第13話

 私はカナタの希望を聞いて、言われるがまま思い出せる限りの思い出を話した。


 もちろん自分がこことは違う作業場にいた事実や素性は隠し、できる限り本当の話をした。


 嘘にはほんの少しの真実を混ぜればほとんど真の話に聞こえる。実際、カナタは私の話を信じた。


「それは大変だわ。お友達が化け物だったなんて」


「そうなんだよね。私も驚いたよ」


 私はできるだけ自分の出自を隠し、事実をカナタに伝えた。おかげでカナタの信頼は勝ち得たようだ。


「そうなのね。大変だったわね」


 カナタは同情のこもった言葉を呟いた。


「でも本当の過去があるのもつらいものよ」


 カナタは私を通じて過去を思い出したかのように、語りだした。


「私は人工子宮から生まれたの。いわゆる試験官ベイビーね。生まれたけども家族がいない。そこはアナタと同じなのかしらね」


「……」


「だけど家族のようなものはいたは、あくまでも社会教育のためのグループだったけど。同じ魔法症状患者の女性で10歳くらいの歳の差で暮らしていたの。おかげで母親役や姉妹には困らなかったわ。そこは私の方が恵まれていたかもね」


 カナタは悪戯っぽく私に顔を向けた。


「でも魔法症状患者はね、20歳が近くなると魔法器官の破裂を防ぐために処分されるの。それは健康診断で判断されるのだけど、年上の人たちにはそれが死刑宣告の前触れのように思えて気の毒だった。けどね、現実はもっとひどかった」


 カナタはそこで言葉を詰まらせる。話すべきかを迷っているようだった。


「話してよ。絶対に黙っておくから」


 私の言葉に促される形で、カナタはとつとつと話し始めた。


「私が健康診断をしていたある日、偶然にも私を監視する人はいなくてね。私はちょっとした好奇心で健康診断の施設を歩き回ったの。それがいけなかった」


 カナタは思い出すのに苦労しているようにつばを飲み込んだ。


「私は見たの。私よりも幼い子が、魔法敵性が低かったあの子が、生きたまま解剖されていたの。腹を開かれ、色んなチューブを差し込まれて。私はすぐにわかったわ。あれは生きた標本だったの」


 私はその事実に驚き、呟いた。


「人体実験……」


「それよりもひどいわ。魔法器官は保持者が死ねば爆発する。だから生きたまま切り開いて、生きたまま保存する。私は怖くて逃げ出してしまったわ」


 カナタは自分を守るように胸を抱いた。


「私は、誰にも話せなかった。信頼しているグループの姉妹にも、怖くて怖くて、もし情報が洩れれば私も同じようにされるんじゃなくて、怖かったのよ」


「……それは仕方ないよ」


 私はカナタを慰めるように肩に手を置いた。その時、カナタは声にならない泣き声を押し殺していた。


 それから私はカナタと離れて、別行動をする。


 すぐにでもマイに相談しなければ、ならない。そう思ったからだ。


「あ、あった!」


 私はちょうどよく研究員のロッカーから携帯端末を盗むと、マイに教わった番号に電話を掛けた。


「……誰だい」


 私が電話をすると、疑り深いマイの声が聞こえた。


「私だよ。ナナだよ。連絡遅くなってごめんなさい」


「ナナ! よかった。何かあったのかと思った」


「確かに色々あったけど、私は大丈夫だよ」


 そこから私はこんこんとこの場所に来てからの情報を吐き出した。監視塔の様子、敵性魔法症状患者の補足、そして彼女の身の内を余さず報告した。


「……なるほど、それなら相手の魔法少女を懐柔できるかもな」


 マイは私の提案を聞き、納得したように肯定した。


 その返答は私を喜ばせた。マイの同意さえあればカナタを仲間に引き連れるのも可能だ。後は方法やタイミングだ。もしそれを間違えれば誤解を生みかねない。


 そう、誤解を生みかねないのだ。


「ナナ……誰と話しているの」


 だから私はもっと周りを気にするべきだったのだ。

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