第3話 早速脱走

「えーと、俺って奴隷かなんかにされます?」


「そんなこと無いですよ!多少のブラックさはあれどちゃんと賃金も払われますよ!」


「今、ブラックって言ったな!ブラックって!やってられっかぁ!」


 天は、大声を上げて走り始める。このままでは、神に使い潰されて死にそうだ。


「てか、逃げても意味ないよー。神界の地図とかも知らないでしょ?」


 頭につかまったままのフィニーが言ってくるがお構いなしだ。捕まれば終わる。ならば無理であろうとも行動しなければならない。


「あらあら」


 女神はのんびりとした口調で、走る天を見守っていた。



「てか、出口どこだ?」


「そんなのもわからないで逃げようとしてるの?あそこに転移門があるじゃん!」


 と言ってくる。


「ナイス、フィニー!てか教えて良いの?」


 転移門に突っ込みながら聞く。フィニーが強力してくれるというのには、驚きだった。


「どうせ、そんな長い時間逃げられないだろうし。面白いものも見られるかなぁって!」


「後で怒られても知らないからなぁ!」


 転移門を抜けると、草原に立っていた。後ろには、先程通ってきた門があった。そこを通り抜けて来たのだろうと思う。


「とりあえず、逃げないと」


 いつ追っ手が来るかはわからないためすぐにでも走り出す。こんなことなら運動部にでも入っておくべきだったな……と思う。


「追っ手は、誰が来るかなぁ?お母様のお友達の剣神様かなぁ〜。それとも、魔導神様とか?」


「なんでそんな厄介そうな友達がいるんだよぁ!」


 そんなのに追われたりすれば、一瞬で終わるだろうと思う。見つからないことを祈るのみだ。




「あそこにあるのが街か……住んでるのって神様しかいない感じ?てか、空に浮いてるのヤバっ!あれもスキル?」


 草原の遥先の方向、そこにはとてつもない数の家々が立ち並び、その上空には豪華な城が浮かんでいた。その出立には、息が漏れるものだ。


「空にあるのは、さっきまでいた場所だよー?あそこで、転移者とかを迎えてるのー」


「あそこにいたのか!にしては随分と距離を取れたもんだな」


「だって、転移門って行きたい場所を意識するのが大事だからね〜。逃げることを考えてたからここに出てきたんじゃない?」


 そんな仕組みになってるのかぁ……とフィニーの説明に耳を傾けながら頷く。まあ、出来るだけ遠くに行けただけマシだろうとは思うが。


「遠くまで来てるなら、これは逃げられそうか?街と反対側に向かおう」


 すぐさま回れ右して、走り始める。持久走は、得意ではないためゆっくりめだ。


「これじゃあ、日が暮れそう〜。もっと走らないと」


「温存って言葉知ってるか?見つかった時に体力残してないと逃げられないからな」


「いやいや〜、見つかったらそこで終わりだよ」


フィニーは呑気に笑っている。一応、後ろの方も見ておこうかと思いながら街の方を見てみる。街からは誰かが出てきている様子もないため、今の所大丈夫そうだ。


「あ、追いかけてきそう。あれは、剣神様かなぁ?」


 とフィニーが言い出す。


「どこにもいないじゃん?」


 周囲を見渡しながら聞き返す。冗談にしては笑えないものだ。


「あそこだよ〜。空のお城!」


 と指を刺しているため、その方角を見てみると何かが物凄い勢いでこちらに飛んできている。


「はぁ?嘘だろ!」


 天が驚きの声を上げた直後に、音を立てて近くに何かが飛来する。砂煙が周囲に舞い、それもすぐに晴れる。


「転移神ちゃんに、頼まれて来てみたがあっさりと見つけられて良かったよ。少年」


 背中に剣を背負った長い赤髪の女性だ。服は、動きやすそうな物であるが豪華さも感じさせる物だ。背中には翼もあるが、直後に消えた。


「ついてないね〜、剣神様だよ」


「おお、フィニーちゃん久しぶり!一緒に逃げるなんて愛の逃避行かな?」


 笑いながらこちらに向かってくる。


「はははは……笑えないな。終わった、終わったじゃん。俺の人生……」


 これは逃げきれないと悟る。


「立ち向かって来るくらいは、考えてたんだけど。諦めたかぁ」


「だってチキンそうだし〜」


 とフィニーは笑っている。


 こうして天の逃走劇、逃走とも言えないお粗末な脱走は、散歩感覚でやってきた剣神によってあっさりと捕縛されるのだった。


 これは無理だよぉ、と天はシクシク泣くのだった。

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