る。そんな目で見られたところで、私にはそんな話について全く知らなかった。


「そんなの、知るわけないよ」


「だよなあ」


 スワンプマンについては私にとって謎だらけだ。マイは多少知っているらしいが、あまり話してくれない。説明が難しいのだろうか。


「そういえば、水無月はスワンプマンのことには詳しそうだったよ。それにラストナンバーズって言葉も言ってた」


「ラストナンバーズ? それは初耳だね」


 ラストナンバーズ、水無月が私と自分は特別である理由をそう言った。しかしそんな言葉では何を示しているか予想もつかない。


「ラストナンバーズ……、ラストだから最終形態? それとも一番最後に造られたから? んー……」


 マイは自分の情報とその言葉の意味を照らし合わせようとするも、答えは出ないようだ。


 そうしている間に、防弾車が止まる。どうやら前線に到着したようだ。


「身を低くして出てください! 既に抗戦を開始しているようです。流れ弾には気を付けて!」


 運転手が忠告する間も、窓や防弾の装甲に弾が当たる音がする。思ったよりもだいぶ激戦地区に降ろされたらしい。


 私たちは運転手に言われた通り身を低くし、防弾車から離れる。すると防弾車は一目散に戦場から離れて行った。


「ウリエル部隊か!」


 私たちは戦場の中でどこへ行こうか迷っていると、塹壕の中に隠れている部隊長らしき男に声を掛けられた。


「状況は?」


 私たちはマイを先頭に塹壕へ潜り込むと、泥のように湿った地面を踏みながら部隊長に近づいた。


「火力ではこちらが押している。だが塹壕に入り込んだ敵の生体兵器に手間取っている。奴らは近接仕様の化け物だ。多少の鉛玉じゃあ太刀打ちできない」


「分かった。そちらはこちらが対応する。場所は?」


「西に向かって突き当りを右だ。そうすれば化け物のいる前線に向かえる。気を付けろよ!」


 部隊長は拳を振って私たちを勇気づけてくれると、自分は部隊の指揮へと戻って行った。


 私たちは部隊長に言われた通り道を進むと、銃声が近づいてくる。そしてさらに進むと、何故だか人気が無くなってきたのだった。


「誰もいない……?」


 私は注意深く周囲を見ると、近くには味方兵士の惨殺死体が転がっている。近づいて調べてみると、その切り口はまだ新しく鮮血が流れていた。


 敵は、直ぐ近くにいる。


 私は右手を刃に変形させ、イチコは両腕を構える。そしてマイは拳銃を胸に抱えるように構えた。


 その時、塹壕の陰から何かが飛び出した。


「エネミーコンタクト!」


 私が皆の前に立って飛び出してきたものを一閃する。しかしそれは味方の死体だ。本命ではない。


 本命は死体を突き飛ばした後ろからこちらへ駆けてきていた。


「くっ!?」


 私は意表を突かれたせいで、敵のスワンプマンの打撃をまともに食らう。


 敵のスワンプマンは黒髪短髪で背が低く、両腕は丸いハンマーのように巨大化させていた。


「下がれ、ナナ!私が相手を――」


 イチコが私に代わって前に出ようとするも、別の方向から敵が飛び出す。


 それはポニーテールをした両腕両刃の女性だ。


「……こっちも来たようね」


 更に増援、マイの向く方向には長髪をした片手を日本刀のように長くしたスワンプマンの女性がしずしずと歩いて来ていた。


「水無月以外のスワンプマンが大集合か。こいつはてこずる――」


 イチコがかっこよく修羅場を演出しようとしたところで、急に大音量の破壊音が戦場全体に響き渡った。


「な、なんだあ!?」


 皆がその音の正体を掴めずにいると、急に空が暗くなるのを感じた。


 そう、私たちの空は巨大な何かによって隠されたのだった。

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