1-29 戦い終わって
アークデーモン撃破から、1時間後―
心身ともに疲弊した俺は、自宅に向けて軽自動車を走らせていた。
体力は対魔物砲(仮)の発射で、精神はあの後<パティと一緒に住んでいるのか?>と尭姫に30分程問い詰められたことで消耗してしまった。
アークデーモンを倒した報告を受けて、逃げていた鈴賀市に退魔官や警察官がちらほらと戻ってきたため、目撃される前に帰宅するという理由で尭姫からようやく解放された。
「智也! 休みになったら、部屋に確認しに行くからねー!」
その場(尭姫)から、足早に逃げるように立ち去る俺に、後方からそのような声が聞こえていたが、俺は聞こえないふりをして戦場を後にする。
「今夜はよく眠れそうだ… というか、もう眠い。このままでは、事故るな… よし、今日は近くのホテルに泊まろう!」
この疲れた状態で、パティの相手をする事を想像するとゲンナリしたので、俺は高速を降りると近くのビジネスホテルで一泊する。
人とは往々にして判断を誤ることがある。
俺なんて、特に何度も判断を誤ってきた。
退魔官になったこと
尭姫にパティと一緒に暮らすことを初期段階で話さなかったこと
そして、昨日のうちに帰らなかったこと…
次の日、俺が家に変えると超絶不機嫌なパティに、問答無用に投げ縄で捕縛されてしまう。
パティの説明では、俺の捕縛に使っている投げ縄は<パシャ>と呼ばれるもので、魔力で作られているらしく、俺には解くことが出来ないらしい。
肩から下を縄でぐるぐる巻きにされ床に転がる俺を、パティが冷酷な目で見下ろしており、いつもの明るい呑気な声でなく、低い冷徹な声で俺を尋問してくる。
「トモヤ 正直 ニ コタエルヨ。アノ “タカヒ”とかいう オンナ ト 朝チュン シタノ?」
それは男女の深い関係になった後の恋人が、浮気彼氏を問い詰める感じであり、
(そんな関係ではないのに理不尽だ…)
俺は心の中でそう呟く。
「疲れたから、途中のビジネスホテルで泊まったんだよ。もちろん一人でな!」
だが、パティは信じていない。
「ムシカ ミミなら カジって イイヨ」
「チュウ~」
ムシカはパティの肩から、床に降りると俺の近くまでテクテクと走ってくる。
「やめて、ムシカ! 俺の耳を美味しく頂かないで!」
「チュウ…」
流石のムシカも俺のことを気の毒に思ってくれたのか、躊躇して何かを訴えかけるような感じでパティの方を見る。
「トモヤは パティの『眷属』なんだから、他の オンナと うつつ ヌカス ダメヨ!」
(眷属になった覚えなんて無い!)
俺はパティと契約はしたが、眷属には無っておらず、心の中でそう思ったが口には出さなかった。
何故ならば経験上、感情的になった女性に正論を叩きつけても、余計に話が長引くことを俺は知っていたからだ。
ムシカは耳を齧る代わりに、俺の臭いを嗅ぎ出すと「チュウ、チュウ」鳴いて、パティと何やら会話を始める。
「ムシカ。 トモヤから 他の オンナの ニオイ シナイ ホントウ?」
「チュウ~」
ネズミは並外れた嗅覚を持つとされており、その嗅覚を利用して地雷発見作業をさせている例もある。
そのムシカの嗅覚がそう判断したため、パティも納得したようで縄を解いてくれる。
(ありがとう、ムシカ! お金に余裕ができたら、高級ペレット買ってやるからな。パティには、モヤシばかり食わせてやる!)
俺は心の中でそう決心する。
パティの作ってくれた野菜づくしの昼食を食べた後、俺は月読宮様にはパティの事を報告しておこうと電話することにする。
「 ―と、言うわけです」
「そうですか… 彼女が… それは、驚きですね」
俺から今回の事の顛末を聞いた月読宮様は、電話越しで大変驚いていた。
それもそうだ、あの外タレのようにタメ口で話してきた能天気テレビ好き娘が、なんと魔王の娘だったのだから…
「どうしましょうか?」
「どうすると聞かれても、どうしようもないですよね?」
俺は月読宮様に今後のことを伺うと、このような返事が返ってきたが、俺はその意味が解らず言葉の意味を尋ねる。
「それは、一体?」
だが、月読宮様の答えは、よく考えれば解るものであった。
「仮に私が<パティを捕らえなさい!>と命令をしたとして、誰がその命令を実行できるのですか? 十二天将が束になっても無理ではないですか?」
「たしかに…」
俺はパティと一緒に居すぎて、彼女がお気楽野菜好き娘にしか思っていなかったが、その認識は大間違いであり、彼女は鼻からビームであのアークデーモンを撃破できる強大な力の持ち主なのだ。性格は幼いところがあるが……
「それに私は、彼女と初めて会った時から、彼女が魔王の娘だと知っていました。だから、アナタに<彼女の面倒と監視>を命じたのです。魔王の娘の彼女が、アナタの元で大人しくしてくれているなら、それに越したことはないですからね」
(そうか、それでパティが問題を起こしたり、逃げ出したりした時は、俺に死で償わせると言ったのか…)
パティが問題を起こせば、恐らく街が吹き飛びだろうし、逃げ出せばこんな危険人物が野放しになってしまう、確かに命を掛けた任務だ…
「いや、俺一人がどうして、命がけでこんな重責を背負わなければならないんですか!?」
俺は電話越しとは言え、無礼にも月読宮様にツッコミを入れてしまう。
「そうですね… 運が悪かったと思ってください」
「そんな!?」
月読宮様は、俺の無礼をスルーしてくれて、そのように返してきてくれる。
まあ、元はと言えば、俺がパティを山で拾ったのが元凶なのだから…
「アナタには気の毒ですが、彼女がアナタを気に入っている間は、引き続き面倒と監視をお願いします」
「わかりました」
俺は前述もあり、月読宮様の指示に素直に従うことにした。
「因みに私が驚いたのは、魔王の娘である彼女が人間に力を貸して、アークデーモンの撃破を手伝ったということにです」
確かに、パティには俺や人間を助ける理由など無い。
この世界の文化を楽しみたければ、また寄生先をかえればいいだけだし、何なら力で街なり市なりを支配してしまえばいいし、人間が討伐に来ても返り討ちすればいい、彼女なら余裕でできるだろう。
月読宮様との電話を切った俺は、会話中に疑問に思ったことを、パティにぶつけることにした。
「おい、パティ。聞きたいことがあるのだが?」
「ナニヨ?」
「山で再開した時、お前<タベモノ ウバウ>と言っていたけど、アレまさかそのままの意味だったのか?」
「ソウダヨー。食べ物 ワタサナカッタラ 奪うつもりだったヨ。そして パティは食べ物 ムシカが トモヤ ダッタヨー」
「チュウ~(悪い鳴き声)!」
「やっぱり、そうだったのか!」
俺は日本語が不自由であんなこと言っていると思ってマイルドに意訳していたが、やはりパティはそのままの恐ろしいことを考えて、実行するつもりだったのだ。
「じゃあ、次だ。こっちのほうが、聞きたかったことだ。あのアークデーモンは、お前が作り出したのか?」
「ソウダヨ」
「どうして!?」
「ソレが 召喚の契約 ダカラヨ」
パティの説明した内容はこうであった。
パティが自分の世界で両親と仲間と暮らしていると、召喚のゲートが開いたらしい。
そのゲートに入れば召喚の契約成立となって、貢物である人間666人の肉と霊力を食べられるが、その代わりに人間界に行って召喚者に強大な力を与えなければならない。
だが、パティの両親や取り巻きの支配級魔族達は、
「666人ぐらいで、わざわざ人間界に行って、力なんて与えたくないよねー」
となり、誰もゲートに入ろうとしなかった。
そこで、以前から人間界に興味を持っていたパティが、人間界に行きたいと言い出す。
当然、娘が可愛くて仕方がない両親は大反対。
だが、パティも当然駄々をコネまくる。
結局折れた両親が、象頭とピナーカを持たせ、お目付け役としてムシカを付けて、人間界に向かうことになった。
因みにパティは、666人の霊力も肉もいらなかったので、受け取らなかったらしい。
だが、召喚はされたので契約として力を与えたらしい。
だが、その力は強大すぎて、教主は人間の姿を保てなくなり、心も体も魔力に取り込まれ、あのような姿になったのだそうだ。
そして、教主に力を与えたパティは魔力を大幅に失いはしたが、人間界に留まりそこに丁度俺達が来て、魔族だとバレたら人間界を楽しめないので、人間のフリをしてやり過ごすことにした。
施設を脱出して尭姫に、ヘリまで連れて行かれたパティは隙を見て脱走。
山を徘徊するが、食べるものがなくお腹が減っていた所に、いい匂いがしてきたので、その場所に向かったら俺が居たらしい。
施設で俺が仲間と自分を命がけで逃した事、食べ物もくれた事で、
(この人間は仲間想いのお人好しだから、自分を匿ってくれるかもしれない)
そう考え、この国に居たいとお願いすると思った通り承諾したので、しばらく世話になろう、自分に変なことをしようとしたら、殺せばいいのだからと考えながら…
そのような極悪な考えをしているとも知らず、俺はパティを部屋に迎え入れてしまったのだった。
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