1-27 象さん砲!
「俺はこれから援護に行くから!」
俺はこれ以上パティと話をしていても仕方がないので、彼女に弓を返してメイン通りに向かって走り出す。
「トモヤ! コレナシで ドウスルヨ!」
「最悪、腕一本犠牲にするから!」
弓を振って俺にアピールしているが、仕えない武器を持って行っても仕方が無いし、『眷属』になる気もないので、無視して尭姫達の援護に向かう。
「モウ! トモヤは ショウガナイヨ! ムシカ イクヨ!」
「チュー!」
パティは左手に持っている象頭を被ると、右手に弓を持って智也の後を追いかける。
メイン通りまで戻ってくると尭姫と晴明が炯の援護を受けて、アークデーモンの周りを走り、魔力ビームを回避しているが、彼女の身体能力を持ってしても中々接近できずにいる。
「しかし、どうする? 霊力擲弾銃を使用しても撃ち負けるし…」
援護には来てみたがどうするか悩んでいると、後ろからパティの俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「トモヤ~ マツヨ~」
振り向くと変装のためか、象頭を被ったパティが追いかけてくる。
「何だ、パティ? 『眷属』にならならないぞ」
「ワカッタヨ。トモヤに シナレタラ パティも こまるから コノ弓を、トモヤでもツカエルようにスルヨー」
パティはそう答えると弓を両手で握ると魔力を込め始める。
すると、そのこの場で一番大きな魔力に反応したアークデーモンが、俺達目掛けて魔力ビームを撃ってくる。
「なっ!? 智也!」
「智也、逃げて!」
魔力ビームの先に俺を見つけた尭姫と晴明は、大声で逃げるように叫ぶが、俺は弓に注意が向いていたために、反応できずに逃げ遅れてしまう。
「オマエ、ウルサイヨ。パティ、いま イソガシイヨ!」
向かってくる魔力ビームに、パティはそう怒りを顕にすると両手で弓に魔力を込めながら、鼻だけをアークデーモンの方を向けると、象頭の鼻先がキラリと光る。
「鼻からビーム(パティストラ)!!」
パティは鼻先から、強力な魔力ビームを発射する。
パティが溜める動作もなく鼻から出した魔力ビームは、俺達の目の前でアークデーモンの魔力ビームと激突するとそのまま楽々と押し返していく。
しかも、パティの意識は弓に向かっているにも関わらず、それでもアークデーモンの魔力ビームを圧倒しており、俺は頼もしさと同時に魔王の娘パティの恐ろしさを肌で感じ取る。
(パティでこの強さなら、魔王はこれ以上の強さなのか? だったら、人類が全ての力を結集したとしても、魔王に勝てるのか…)
俺は心の中でそう考えるが、結論は<無理>だと思考5秒で既に出ており、絶望を感じていた。
そうこうしている間に、パティの魔力ビームはアークデーモンの体まで押し返して、魔力ビームを放っていたその左手を簡単に吹き飛ばしてしまう。
「そんな……」
その光景を見ていた俺、尭姫、晴明、炯、彩花は、その言葉しか出てこなかった。
自分達がアレほど苦戦したアークデーモンの片腕を、パティは片手間で放ったビームで吹き飛ばしたのだから…
左腕を失ったアークデーモンは、俺が負傷させた右腕の回復が済むまでは、攻撃してこないであろう。
(というか、味方識別とか無いのか?)
俺は魔王の娘に攻撃を仕掛けて、返り討ちにあったアークデーモンを見ながら、ふとそう疑問に思う。
もちろん純粋な魔族なら、上位種である魔王の娘に攻撃を仕掛けたりなどしないが、強大な魔力を与えられ人間から支配級魔族になった元教主は、その強大な魔力で理性を失い暴走しているため、霊力を感知した者にお構いなしに攻撃しているのであった。
「何のあの象頭… 象頭?!!」
尭姫は驚きながら、ビームを放ったパティを畏怖の目で見るが、頭が象だと認識すると思わず二度見してしまう。
「あの頭が象で、体が人の形… どこかで見たことがあるような…」
晴明は過去にどこかで見たことがあるような気がして、記憶を遡るが思い出せなかった。
「智也! その… 象…さん? 大丈夫なの?!」
ただ見た目はカワイイ象頭でも、アークデーモンの腕を軽く吹き飛ばした恐ろしい象さんであるため、尭姫は恐る恐る味方なのか聞いてくる。
「ああ、大丈夫だ。この象さんは、少なくとも今は味方だ」
「パティ 象サンだけど象サンじゃないヨ!」
パティは象さん扱いされたのが気に入らなかったのか、鼻を縦に振ってバシバシ叩いてくる。
パティの魔力が注がられた彼女の父の弓は、光り輝きながらその姿を変えていく。
そして、輝きが収まりその姿を見た俺は、その見覚えのある姿に驚く。
「こっ これは! M53インチ対戦車砲!?」
それはパティが以前テレビを見ていた時に、左右に備えた防盾から出ている砲身が象さんに似ていると言っていた兵器であり、ここに来てまさかそんなモノを出してくるとは予想できなかった。
ただし、大きさは流石にスケールダウンされて、全長1700mm、口径50mm、重量20kgとなっており、勿論象の耳のような防盾も装備されている。
そして、車輪やバイポッドなどという甘えは一切ない。
「おい! これは何だ!? どうやって、扱えというんだ!? どうせなら、対戦ロケットや無反動砲にしろよ! よりにもよって、対戦車砲ってどういう訳だ!」
「この子、象サン ミタイデ カワイイヨ!」
「”カワイイヨ!”じゃないんだよ! 形が気に入っているなら、せめて車輪ぐらいつけろ!」
「シャリン ッテ ナニ? パティ ノ スンデタトコロ ソンナ モノ ナカッタヨ」
確かに、魔族が住んでいる所に、車輪は無さそうな気がする。
だが―
「お前、テレビ見て知っているだろうが! 何しらばっくれてるんだ!」
「『眷属』にナラナイ トモヤ ニ そこまで、サービス シナイヨ!」
俺のツッコミに、パティはそう言うとプイッとそっぽを向く。
(殴りたい、この象頭)
俺は心の中でそう思いながら、ある重大な事実に気付く。
それは、そもそもこの武器の問題点など意味をなさなくなる事実である。
「パティ、オマエがもう一撃さっきのビーム撃ってくれれば、戦いは終わると思うんだが?」
この眼の前の能天気ワガママ娘は、まさに『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな』的存在であり、チョイとさっきの<鼻からビーム>をもう一発撃ってくれれば、この戦いは終わるのである。
「『眷属』 デモナイ トモヤ ノ タメニ パティが 戦う ヒツヨウ ナイヨ」
だが、パティはあっさりとこう答えてくる。
「デモ トモヤが 『眷属』ニナル ナラ 戦って アゲテモ イイヨ?」
そして、パティはそう言いながら、象頭を少し上げて顔を出すとチラチラ見てくる。
「これは、どうやって使うんだ?」
俺がその提案にノーの意味を込めてこう答えると、パティはほっぺたを膨らませて、象頭を被りなおすと少し乱暴に<対魔物砲(仮)>を手渡してくる。
対魔物砲(仮)は、予想していたがかなり重く、両腕にズシリと来る。
銃身の下部にトリガー付きのグリップが備え付けられており、その先の側面にフォアグリップも装着されている、一応扱いやすいよう考えてくれているようだ。
とはいえ、バズーカーのように肩に担ぐほうが、これだけの大口径は安定するのだが…
「弾は尾栓からで、垂直鎖栓式か…」
垂直鎖栓式とは、尾栓となる鎖栓がレバーなどで垂直に下げて薬室を開放させ、鎖栓の上部が円形に窪んでいるので、そこを装填レールにできるため弾を込めやすく、装填した後に鎖栓を再び上げて、薬室を密閉してロックする。
人類が長年かけて、積み上げてきた技術の結晶の一つである。
「おい、パティ。垂直鎖栓式なんて、よく知っていたな? こんなもん調べないと解らない構造だぞ! それなのにバイポッドのなしで肩に担つぐでもない手持ち式って、明らかに意図して不便にしている構造じゃねえか!」
俺のツッコミに対して、パティはこのような会話をムシカと始める。
「ムシカ オナカ スイタ?」
「チュー」
「さっきから、ノラ ニャンコが ウルサイから ご飯に シヨウカ~?」
「ちゅうぅぅぅ(最高に悪い鳴き声)!」
そうこの会話は単なる<お腹減った? ご飯にしょうか?>という、”ほのぼの”な内容ではない!
(これ以上、文句言ったら、俺を美味しく頂く気だ!!)
そう、パティは俺を暗に脅しているのだ!
象頭を被っているので、本気かどうか表情から読み取ることが出来ないので、俺は大人しく引き下がることにした。
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