1-28 デモンブレット




「智也! アークデーモンの右手が、かなり治ってきているわ!」


 尭姫の報告を受けた俺は、アークデーモンを見ると奴は腕を動かし始め、腕の調子を窺っている。


 尭姫や晴明は援護したいのは山々ではあるが、先程までの時間稼ぎで霊力を消耗しており、自分の無力さを噛み締めながら事態を見守るしかなかった。


 炯は109XMペイロードで援護してくれているが、彼女も霊力が尽きているのか通常弾での射撃になっており、アークデーモンに対してあまり効果はない。


「何!? パティ、弾はどこにある― あるんですか?」


 俺はアークデーモンの右腕が動く前に攻撃したいので、焦りながらパティに弾の在り処を尋ねる。


 丁寧に言い直したのは、まだ不機嫌であった場合、美味しく頂かれないためである。


「タマは 魔力で ツクリダスヨ。デモ 今回は ジカン ナイから パティが ツクルヨ!」


 そう言うとパティは右の掌を上にして、魔力を込め始める。


「具現セヨ、ヴィグネーシュヴァラストラ」


 パティの掌の上に魔力が矢の形となって姿を現すが、直様50mm砲弾の形に姿を変える。


「2発 シカ ナイカラネ。ダイジに ツカウヨー」


 パティはそう言って、まず具現化させた一発目を俺に手渡す。


「どうして、二発しか無いんだ?」


 俺は当然疑問に思って、パティに尋ねる。


 まあ、膨大な魔力を凝縮した強力な弾なら数は少ないというのは、有り得る話ではあるのだが、相手が対魔物砲(仮)をこんな形状にしたパティである以上、一応聞いておくことにした。


「トモヤ、象サン ノ キバ 何本 アル?」

「2本だな」


「ソウイウコトヨ」

「なるほど、そういうことか……     どういうことだよ!!」


 返ってきた答えは、やはりふざけた答えであった。


 パティはそう言って、新たに作り出した砲弾を防盾の下に取り付け、俺に渡していた砲弾を手に取り、砲身を挟んだ対称の位置に取り付ける。


「ホラ! これで、象サンだよ!」


 彼女言う通り対魔物砲(仮)は防盾を耳、砲弾を牙、砲身を鼻と見立てた象の頭のような姿になる。


「確かに、象の頭に見えるな…。 じゃあねえよ! 砲弾を防盾から露出させたら、相手の攻撃で誘爆するだろうが!!」


 俺は今日もう何度目かわからないツッコミを行った後に、対魔物砲(仮)の砲身の先を地面に当てて、砲弾を取り外すと一つは防盾の内側に、もう一つは手に持って装填作業に入る。


 尾栓の側面に付いているレバーを下げて鎖栓を下ろして薬室を開放すると、鎖栓の装填レールに沿って砲弾を滑らせながら薬室に装填させる。


 そして、レバーを上げて鎖栓を上昇させ薬室を閉じると、尾栓上部にあるロックで固定する。


 この重量の武器を移動しながら装填するのは、少なくとも俺には無理であり、足を止めて行わなければならない。


 アークデーモンが負傷していて攻撃できないから、敵の目の前で呑気に装填しても無事だったが、そうでなければ何処かに身を隠しながら装填しなければ、攻撃する前に死を迎えていたであろう。


(弾は二発で、この扱い悪さ…。これで、威力が大した事なければ、今度は両耳を持って揺さぶってやる!)


 装填を終えた対魔物砲(仮)を持ち上げた時、尭姫が俺に叫びに近い声で呼びかけてくる。


「智也! 早く!」

「!?」


 その声で俺がアークデーモンを見ると、奴は肩まで上げた右腕をこちらに向けて、魔力ビームを発射しようとしていた。


「もう少しだけ、空気読んで大人しくしていろよ!」


 俺は左足を前に右足を後ろに出して肩幅より少し広げ、腰を少し落として踏ん張ると砲口をアークデーモンに向けて、左目を瞑り右目で照星をヤツの体の中心に合わせる。


 先に攻撃をしたのはアークデーモンで、今までで一番の極太魔力ビームを発射する。


「当たれぇーー!!」


 俺は照準に不安を抱きながら、少し遅れて引き金を引く。

 だが、それは杞憂であった。


 対魔物砲(仮)から、放たれたモノは砲弾ではなく正しく魔力ビームで、それはアークデーモンの極太ビームを更に上回る超極太ビームであった。


 その太さはメイン通りの2車線分を余裕でカバーしており、狙いを付ける必要などなかった。


「まっ 眩しい! それに、反動がでかすぎる!!」


 俺は光り輝く超極太魔力ビームを薄目で見ながら、反動で跳ねる砲身を必死に押さえつけながら、更に後ろへの反動にも耐えなければならなかった。


「やっ やばい!」


 反動に耐えられなくなり、砲身が暴れ始めたその時―


「ショウガナイネ。今回だけダヨ?」


 そう言いながら、パティが対魔物砲(仮)を挟んだ対面に立ち、砲身を掴んで反動を抑えてくれる。


 パティのお陰で安定した対魔物砲(仮)から放たれた超極太魔力ビームは、アークデーモンの極太ビームを余裕で飲み込みながら、奴に近づいていくとその巨体をも楽に飲み込んでしまう。


「ワタシノ 救世計画 ガ… グォォォ!!」


 その妄心と共にこの世から消滅させる。


 そして、対魔物砲(仮)から放たれた超極太魔力ビームは、メイン通りを破壊してその軸線上にある後方の建物を消滅させ、ようやくその威力を消失させる。


「アークデーモンが、やったことにしよう!」


 その被害を見た俺は消滅して冥府に向かった奴に、その罪も持っていって貰うことにした。


 砲身を抑えてくれていたパティが、そのまま魔力を込めると対魔物砲(仮)は光を放った後に現世から消え去る。


「ちょっと、智也! あんな派手な武器使うなら、言いなさいよ! 目がチカチカするじゃない!」


 尭姫がツンデレキャラ全開で、そう言いながら近づいてくるが、何故かパティが鼻を縦に振って尭姫を牽制し始める。


「えっ!? なっ 何!? この象さん、私を威嚇してくるんだけど!? 仲間じゃなかったの?」


 自分に向かって鼻を振ってくるパティに、尭姫は困惑している。


「おい、どうして尭姫にそんなことするんだ? 施設でお前を護衛してくれただろう?」

「うう~ パティ、そのオンナ キライダヨ」


 パティはそう言うと不服そうに鼻を縦に小さく振りながら、俺の後ろに隠れるように移動する。


「それより、智也! 脇腹の傷は大丈夫なの!?」

「ああ、大丈夫だ。パティが治してくれたからな」


 俺は心配する尭姫に、パティの方を向きながらそう答える。


「さっきのあの強力な攻撃も、やはりその象の娘(こ)が関係あるのかい?」

「ああ、説明すると長くなるから、省くけどそのとおりだ」


「智也。その娘(こ)って、やっぱり… 魔族なの?」


 尭姫を聞いたパティは鼻を縦に振り、怒りを表現しながらこう反論してくる。


「パティを 魔族と イッショ シナイヨ! パティは、魔族 ノ サラニ 高位 ノ 魔神族 ダヨ!」


「魔神族!?」


 初めて聞く『魔神族』という言葉に、俺達3人は声を揃えて、驚きの声をあげてしまう。


「おい! 魔神族って何だ!?」


 俺が問い詰めると、パティは象頭の口を抑えて「しまった!」といったジェスチャーをした後に


「マジン… ゾク…? パティ ソンナコト イッテナイヨ~」


 わかり易い誤魔化し方をする。


「さっき、言ったじゃないか!」

「ソンナの シラナイヨ! パティ モウ お家 カエルヨ! ムシカ!」


 俺が更に問い詰めるとパティは、急に不機嫌になりムシカの名前を呼ぶ。


「チュウ!」


 パティがムシカの名を呼ぶと、ムシカは彼女の肩からピョンと宙に跳躍してそのまま空中に静止する。


 すると、パティはそのムシカの上にジャンプして乗ると、ムシカはそのままパティを乗せ(?)て、高度を上げながら飛翔すると俺の家のある方向に向かって、飛んでいってしまった。


「最後まで、不思議な娘(こ)だったわね」


 尭姫は、パティが飛んでいった空を見上げながらそう呟くが、俺も同意見である。

 ネズミに乗って空を飛ぶって、どういう世界観だよと俺も思っていたからだ。


 俺はパティの事を聞かれる前に、立ち去ることにする。


「さて、アイツのことが心配だから、俺も帰るよ。面倒なことになるから、アークデーモンはお前達が倒しておいたことにしてくれ。あと、街を破壊したのも全てヤツがやったという事も!」


 そして、去り際に二人にそうしてくれるように伝える。


 俺が倒した事になれば、パティのことも明るみに出てしまう恐れがあり、そうなると色々ややこしいことになってしまうからである。


 あと、俺が破壊した責任も奴に押し付ける。


「ちょっと、待ちなさいよ! あの娘(こ)のこと、ちゃんと説明しなさいよ!」


 だが、当然尭姫は、俺を逃さずにパティの事を聞いてくる。


「智也が話したくないってことは、それだけの事情があるんだよ。話せるようになれば、話してくれるよ」


 だが、空気を読める晴明が、助け舟を出してくれる。


「そうでしょうけど…」


 尭姫は晴明の言葉を聞いた後に、不服と心配の混じった表情でそう呟くと、パティの詮索をそれ以上はしてこなくなった。が―


「ねえ、智也! あの娘(こ)と<一緒に住んでいる>って、事はないわよね!?」


 突然核心を突いた質問をしてきて、それに動揺した俺は思わずこのような返しをしてしまう。


「いっ 一緒に!? そんなこと アルワケ ナイヨ~」

「明らかに、動揺しているじゃない! 一緒に住んでいるのね!」


 尭姫に問い詰められた俺は、再び晴明に助け舟を求めると


 ”だから、最初に話しておいたほうがいいよって、僕は言ったじゃないか”


 という目で、俺のことを見ている。


 伏線(フラグ?)回収した所で次回に続く。


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