第15話
カナタに追われた私はただひたすら逃げた。銃弾が身体を掠め、余波で体勢を崩してもまともに食らわぬように走り続けたのだ。
途中で一般の作業員や警備員と遭遇するも、彼らは突然のカナタの砲撃に巻き込まれて死傷していった。
そんなこんなしている間に、私はついに最上階にあるカナタの狙撃ポイント、逃げ場のないガラスの宮殿に追い詰められてしまった。
「!? おいこまれた!」
カナタは乱射しているかと思えば、計画的に私を追い立てていたのだ。
私は悔しさに歯ぎしりするも、後ろからは確実に死神の足音が近づいてきていた。
「ここならもう逃げられないわよ。ナナ」
私は後ろから声を掛けられたのに背筋が凍る。
それでも強がりとばかりに声を振り絞った。
「私は争いたくなかったんだよ」
私の言葉に、カナタも声を震わせていた。
「私だって、本当はこんなことしたくないわよ」
「だったら――」
「でもね。人には都合ってものがあるの。例え私がレジスタンスに寝返ったと知れてたら……」
カナタは何やら物憂げにつぶやきつつも、首を振った。
「もういいの。考えるのはなしよ」
カナタは迷いを捨てたかのように、スコープ越しで私を真っすぐ見た。
――カチャッ。
だがカナタがトリガーを引くも、弾は発射されなかった。
「くっ。残弾!?」
カナタはやはり内心では焦っていたのか、装弾されていた弾数を失念していたようだ。
これは、私にとって降ってわいたようなチャンスだった。
「ごめん。カナタ」
私は瞬時に脚部を膨張させると、跳んだ。
その跳躍は瞬く間に私とカナタの距離を詰めて、こちらの攻撃範囲に入った。
「遅い!」
しかしカナタも戦闘のプロだ。とっさに弾倉ではなく弾丸を1つ装填すると、私を狙う。
私は瞬時に照準に入るも、右腕を膨張させてその視界を遮った。
――ズンッ。という重い銃撃音が腹の底からガラスの窓ガラスを揺らす。
それでも私はかろうじて右腕でカナタの射撃を邪魔し、本体の方は無事だった。
「いたあああああああああ!」
私は痛みをこらえながらも、こん棒のように膨れ上がった逆の腕でカナタの狙撃銃を弾く。するとカナタはその勢いに抗えず、狙撃銃が宙を舞った。
「どうしてだよ! レジスタンスの人たちはいい人ばかりだよ。なのに――」
私が再度説得しようとすると、カナタは大きく首を横に振った。
「私だって解放されるならそうしたいわよ! でもダメなのよ。だって私には――」
カナタは自分の鳩尾(みぞおち)を指さして悲しそうに笑った。
「ここに爆弾が仕掛けられているもの」
私はカナタの言葉を飲み込もうと動揺した。その隙に、カナタの方が先に動いた。
カナタはサイドアームの拳銃を抜いて私の頭部を狙う。
弾丸はなんとか左腕で庇うけれども、カナタはそのまま動いて狙撃銃を拾いに行ったのだ。
「まずい!」
私はカナタの迅速な動きについて行けず、狙撃銃は拾われる。
カナタはためらいもなく狙撃銃を構えると、全く無防備な私を狙い定めた。
「あっ――」
今度は避ける暇さえもない。このまま頭を撃ち抜かれて死ぬ。
私がそう覚悟して瞼を強く噛むように閉じた。
その時だった。
「おいおい、目ってものは死ぬまではっきりと刮目するもんだぜ」
私が全てを諦めた時、心強い声が私を勇気づけてくれた。
そしてカナタの銃弾は閃光を帯びて撃たれるも、私に到達する寸前に青い炎のようなものがそれを弾いたのだ。
「遅れてすまねえな」
私の目の前に現れたのはちっぽけだと頼もしい背中。その持ち主は可憐な少女、青薔薇イチコだった。
「さあ、後はこのイチコさまに全托して任しておきな!」
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