第3話
七月二五日。
僕はベッドの上で目を覚ました。
昨日二十四日、夕方から夜にかけての記憶が一切ない。
悪夢を見ていたような気がするが忘れてしまった。
忘れてしまうくらいなので大したことは無いだろうと思い霞のような記憶を完全に手放す。
「七時か」
伸びをしながら不思議とすっきりした気分で体を起こして制服を着替えていく。
数分ほどかけて着替え終わったところで突然部屋の扉が押し開かれた。
「お兄、いつまで寝て……なんだ、起きてたのか」
入ってきたのはエプロン姿の妹、日和だった。
妹とは言っても血は繋がっておらず、そもそも誕生日は僕の方が少し早いが基本的には同い年だ。
とある事情から僕はこの日和と長い間二人暮らしをしている。
「……ノックくらいしなよ、日和」
「年頃ぶって無いで早く来てよ、朝食できてるからさ」
そう言って日和は部屋を出て行った。
「年頃って、同い年じゃん」
そんなことを呟きながら僕も日和の後に続く。
扉を開けて廊下を進み、階段を降りてリビングへ。
朝食の匂いを嗅ぎながら既に2人分の食事が用意されているテーブルの奥側に座る。
「もう、お兄が遅いから朝食冷めちゃうとこだったじゃん」
そうぼやきながらやってきた日和は冷蔵庫から持ってきていた麦茶をテーブルに置いて、エプロンを脱ぎながらもう一方の席に腰掛けた。
「ごめん、なんか疲れててさ」
言い訳をしながら両手を合わせる僕を不満げな表情の日和が薄目で見ていた。
「私が帰ってきた時には寝てたけどね」
「そうなの?」
僕と同じように両手を合わせた日和が「いただきます」と言って朝食を食べ始めた。
僕もそれに続きながらなんの気もなしに会話を繋いでいく。
「そだよ。昨日はバイトが長引いたから9時くらいに帰ってきたんだけどその時にはもう寝てたね」
「いやぁ、どうも昨日の記憶が怪しくてさ」
「ふーん、頭でも打ったんじゃない?」
頭……そういえば頭に何かをされたような記憶がある。
しかしそのことについては全く思い出せそうにない。
「まあそれはいいんだけどさ、バイトって最近忙しいのか?」
日和は高校に入ってからバイトを始めている。
お金に困っているわけではないが、今の仕事が好きらしい。
「最近はそうでも無かったんだけどさ、昨日は急に忙しくなったんだ」
「急に?」
「そう、最近そう言うのなかったんだけどね。そういえばお兄は夏休み予定とかあるの?あ、お醤油とって」
かちゃかちゃと食器を鳴らしながらご飯を食べつつ雑談は進む。
朝食のメニューは目玉焼き、ベーコン、お味噌汁、サラダ、ご飯だ。
妹は目玉焼きには醤油をかけて食べる。
ちなみに僕はケチャップだ
「いや、別に予定とかはないかな。コンクールに出す作品を書き上げるまでは部活に行かないとだし」
妹に醤油差しを渡しつつ夏休みの予定を思い出す。
いや、そもそも予定などないのだから思い出すまでもなかった。
「そっか。部活もいいけど気をつけてよね」
「あぁ、例の怪物事件?」
「私も見に行ったけど壁とかヤバかったし、お兄は昔からああいうのにすぐ首突っ込もうとするじゃん」
「いやっ、それは、まぁ、そうだけど」
確かに僕はそういった不思議な出来事には首を突っ込みたがちだ。
そのせいで日和には幾度も迷惑をかけた覚えがある。
「毎度毎度心配させられるこっちの身にもなったよね」
「分かってるって。今回は気をつけるよ」
日和はお行儀悪くも箸を僕に向けつつ責めるような視線を向けてきた。
その行儀の悪さを責めることができないほど迷惑をかけ続けていた僕には文句の一つも言いようがない。
「……ほんと、心配かけないでよね」
日和はそう呟くと残りの朝食を食べ終え、静かに食器を片付け始めた。
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