第5話

 燦々と照りつける夏の日差しを眺めながら公園の木陰で涼む。

 青すぎる空は雲一つなく高さを測る術もない。

 蝕むような暑さに汗を流しながら一人立つ僕の視界に二人の少女が映った。



「おはようございます」

「もうこんにちわをいう時間だけれだどね。待たせてしまったかしら?」

「いや、僕も今来たところです」


 僕の待ち人はクラスメイトで且つ部活メンバーの鬼塚さんともう一人。


「紹介しておくわね。こちらが先の件の被害者にあたる六芽譜巴りくめ うたはよ。こっちの冴えない人が、おそらくうちのクラスで一番オカルトに詳しい日景灯君」

「鬼塚さんってそんなに人をいじる人でしたっけ?」


 初対面の人の前で一度もされたことのないいじりを受けた。

 しかし冴えないもオカルトに多少詳しいのもその通りだから否定するところはない。

 そんな紹介を受けた六芽さんの様子はどうかと視線を送ると、鬼塚さんを見てニコニコとしている。


「初めまして、日景さん。相談に乗っていただけると聞いて来ました」

「ええっと、初めまして。お役に立てるか分かりませんけどよろしくお願いします」


 ニコニコとした表情のまま僕に挨拶をする六芽さんに挨拶を返す。

 どうやらニコニコとした表情が六芽さんのスタンダードらしく、目を細め口角を上げた表情が印象的だ。

 

「へぇ、日景君の私服は初めて見たけど意外と悪く無いわね」


 そう言われて僕は着慣れない自分の服装を見下ろした。


「いやぁ、恥ずかしながら妹のセンスです」

「そう、いい妹さんね」


 鬼塚さんはそう言うと腕を組んで僕の顔を見上げた。


「……」

「………」


 僕の顔を見上げたまま鬼塚さんは何も言わない。

 一体何事かと鬼塚さんの背後に立つ六芽さんの方に視線を送ると、六芽さんは襟元を指先で摘んで微笑む口を動かした。

 六芽さんの口から声は出ていなかったが、僕はそれで理解理解ができた。


「えっと、その、よく似合ってますね」

「3点。まぁ日景君らしいから合格ね」


 3点なのに合格らしい。

 満点が一桁でなければ落第なのでどうか5点満点であってほしいところ。

 僕の言葉に相応の評価を下した鬼塚さんは組んでいた腕を解いて、スッと遠くを指差した。

 その先を見ると僕は思わず眉を顰めてしまった。


「まさか本当にあそこですか?」

「えぇ、そうよ」


 鬼塚さんの指差す先にはカラフルな幾つもの丸いゴンドラ。

 つまり観覧車が見えていた。


「今日は私達と一緒にあの遊園地で遊んでもらうわ」


 正直に言って遊園地前のこの公園を集合場所にされた時点で多少ながら予感はしていた。

 しかし怪事件の悩み相談でそれは無いだろうとも思っていたが、どうやら本当に遊園地に行くらしい。

 女の子二人と遊園地。

 言葉だけで見れば幸せイベントだが、あまりよく知らない部活メンバーと初対面の女の子となれば気まずさは語るまでも無い。


「これが、その不思議な出来事に繋がるんですか?」

「えぇ、だから遊園地に来たのよ」


 そう言う鬼塚さんの表情は真剣そのものだ。

 だから僕もここまで来たのだから。


「付き合わせてしまってごめんなさい」


 六芽さんはニコニコとした表情のまま僕に頭を少しだけ下げた。

 六芽さんはどうやら僕の気まずさを感じ取ってくれているようだが、僕としては謝ってもらう必要など少しも無い。


「いえ、もし本当に不思議な事っていうのを感じられるなら、僕も絶対に見てみたいんです」


 僕は僕の事を知るためならば、どんな出来事にでも踏み込めるのだから。


 



 



 

 


 


 


 




 










 

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