1-30  質問と尋問





「最後に、どうして俺を 人間を助けてくれたんだ?」

「そっ ソレハ…」


 俺の質問にパティは、即答せずにモジモジし始める。


「それは?」


 パティは自分の反応に俺が何の反応も見せずに、そう普通に聞き直したので、ほっぺたをぷぅー膨らませて、


「トモヤ ノ ドンカン! アンポンタン! 〇〇○○!」


 そう言って、部屋から出て行ってしまった。


「誰が〇〇○○だ、コラー! 車に気をつけるんだぞー!」


 俺は部屋を出ていったパティを玄関まで追いかけて、遠ざかる背中にそう声を掛けたが、


「気をつけるのは車のほうだな…」


 そう考え直しながら、部屋の中に戻る。


 その頃、ある場所でも話し合いがおこなわれていた。


「十二天将が三人も殉職して、他にも大勢の殉職者を出し、尚且10式戦車3両合計45億が破壊とは…」


「街の損害はもっとだぞ…」


「だから、私はあのような数合わせで十二天将にした者達ではなく、正規の十二天将を派遣しようと行ったのだ!」


「貴様がいつそのような事を言ったのだ! 貴様も正規の十二天将は各国要人の護衛に回すのに賛成したではないか!」


「そもそも、アークデーモンの強さの見積もりが誤っていたのだ! 誰だ!? 施設の倒壊ぐらいで、消息不明になるようなやつなどたいした事ないと言ったのは!」


 それは、退魔庁の幹部達で、相変わらず今後の方針より責任転嫁を優先していた。


 そして、いつもの所に話を持っていく。


「そもそも、現場がもっと正確なアークデーモンのデータを送ってこなかったのが悪い」


「確かにあのデータでは、我らがアークデーモンの戦闘力を過小に見積もってしまったのも無理はないな」


「そもそも、今回の戦闘の被害も現場がもっと正確で迅速な情報を我々に送ってきていれば、多少は抑えることができたはずだ」


「では、責任は現場とその責任者だな」

「現場の幹部の首を総挿げ替えせねば、国民は納得しないだろう」


「そうなると、基地司令と副司令は左遷。参謀は… 参謀も左遷でいいか。隊長は― 」


「もちろん、貴方達も今回の事で責任のある者は、懲戒解雇ですよ」


 突然会議室の扉を開くと、武装した近衛兵が数名と月読宮の護衛である草薙天音が入室してきて、その背後から声を発した主である月読宮が入室してくる。


 そして、月読宮は更に彼らの罪を告発する。


「更に業務上過失致死傷罪でも訴えます。それほどまでに、今回の一連の事件での貴方達の判断の誤りの罪は重い」


「そっ そんな!?」

「どうして、我々が!?」


 月読宮の言葉に、当然彼らは反論と抗議を行う。


 すると、机の影から黒い兎が現れて、月読宮の元にピョンピョンと跳ねて近寄って行くと、彼女の足元で高く跳ねてその肩に乗る。


「貴方達の怠慢と楽観主義の会話は、この子が全て聞いています」


 この黒い兎は月読宮の式神で、この会議室で情報収集を行っていて、口を開くとそこからその成果である小型のテープレコーダーが出てくる。


 そのテープレコーダーを再生すると、彼らの自分達の利益と保身を優先した会話や、そのための不都合な事実を無視するための楽観論からの決定、それらの決定から問題が起きた時の責任転嫁などの会議の内容が流れてくる。


「彼らを拘束しなさい!」


 月読宮の命令で、彼らは近衛兵に拘束されながら、「我々は悪くない!」「我々は国家のために、国民のために」と言い訳をしていたが、拘束され連行されていく。


 会議室には、月読宮と天音、今回の一連の事件で良識を唱えていた者、3人が残っている。


 例え良識を唱えても、数が少数であれば間違った政策に決まるのが、多数決の恐ろしい側面である。


 そして、その3人の中に智也の祖父・八尺瓊玄斎の姿もあった。


 彼は厳格な男ではあるが無能ではない、智也に厳しかったのも彼の霊力では、退魔師になっても無駄死にするだけだと考えたからであり、実際パティが居なければ今回の戦いで智也は死んでいたであろう。


 月読宮は彼ら3人に自分が選んだ者達を加えると、事後処理と今後の退魔庁の運営を任せる。


(これで、来たる『大厄災』で、少しでも犠牲者が減ればいいのですが…)


 退魔庁から帰る車の中で、月読宮は空を見ながらそのような思いを巡らせる。


 彼女は解っていた、このままでは人間達に勝ち目がないことを…

 ならば、せめて犠牲者が少なくなる事を願うしかなかった。


 月読宮がこの国の未来を憂いていると車内で天音が騒ぎ出す。


「あれ? 月読宮様から頂いたスマホの画面が、おかしなことに!? これ壊れました? 私壊してしまいましたか?!」


 どうやら、月読宮から与えられたスマホが、動かなくなってしまったらしい。

 半泣きの天音から、スマホを受け取ると月読宮は直ぐに問題がわかり、天音に説明を始める。


「ああ、フリーズしていますね。解らないからと適当に画面を押して、複数のアプリを起動させたのでしょう」


「???」


「こういう時は、強制的に電源をリセットしてくれる機能で電源を― 」


「?????」


 だが、機械に疎い天音は月読宮が、何を言っているのかさっぱり理解できていなかった。


 翌日、俺は月読宮様が新兵器開発部門のある東京郊外に用意してくれた部屋に、引っ越すために朝から荷物を纏めていた。


 元々俺がこの伊勢に居たのも、アークデーモンを倒して仲間の仇を取るためであり、その目的を果たした以上、ここにいる理由はないからだ。


 パティは昼食の買い出しに出かけている。


 すると、扉をノックする音が聞こえてくる。


(尭姫か!?)


 俺は咄嗟にそう考える。

 何故なら、パティならノックする必要はなく、晴明なら名乗るであろう。


 無口な炯なら、無言の可能性はあるが、事前に連絡を入れるはずである。


 そうなれば、残りは尭姫であり、彼女なら俺は居留守を使うし、それは長年の付き合いから向こうも予想しているであろう。


 そのための無言でのノックに違いない。


 俺が尭姫と会いたくない理由は、パティの事を詮索されたくないからである。


 だが、東京に行けば月読宮様が用意してくれた部屋が2つあるので、パティとの共同生活の問題が解消されるので、その時こそ胸を張って彼女と会うことが出来る。


 正直それまでは会いたくない。


 俺は、のぞき穴から外を窺うとそこにはジト目がチャームポイントの可愛い我が妹、炯が立っていた。


「よく来たな、炯。来るなら連絡を― 」


 俺がそう言いながら、扉を開けて妹を招き入れようとすると、扉と枠の隙間に素早く足が差し込まれる。


「!?」


 俺が驚いてその足を差し込んだ人物を見ると、それは予想通り尭姫であった。


 彼女は特殊部隊が室内突入する時に使う、のぞき穴の死角である扉の横の壁に張り付き隠れるという手法を用いて、隠れていたのであった。


 足を差し込んで、扉を閉められなくした尭姫は笑顔で俺の肩に手を乗せると


「パティちゃんについて、話を聞きましょうか?」


 そう言いながら、中に入ってくる。


「あっ はい…」


 観念した俺にはそう答えるしかなかった。


 入室した尭姫は、部屋の中をキョロキョロと見ながら警戒している。


「あの象頭ちゃんは、居ないの?」


 どうやら、一昨日威嚇してきた象頭ことパティに、また鼻で威嚇されるのではないかと警戒しているようだ。


「今は出かけているよ」


 俺がそう答えると、尭姫は安心したのか俺を奥のリビングまで連行する。


「智也。アナタ、象頭ちゃん以外にパティちゃんっていう異国の女の子とも一緒に暮らしているそうね?」


 そして、リビングで正座させられた俺は目の前で腕組みをして、仁王立ちする尭姫の尋問を受けることになる。


(まだ付き合ってもいないのに、どうしてこんな尋問を受けなくてはならないんだ…)


 俺はパティの時と同様に、この理不尽な状況に心の中で呟いていた。


 口に出して言えばいいと思われるかもしれないが、そうすれば激しい口撃を受けるのは火を見るより明らかであり、舌戦で女性に勝つのは至難の業である以上、大人しく心の中で思うだけにしておくのが大人の対応なのである。



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